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    amaneazumaa

    @amaneazumaa
    使い方の練習も兼ねて書き散らかしています。
    魔道祖師はアニメ、陳情令視聴。翻訳版原作読了。ラジドラ未履修。江澄の生き様にもんどりうってる。

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    amaneazumaa

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    少年双傑話の続き。
    少年藍湛とニアミスしますが今回の話には関わらない。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #魏無羨
    WeiWuXian
    #江澄
    lakeshore

    ともしびを手に 5二人を最後に乗せて橋桁が外されると、夜明けと共に船が漕ぎ出された。未だ薄暗いにもかかわらず、力強く皖河を下っていく船の上は長江沿いの都邑へ向かう人と荷物で混み合っている。
    人と荷物をかき分けながら船の端に高く積まれた荷物を見つけると、二人は並んで腰を下ろてし荷物に背中を預けた。
    「これでしばらく、身体を休めることが出来るな」
    魏無羨は大きく身体を伸ばす。すると今度は演技でなく大きなあくびが出た。
    夜通し御剣の術で飛びっぱなしだったのだ。休息を取ったとはいえ気の休まらない山の中だったので、安全な場所で腰を下ろした事により疲労と空腹、ついでに眠気が一気に襲いかかってくる。
    隣の江澄も疲れを隠せない顔で乾坤袋から、竹を切って作った水筒と饅頭を二つ取り出すと、一つを魏無羨に投げて寄越した。受け取ってもそもそと饅頭を囓り腹に収めたが、空腹よりも眠気が勝って、もう一つとは手が伸びない。代わりに懐から隠行符を取り出した。
    太湖から安慶までは一刻半ほどだ。今のうちに睡眠を取って、気力と霊力を回復しておこうと目くらましの術を掛ける。
    「これでスリの類いは問題ないな。邪祟に襲われた場合は……まあ、そんな騒ぎになれば流石に目が覚めるよな――江澄?」
    先ほどから返事がない。横を見ると江澄は饅頭を囓ったまま既に寝ていた。
    「お前……」
    もう少し警戒心を持ってろと溢しつつ囓りかけの饅頭を江澄の懐に押し込み、魏無羨は背中の荷物に体重を預けて目蓋を閉じた。そして呼吸を三つ数えるより早く、強烈な睡魔が訪れる。
    一刻で目が覚める丸薬を飲むことを忘れていたと思い出したが、睡魔には抗えず魏無羨もそのまま意識を手放すしかなかった。


