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    sgm

    @sgm_md
    相模。思いついたネタ書き散らかし。
    ネタバレに配慮はしてません。
    シブ:https://www.pixiv.net/users/3264629
    マシュマロ:https://marshmallow-qa.com/sgm_md

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    sgm

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    曦澄ワンドロお題「失敗」
    Twitterにあげていたものを微修正版。
    内容は変わりません。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #曦澄

    「なぁ江澄。お前たまに失敗してるよな」
     軽く塩を振って炒った豆を口に放り込みながら向かいに座る魏無羨の言葉に、江澄は片眉を小さく跳ね上げさせた。
    「なんの話だ」
     江澄は山のように積まれた枇杷に手を伸ばした。艶やかな枇杷の尻から皮をむいてかぶりつく。ジワリと口の中に甘味が広がる。
    「いや、澤蕪君の抹額結ぶの」
     話題にしていたからか、ちょうど窓から見える渡り廊下のその先に藍曦臣と藍忘機の姿が見えた。彼らが歩くたびに、長さのある抹額は風に揺れて、ふわりひらりと端を泳がせている。示し合わせたわけでは無いが、魏無羨は藍忘機を。そして江澄は藍曦臣の姿をぼんやりと見つめた。
     江澄が雲夢に帰るのは明日なのをいいことに、朝方まで人の身体を散々弄んでいた男は、背筋を伸ばし、前を向いて穏やかな笑みを湛えて颯爽と歩いている。情欲など知りません、と言ったような聖人面だった。まったくもって腹立たしい。口の中に含んだ枇杷の種をもごもごと存分に咀嚼した後、視線は窓の外に向けたまま懐紙に吐き出す。
     丸い窓枠から二人の姿が見えなくなるまで見送って、江澄は出そうになる欠伸をかみ殺した。ふと魏無羨を見ると、魏無羨も欠伸をしていた。静室でも寒室と同じ状況だったのだろうか。想像しかけた自分に江澄は胸中舌打ちをした。
     むにむにと口元を動かした魏無羨が江澄と同じく枇杷を手に取る。手元の枇杷の皮を真剣にむきながら、「だからぁ」と魏無羨が話題を再開させた。
    「抹額。今日も結び方失敗してたぞ。不細工だった。結び目が」
    「なんで俺が結んでるって決めつけるんだ? 澤蕪君が自分で結んだかもしれないだろ」
    「お前がいるのに? それはないだろ。ちなみに、俺は藍湛の抹額を毎日結んでる」
     大口開けて枇杷にかぶりついた魏無羨を横目に、「いらん情報をわざわざ伝えるな」と毒づいてから茶杯に手を伸ばした。
     まぁ、魏無羨のいう通りだった。初めて身体を繋げた翌朝から、藍曦臣は江澄に抹額を結ぶことを求めた。藍氏にとって抹額は重要なものであるから、その抹額に触れ結ぶことを求められたときは、自分は藍曦臣の特別であるのだと言われたようで嬉しかった。それからというもの、ほぼ毎回同じ場所で同じ朝を迎えた時は江澄が藍曦臣の抹額を結んでいる。一度、あまりにも夜から朝にかけてされた仕打ちに腹が立ち、結ぶことを拒んだら、捨てられた犬のような、食事を横取りされた犬のような、実に情けない顔をしていた。
    「結び目が綺麗な時もあるから、毎回じゃないんだよな。たまーに、不細工になってる。特別な結び方ってわけでもないのに、なんで失敗するんだ?」
     結び方を知らないわけでもあるまいし、と揶揄うわけでもなく、心底不思議だとばかりに魏無羨が首を傾げた。
     江澄は片肘を付き手に頬を乗せると、指先で茶杯のふちを辿った。
     特別な結び方ではないことなど分かっている。小さな子どもでも結べ、両の手指どころか、足の指を足しても足りない回数をすでに結んできている。
     さて、答えるべきか、答えないべきか。わざわざ教えてやる必要などはない。だが、言わなければしつこく聞いてくるだろう。それもまた鬱陶しい。
     ふちを三周ほどなぞったところで、ピタリと指をとめ、茶壺から茶杯に茶を注ぎ、一息に煽る。
    「あれか。わざとだ」
     江澄の回答に、魏無羨がぽかんと口を開ける。間の抜けたその顔に、鼻を鳴らして炒り豆を口に放り込んでやった。
     開いていた口をとじ、もぐもぐと咀嚼し嚥下する魏無羨を面白そうに江澄は眺める。口に入った豆を嚥下すると、魏無羨は瞬きを繰り返した。
    「は? わざと? なんで」
    「藍渙が喜ぶから」
     藍曦臣の抹額を結ぶのに慣れた頃だっただろうか。考え事をしながらだったか、手癖でそうなったかは覚えていないが、一度抹額を結ぶのに失敗したことがあった。結び目が縦になるようなひどい間違いではないが皺がより、すこし跳ねたような結び目になった。慌てて解こうとしたが、そのままで良い、と藍曦臣が解こうとした江澄の手を止めた。ずいぶんと嬉しそうで、それ以降五回に一回ぐらいはわざと結ぶのを失敗していた。そのたびに藍曦臣は口には出さないが至極嬉しそうな顔をする。
    「え、なんで嬉しいんだよ」
    「俺が知るか」
    「知らないのか?」
    「知らん」
     これは、本当だった。何がそんなに嬉しいのか、と聞こうかと思ったこともあったが、聞いてしまったらわざと結び方を失敗する気になれなくなる気がしてやめておいた。知らなくても困らないことは別に知らなくていいだろう。
     江澄の「知らん」という回答が真実であると分かったのか、魏無羨はそれ以上、抹額の結び目について聞いてくることはなかった。



