人間曦×人魚澄①蓮の名所と言われる雲夢でも、特に美しいという評判の蓮花湖へやってきた。だが、近くの街の者から聞いたところ、季節外れの野分によって蓮の花は殆ど散ってしまったらしい。それでも折角来たので蓮花湖に行ってみる事にした。
後に藍曦臣はこの選択をした己に心の底から感謝した。
***
住民の言った通り蓮の花は殆ど散ってしまっていたが残っているものもチラホラと見受けられた。僅かしかないこの状況でも蓮花湖はとても美しく、もし全ての蓮が満開ならばどんなに美しいだろうかと想像してみる。
そんな風にのんびりと湖畔を巡っていると、誰かが岸辺に倒れている事に気がつく。
「大丈夫ですか!?!?」
声をかけながら近づいていくとその人物は服を着ていない事に気付き、気恥ずかしさを感じながらも側にしゃがみ込み状態を確認する。水から上がっている上半身が傷だらけだった。下半身は、と視線を水中に向けるとそこにあったのは宝石のような鱗に覆われた魚の尾だった。
(彼は…人ではないのか)
とても美しい尾鰭にも傷があるらしく水中に大量の血が漂っていた。
藍曦臣はそっと手当をしようと触れるとパッと閉じられた瞼が開く。
大丈夫かと声をかけようとした途端、
「キシャァァァッッッッ!!!!!」
その口から発せられた鋭い声と共に腕が振り上げられる。けれど、その腕が振り上げられることはなく、ベシャリと地に頽れる。
「動かないでください!!」
言葉が通じるかどうかはわからないが、動きを制しながら手当を始める。
傷は切り傷が多いが、何か鋭い引っかかってできたものばかりだ。他に多い傷は擦り傷で、下半身は鱗が剥がれて肉が露出してしまっているところが多い。
ヒトではない彼にとっていいのかどうかわからないがとりあえず霊力を送って止血を試みる。様子を見るに、苦痛にはなっていないようだと思いながら手当を続ける。
彼は逃げたそうにしていたが、体がうまく動かないようで大人しくしていた。
「……」
「安心してください。貴方に危害は加えませんよ。ただ手当するだけです」
「…キュゥ」
言葉の意味を理解することは出来ないが、何となく落ち込んでいるように感じた。
やがて、止血は済んだがとてもではないけれど泳げなさそうな彼にどうしようかと悩む。
「……クルルルル」
喉を鳴らすようにして声を発するとそのまま彼は蓮花湖の中に潜っていってしまった。