    「起きろ! 魏無羨!」
    乱暴な言葉と共にばしりと頭が叩かれた。相変わらずの乱暴者に、お前はもうちょっと優しく人を起こせないのかと半分寝ながら文句を告げる。
    「ううん……あと一炷香……」
    「何があと一炷香だ! それでお前が起きた試しがあるか――じゃなくて寝過ごしたぞっ!!」
    「――ハアッ!!??」
    眠気が瞬時に吹き飛んだ。飛び起きると太陽が目を焼くほどに眩しく射し込む。
    中天に近い位置の太陽は、どう見ても太湖を出発してから一刻半どころではない。慌てふためきながら船縁から身を乗り出して周囲を見渡すと、上流方面の川沿いに城壁に囲まれた都邑を見つける。
    位置からして安慶ではないだろうが、河口へ向かう船にこのまま乗り続けている意味は無い。
    「戻るぞ!!」
    剣を抜き放つや飛び乗った。隠行の術も同時に解けると、突如に現れた少年修士の姿を驚く乗客の声を背にして、二人は都邑をめがけて飛び立つ。
    「お前あの丸薬飲んでなかったのかよ!」
    「饅頭食ってる途中で寝落ちた奴に言われたくないね!」
    「お前と違って俺は寝汚く無いんだから起こせよ!」
    「だったら安慶で起きてろよ!」
    ぎゃあぎゃあ口論しながら剣で三里ほどの距離を飛んで都邑にたどり着くと、二人は城門の番卒に都邑の名を訊ねた。
    飛びながら大声の口論で息を切らせて現れた少年修士の姿に、すわなにか起きたのかと番卒を勘違いさせつつも、この場所が安慶から四十里ほど離れた銅陵と呼ばれる都邑であることを聞き出した。
    「四十里、だと……」
    凄まじく寝過ごした。そのあまりの寝過ごしように江澄は言葉を無くしたが魏無羨は逆に、ここまで寝過ごしたなら計画の見直しが必要だと冷静さを取り戻し、食事にしようと江澄へ提案をした。
    「寝過ごしたもんは仕方ないからな」
    「何を呑気なこと!」
    「あいつらが追いつくにはまだ時間がある。それに元々、安慶で食事と休憩を取る予定だったろ? 休憩を船の上、銅陵で食事って考えれば予定通りだ」
    「それは一刻以上も寝過ごしてなければの話だろうが。のんびり食事を取ってる時間はない」
    「無理して飛ぶと腹が減りすぎて剣から落ちるぞ」
    腹を満たすのは大事なことだと、魏無羨は反対する江澄の腕を引いて、強引に銅陵の門を潜った。門を潜った大通りの入り口は、どの都市でも内外の人間に向けての店が建ち並ぶ繁華街だ。
    もうすぐ昼時とあって、あちらこちらから料理の匂いが立ち上っている。その魅惑的な香りに、揃って二人の腹が鳴った。
    「な、ほら、江澄の腹は口と違って正直者だなあ」
    「くそ……とっとと食って出発するぞ」
    眠気が引っ込んだ途端に、激しく主張し始める空腹に江澄も流石に反対を撤回したので、食事処が立ち並ぶ一角へと二人は向かった。
    店を構える料理店にや路上に天幕を張る屋台には、早めの中食を取る客で賑わい始めている。雲夢とは全く違う料理を出しているのでつい目移りをしそうになるが、一刻以上寝過ごしたのは事実なのであまりのんびりとはしていられない。
    大きな天幕を張り、人も入っている屋台ならば外れはないだろうと、門の入り口近くの屋台に決める。
    子どもが二人きりで入って来たことに奇妙な顔をされたが、一目で高価と分かる身なりに、腰に佩いた剣で身分のある修士だと分かるや、余計なちょっかいを掛けるような輩は居なかった。
    「食べたら直ぐに出発するぞ」
    時間があれば都邑の中を見物したいものだが、目的は朱家荘だ。道中でゆっくり見物しながら向かい、朱家荘に到着するや待ち構えていた門弟に捕獲される間抜けな様は避けたい。
    「帰りにどこか見物……は出来ないだろうな」
    「蓮花塢直行便が本命だが、大穴で安慶寄り道に賭けるか?」
    蓮花塢直行便に姉さんの排骨蓮藕湯を賭けると江澄はのたまうが、魏無羨だって排骨蓮藕湯を直行便一点賭けに決まってる。
    下らない事を言い合ってるとやがて注文した料理が出てきた。雲夢とは随分違う料理を珍しいと思うより先に空腹の赴くままに箸を伸ばし、奪い合うようにして食べ始めた。
    「――――なんだ?」
    しばしの間二人は夢中になって食べていたが、周囲が浮ついた雰囲気を帯びていることに気が付くと、筍と雉肉の醤油煮を頬張っていた魏無羨は顔を上げる。
    周囲の人々が大通りに視線を向けているので倣って顔を向ければ、白装束を纏った一行の後ろ姿を目にした。
    「あれは、故蘇藍氏か」
    最初は親の喪に服す白い麻服の披麻戴孝かと魏無羨は思ったが、江澄の言葉に一団が剣を佩いているのを見て取った。
    「へえ、あれが。本当に真っ白なんだな」
    整然と歩く様子に、格好も相まって辛気くさいなと思っていると、夜狩と思われる装備をした一行の先頭に、他より頭一つ低い後ろ姿を見つける。その背丈に修士の見習いかとも思ったが、それならば最後尾を歩くだろうし、何よりも背中が僅かに見て取れるだけでも、一行の中で最も上等な服を纏っているのが分かった。
    故蘇藍氏は男女を一緒に行動させないので、女ではない。誰だと考え、ややあって魏無羨は小柄な背中の正体に思い至る。
    「あれが藍家の二公子か」
    五大世家の一つ、藍氏には直系の男子が二人おり、一公子は江厭離と同じ歳でありながら既に号で呼ばれる程に名高い。弟の二公子も大層優秀で、二人よりも一年早い十一の歳に結丹したと、去年の清談会から帰ってきた江楓眠に聞かされたときに、江澄が随分と悔しがっていたのを憶えている。
    銅陵は既に藍氏の縄張りなのだろう。地理としては雲夢よりも遙かに故蘇に近いが、それでも雲深不知処からは遠く離れている。
    己には護衛を付けてもまだ許されない遠出の夜狩に、都邑の中央へ向かって大通りを歩いて行く一行の後ろ姿を眺める江澄が面白くないと鼻を鳴らす。眉間に皺を寄せた渋面を見て魏無羨は苦笑した。
    「本当に負けず嫌いだなぁ、江澄は」
    告げると江澄は五月蠅いと言い返し、最後の雉肉へ箸を伸ばした。魏無羨も箸を伸ばして二人で雉肉を奪い合っている間に、小柄な白い背中は藍氏の一向に埋もれて見えなくなった。
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