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    青井青蓮

    @AMS2634

    重雲受けしかないです(キッパリ)

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    青井青蓮

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    重雲、先生の講義も真面目に聴き入るだろうし、先生もきっと教え甲斐あるんじゃないかな……なんて考えながら書いた鍾重

    #鍾重
    chung
    #腐向け
    Rot

    知らずに聖地へ招かれる少年の話 雲海に覆われた静謐な山々は、嘗て仙道の試練に臨む者や仙人との縁を求める者が幾度と足を運んだ歴史ある場所である。かの送迎の儀式が執り行われる玉京台の広場中央に鎮座する大香炉――長きに渡り数多の来訪者の祈りを聞き、そして天へと旅立つ幾人かの英霊達を見送ってきたそれに良く似たものが、仙家に続く道の入り口に静かに佇んでいる。しかし玉京台に祀られているものよりも明らかに朽ちかけており、あちこちにあるひび割れや窪みを埋める程の苔が、長らく訪れる者がいないことを物語っている。

    怪異に纏わる依頼や妖魔に関する目撃情報も無く、しかし漠然と時間を持て余す事を由としない重雲は、喧騒と活気溢れる璃月港から遠く離れたこの絶雲の間を訪れていた。仙人が御座す住処へ続く曲がりくねった坂を上り、黄金色に染まった却砂の木々立ち並ぶ道を、丸々とした蛙の小像達に見守られながら粛々と進む。
    寂れた広場に着き、日陰を作る屋根付きの石椅子に腰掛ける。道なりに進めば仙家に見えることも出来ようが、重雲の目的はあくまで鍛錬である。

    ――世俗より離れしこの安寧の地において、決して御心を煩わせるような事は致しませぬ故、ほんのひと時の間だけ御目溢しの程を。

    霊山に踏み入る事への許しを請う言葉を心の中で呟き、暫くしても拒絶の意と取れる禍事が起きない事に、重雲は静かに胸を撫で下ろす。



     青空を二つに裂く様に聳える岩山、そのすぐ傍を小さな島が二つ浮いている。広場から山の頂を見上げれば、島底に浮生石特有の鮮やかな翡翠色を見ることが出来る。
    二つの小島の内、頂より低い位置に浮遊している島からは青い光が天に向かって伸びている。長くこの国を守り続けてきた岩の守護神を模ったとされる巨大な石像が発しているものだ。
    あれだけの巨像を支えながら浮かんでいられるものなのか、人知の及ばぬ原理を目の当たりにした重雲は、次いで頂の上空に浮かぶ島を見やる。島の周りには当然ながら辿り着く為の道らしきものなど無く、島に何があるのかを地上から窺い知ることは出来ない。
    休息を終えた重雲は椅子から立ち上がるとそのまま岩山へ近付き、壁のような岩肌の前に立ち山を見上げる。
    これから目指す山頂は、ほぼ垂直に切り立つ壁によって死角に隠れてしまい、見ることすら叶わない。
    身体を左右に捻り、両肩を大きく回す。短く「よしっ」と意気込むと、岩壁の小さな溝に掛けた指先に力を込める。
    無事登り切ることができれば、あの不思議な小島に近付く手がかりがあるかもしれない。



     広場から見えていた岩山は、想像よりも容易く登り切ることができた。
    それもその筈、首が痛くなる程の高さを誇るそれは、もう一つ奥に悠然と聳え立っているのだ。頂を越え崖伝いに岩山を降り、手頃な距離の段差を見つけ慎重に飛び移る。風の翼を広げ山頂から滑空すれば早いだろうが、それでは鍛錬にならない。
    硬い岩に力強く根付く松の木を横目によじ登り続け、階段のように積み重なった石に螺旋状の変わった模様を見つけると、漸く登り切れた達成感に重雲は一息吐く。
    螺旋模様の階段を上ると、意外な事に人が佇んでいた。石珀が填められた石碑の文字を黒いグローブの指でなぞる後姿は、見覚えのある人物のものだ。
    往生堂の客卿――鍾離。
    石碑に注がれていた視線が気配を察した方へと振り向き僅かに目が見開かれるが、気配の主が堂主の友人でもある顔見知りの少年と見留めると切れ長の目をそっと細めた。

    「ほう、こんなところまで登って来たのか」
    「鍾離殿。まさかこのようなところでお会いするとは」
    「全くだな。鍛錬の最中か?」
    「はい、そんなところです……仙人様のお邪魔にならないよう気を付けながら、ですが」
    「璃月の民が璃月のどこにいようと各々の自由だ。邪念を抱かぬ者まで追い出す程、ここの仙人達は狭量ではない」
    「は、はあ……そう、だと良いのですが」