     手にしていた筆を置くと、藍曦臣はそっと自分の抹額の結び目に指先で触れ、小さく口角を上げた。今日も、わざわざ誤った結び方を江澄はしてくれたのだ。
     藍曦臣は、江澄に自分の抹額を結ぶのは当たり前のことだと思ってほしかった。藍氏の抹額は確かに特別なものだ。自分と家族しか触れることができない。「特別な人」だけが触れることができるもの。それは「特別な人」にとっては触れるのは当たり前のもの、とも言える。抹額を結ぶことをお願いした当初、江澄は随分と緊張した面持ちで抹額に触れていた。
     もうあなたは私の特別なのだから、あなたが私の抹額に触れるのは当たり前のことなのだから、そんな恐る恐る触れないで欲しい。そんな遠慮はなくして欲しい。そう思ってはいた。だが、この感覚は藍氏ならではのものだろうから、口で江澄に遠慮なく触って、と言ったところで理解はされないだろう。
     しばらくの間はもどかしい思いをしていた。だが、ある時江澄が結び方を間違えた。今まで皺ひとつなく、慎重にまるで何かの大事な儀式かのように結んでいたのに、その日は何か考え事をしていたのか手癖で結んでいたようだった。自分の抹額に触れながら、自分以外のことを考えていたのだとしたら、それはそれで少しばかり腹立たしいのだが、それでも別のことに気を取られながらも結ぶことができる程度に、江澄の中で抹額を結ぶことが当たり前になったのだと思うと藍曦臣はどうにかなりそうなほどに嬉しかった。なんなら、その抹額はその結び目のまま保存しておきたいぐらいだった。さすがに保存はしなかったが、その日は何度も抹額の結び目に触れた。その時の己の喜びが外に漏れていたのか、それ以来江澄はわざと結び方を間違えてくれる。そのたびに、その時の喜びを藍曦臣は思い出して嬉しくなるのだ。
     皺のある少しゆがんだ結び目をもう一度ゆっくりと撫でて、藍曦臣は再び筆を手に取った。
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    sgm

    DONE去年の交流会でP4P予定してるよーなんて言ってて全然終わってなかったなれそめ曦澄。
    Pixivにも上げてる前半部分です。
    後半は此方:https://poipiku.com/1863633/6085288.html
    読みにくければシブでもどうぞ。
    https://www.pixiv.net/novel/series/7892519
    追憶相相 前編

    「何をぼんやりしていたんだ!」
     じくじくと痛む左腕を抑えながら藍曦臣はまるで他人事かのように自分の胸倉を掴む男の顔を見つめた。
     眉間に深く皺を刻み、元来杏仁型をしているはずの瞳が鋭く尖り藍曦臣をきつく睨みつけてくる。毛を逆立てて怒る様がまるで猫のようだと思ってしまった。
     怒気を隠しもせずあからさまに自分を睨みつけてくる人間は今までにいただろうかと頭の片隅で考える。あの日、あの時、あの場所で、自らの手で命を奪った金光瑶でさえこんなにも怒りをぶつけてくることはなかった。
     胸倉を掴んでいる右手の人差し指にはめられた紫色の指輪が持ち主の怒気に呼応するかのようにパチパチと小さな閃光を走らせる。美しい光に思わず目を奪われていると、舌打ちの音とともに胸倉を乱暴に解放された。勢いに従い二歩ほど下がり、よろよろとそのまま後ろにあった牀榻に腰掛ける。今にも崩れそうな古びた牀榻はギシリと大きな悲鳴を上げた。
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    sgm

    DONE江澄誕としてTwitterに上げていた江澄誕生日おめでとう話
    江澄誕 2021 藍曦臣が蓮花塢の岬に降り立つと蓮花塢周辺は祭りかのように賑わっていた。
     常日頃から活気に溢れ賑やかな場所ではあるのだが、至るところに店が出され山査子飴に飴細工。湯気を出す饅頭に甘豆羹。藍曦臣が食べたことのない物を売っている店もある。一体何の祝い事なのだろうか。今日訪ねると連絡を入れた時、江澄からは特に何も言われていない。忙しくないと良いのだけれどと思いながら周囲の景色を楽しみつつゆっくりと蓮花塢へと歩みを進めた。
     商人の一団が江氏への売り込みのためにか荷台に荷を積んだ馬車を曳いて大門を通っていくのが目に見えた。商人以外にも住民たちだろうか。何やら荷物を手に抱えて大門を通っていく。さらに藍曦臣の横を両手に花や果物を抱えた子どもたちと野菜が入った籠を口に銜えた犬が通りすぎて、やはり大門へと吸い込まれていった。きゃっきゃと随分楽しげな様子だ。駆けていく子どもたちの背を見送りながら彼らに続いてゆっくりと藍曦臣も大門を通った。大門の先、修練場には長蛇の列が出来ていた。先ほどの子どもたちもその列の最後尾に並んでいる。皆が皆、手に何かを抱えていた。列の先には江澄の姿が見える。江澄に手にしていたものを渡し一言二言会話をしてその場を立ち去るようだった。江澄は受け取った物を後ろに控えた門弟に渡し、門弟の隣に立っている主管は何やら帳簿を付けていた。
    5198

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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050