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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    鍾魈短文「練習」
    凧揚げを一緒にしようと誘う練習をしに鍾離の家に来た魈の話(海灯祭バレ含みます)

    #鍾魈
    Zhongxiao

    練習「ほう……これは」
     珍しいこともあるものだ。
    「鍾離様……その……」
     控えめに叩かれた玄関のドアを開ければ、そこには魈がいた。
    「どうした?」
     何やら言いにくそうに目線をウロウロとさせ、その後俯き、ちらりと上目遣いで俺を見ている。
    「我の……練習相手になっていただけないでしょうか……」
    「…………ほう?」
     思わず間抜けな返答をしてしまった。魈がここを尋ねてくることも珍しいが、例えば、魈が槍の稽古をつけて欲しいと思っていた場合このような言い方はしない。つまり、手合わせの誘いではないということだ。
     ゆっくり話を聞こうと家の中へ魈を通す。椅子に座るように言えば、立ったままで良いと話を始めた。
    「我は……その、他者を誘って遊びに興じたことがなく……」
    「ふむ」
    「鍾離様に頼むべきではないことはわかっております……しかし、同じ仙人相手では練習相手にはならず、旅人も今は璃月から離れており、その……」
    「つまり、俺を遊びに誘いに来たわけか?」
    「あっ…………その…………はい」
     魈は頬ならず耳までも朱に染めていた。ここまで来るのにも相当頑張って来たと見える。このような誘い方をされれば誰でも是と答えそうなものだが、この姿を凡人に見せることが出来ようか。否、俺が出来そうもない。
    「鍾離様は、我に考えるようにああ仰ったのはわかっております。まずは旅館で普段接する機会の多い者に声を掛けてみようとは思ったのですが、その、なんと言えば良いかわからなかったのです」
    「普通に言えば良いではないか。今時間はあるか? 共に凧揚げなどどうか? と」
    「そうなのですが……誘った手前、揚げている間も世間話などする必要があると感じました。我は凡人と話せる世間話も持ち合わせておらず、長時間共にいるのは業障の影響も考えてしまい、やはり無理だと感じました」
    「そうか」
    「しかし、鍾離様は我に見聞を広げろと仰いました。ですから、練習をすればいずれ習得できるやもしれないと思ったのです」
     前向きなのか後ろ向きなのか、魈の気持ちが矛盾しているのが面白いと感じた。俗世で暮らし始めた鍾離の影響なのか、以前の魈ならば凧揚げを凡人と共にしてみようなどとは思わなかっただろう。
    「いいだろう。降魔大聖の練習相手に選んでいただけるとは、幸甚の至りだ」
    「うぅ……それはおやめください……」
    「では、早速だが始めよう。まずは誘ってみてくれ」
    「はい……では……鍾離様……今時間はありますか……? 我と共に凧揚げなど、していただけないでしょうか」
    「……お前は凡人相手にはそのような言い方はしないだろう? もっと砕けた言い方でいいぞ?」
    「うっ、そうですね……そう、ですね……」
     これは逆にいい機会なのかもしれないと鍾離も思った。今なら、魈が敬称もなく鍾離に話しかける練習にもなる気がしたのだ。
    「さぁ、もう一度言ってみてくれ」
    「はい……鍾離、殿。その、今時間はある……か? わ、我と共に凧揚げなど、ど、どうだ……?」
    「台詞は悪くないが挙動不審過ぎるな。それでは相手を困らせてしまうぞ。現に俺も今、凧揚げと誘っておきながら闇討ちでもされるのかと思ってしまった」
    「そのようなことは断じてありません!」
    「それはわかっているが、凡人は怯えてしまうだろうな」
    「すみません……」
    「いや、いい。練習だからな。さぁもう一度しようか」
    「はい……」
     その後しばらく時間を掛けて、魈は先程の台詞をすらすらと言い、鍾離をなんとか誘えるようになっていった。
     では実際に凧揚げをする練習もしようと璃月港を離れ、望舒旅館に置いてある凧を持ってきてもらい帰離原に再び集まった。
    「俺から話しかけては意味がない。お前から話を振ってくれ」
    「はい……今日は天気が良く、凧揚げをするには最適な気候で……だな」
    「そうだな。降魔大聖とこうして昼からのんびりと凧揚げが出来るとは、なんと良い休日なのだろうか」
    「我も、そう思います……いや……そう思う」
     頑張って敬語を使わないように話しかけてくる様がなんともいじらしい。そこから話題が思いつかないようで、しばし沈黙の時が流れた。
    「世間話の候補としては、天気、休日の過ごし方、食の好み、最新の店の情報など色々あるぞ」
    「そ、そんなにあるのですね……璃月では最近何が流行っているのでしょうか?」
    「そうだな。閑雲のカラクリの中に自動で食事を作ってくれるというものがあるのだが、女人の間で大層好評らしく俺も先日それをもらった。今度試しに調理してみようと思うのだが、お前も食べに来るか?」
    「はい。カラクリで調理とは……呼んでくだされば行きます」
     また敬語に戻ってしまっているが、そもそも魈は世間話をすることに慣れていない。なんでもない会話を練習するという意味でも、この凧揚げには大いに意味があると感じた。
     その後日が暮れるまでゆっくりと凧揚げをしながら雑談に興じた。魈は鍾離の話を聞くばかりではなく、戸惑いながらも頑張って話題を探し、会話をなんとか続けてくれていた。
    「そろそろ暗くなってきたな。戻るとしようか」
    「あ、すみません……時間も考えず……以後気をつけます」
    「良い。俺もすっかり楽しんでしまった。また機会があれば誘ってくれると嬉しい」
    「今日の自分の振る舞いを省みると、まだ他者を誘うには力量不足と感じました……まだ練習は必要かと思いますので、ご迷惑でなければ、またお誘いします」
    「うむ。また誘ってくれ。魈、今日は楽しめたか? そもそもこの行為が苦痛ならば、無理にすることはない」
    「……今日、鍾離様と凧揚げに興じたことは……すみません。まだ楽しめる所までは至っておりませんが、嫌ではありませんでした」
    「そうか」
     鍾離は、魈の頭を撫でてやりたい気持ちを抑えた。成長を見届けるというのは、心が温かくなるものだ。例えそれが、いずれ鍾離の手から離れていく一歩だとしても。
     そうなった時に、ちゃんと離れられるであろうか。送り出してあげられるだろうか。
    「……無理だな」
    「……どうかされましたか?」
    「いや、なんでもない。いずれまた会おう」
    「? はい」
     自分から友を見つけてはどうだと言った癖に、いざ魈が自分の手から離れていくことを手放しに喜んであげられそうにない自分がいた。
     これはどうやら、俺にも練習が必要なのかもしれないと、閑雲に相談してみようと思った。
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