    仙人様に対して都合よく解釈しているだけではないか?そんな考えが重雲の頭を過ったが、浮かんだ疑問をそのまま胸の内に仕舞い込んだ。



    「……ところで鍾離殿はどうして此処へ?」
    「俺か?俺は――」

    小さくこてんと首を傾げる仕草は無意識によるものか。誠実で生真面目な方士少年の‘少年らしさ’に顔を綻ばせながら鍾離が口を開いたその瞬間。言葉の続きを掻き消すように突然吹きつける風に強く煽られ、重雲の体が大きくよろめく。

    「わっ……――っ!」
    「!!」

    倒れないよう踏み止まろうとして三歩後ずさった先に、硬い足場を踏む感触は訪れない。
    広い璃月で恐らく最も天に近い位置にあるこの場所からもし足でも滑らせ転落しようものなら、まず間違い無く無事では済まないだろう。我が身の危機に余裕を失った状態で、崩れた体勢のまま命綱である風の翼に手をやるなど不可能に近い。
    強張った表情のまま背景の雲海に吸い込まれようとする重雲が無意識に伸ばした手を、鍾離は頭で理解するより先に掴み、そのまま自らの懐へと強く抱き寄せた。

    「大丈夫か?」
    「あっは、はいっ大丈夫、です……」

    人一人の体を持ち上げられそうな強さで下から吹き続ける風は、甲高い竜の嘶きにも似た音で二人の耳を刺す。
    ――気が緩んでいたとは言え、自分とて強くなる為必死に鍛錬に打ち込んできたつもりでいたのだが。
    飛ばされそうになった自分を支えた上で微動だにしない姿はまるで岩石そのものというか。どの様にして鍛えればこれ程に強靭な肉体が得られるのか、折を見て稽古をつけていただくことはできないだろうか。
    強風をものともしない鍾離に羨望と敬意を覚えながら、吹き荒ぶ上昇気流に視線を向ける。
    見渡す限りに広がるは揺蕩うばかりの白雲の海。不思議なことに、大気の乱れを誘うものなど何一つありはしない。

    「これは一体……?」
    「この風は‘道’だ。――あれを見ろ」
    「!あれは……」

    頭上を指す鍾離に重雲も倣い天を見上げると、様々な形の岩石に取り囲まれた鮮やかな翡翠色が二人の真上に浮かんでいた。地上から見えていた浮生石の小島である。

    「あの地へ辿りつく為の風だ。かつての持ち主が放棄して以来、仕掛けが施され道は断たれていたのだが」
    「仕掛け?」
    「恐らく何者かがここ最近のうちに解除したのだろう」
    「……まさか賊の類が?」
    「その心配は無い。仙人に認められない者は山を登ることすら叶わない。仮に辿り着けたとして、あの島には人心を惹き付けるような物など何一つ無いしな」

    そこまで言って言葉を区切り、何かを思い付いた様子で重雲を見やる。
    大きく見開いた目で島底の翡翠をじっと見つめる少年の姿に、鍾離の口角が上がる。

    「……重雲。どうだろう、あの地について知りたいことがあれば、いくつか教えてやれることがあるぞ」

    ――そのかわり、お前が鍛錬に費やすつもりでいた時間を、少しばかり俺にくれないだろうか。
    仙体を手放し、凡人の身となった鍾離が手を伸ばしただけでわかる程に重雲が持つ純陽の温かさは心地が良かった。
    懐かしい住処へこの少年と降り立ち、かつての持ち主の名を告げたら、一体どんな顔をするだろう?
    持ち掛けられた‘取引’の意味を理解した重雲が目を輝かせながら破顔する様を見届け、講義内容を頭の中で整理し始めた鍾離の姿もどこか嬉しそうだった。



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    Replies from the creator

    青井青蓮

    DONEめっちゃ遅れましたが重雲誕生日SSです。ごめんね重雲くん
    9月7日のカクテル言葉を参考にしたお話のつもりです
    いつも通り捏造と、お友達の面々もいますがほぼ重雲と鍾離先生です
    乾杯 朗らかな笑い声に気を取られ、首を傾げる者と連られて笑みを零す者が往来する緋雲の丘の一角。
    声の出所である往生堂の葬儀屋特有の厳かさはなりを潜め、中庭では代替わりして久しい変り者の堂主とその客卿、堂主が招いた友人らがテーブルを囲っていた。

     予め用意しておいたいくつかの題材に沿って、始めに行秋が読み胡桃がそれに続く。流麗に始まり奇抜な形で締め括られできた詩を静聴していた鍾離が暫しの吟味の後に詩に込められたその意味を読み解き、博識な客卿が至極真面目な顔で述べる見解を聴いた重雲は詠み手二人に審査結果を強請られるまでの間笑いを堪えるのに精一杯となる。
     題材が残り僅かとなり、墨の乾ききらない紙がテーブルを占領しだす頃になると、審査員の評価や詩の解釈などそっちのけとなり、笑いながら洒落を掛け合う詩人達の姿についには堪えきれなくなった重雲もついには吹き出し、少年少女が笑い合うその光景に鍾離も連られるように口を押さえくつくつと喉を鳴らす。
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