今日きみを食べたい「それ何に使うんだ」
マトリフの問いに、ガンガディアは視線を持っていた長ネギからマトリフへと移した。
「今夜は鍋にしようかと」
「じゃあシメは雑炊がいい」
「ではそうしよう」
ガンガディアは長ネギを買い物かごへと入れる。長いからどうしてもかごから飛び出るそれを、どうにか邪魔にならないようにと収めた。
年末のスーパーマーケットはいつもより混雑している。家族連れの買い物客が多く、そんな客向けに用意された大人数用の肉などがずらりと陳列されていた。
ガンガディアとマトリフはいつも通りの二人分の食材をかごへと入れながら、客の合間をぬって移動していく。
「ああそうだ、酒は買っておくのかね?」
家にあった酒はマトリフがクリスマスに飲み尽くした気がして、ガンガディアはマトリフに問いかける。しかし返事は返ってこず、振り向けばそこにマトリフはいなかった。どこだろうとあたりを見ると、先ほどいた場所あたりにマトリフがいるのが見えた。人が多すぎて前に進めないらしい。
ガンガディアが待っていると、マトリフはなんとかこちらへとやってきた。
「人多すぎだろ」
マトリフは暑いのかマフラーを緩めていた。ガンガディアは背が高いので視界も悪くないが、マトリフの背丈では人の波に埋もれてしまうのだろう。
「手を出して」
ガンガディアが言うと、マトリフはポケットに入れていた手を出した。ガンガディアはその手を握る。
「これで大丈夫だ」
「おい、外ではよせって言ってるだろ」
マトリフは照れているのか顔が赤かった。ガンガディアは手を離すどころか、さらにぎゅっと手を握る。
「はぐれないためだ」
「ガキじゃねえんだぞ」
「わかっている。あなたとは恋人だ」
言ってからガンガディアはふと気付く。世の中には恋人繋ぎというものがあることを。今は何の変哲もないオーソドックスな繋ぎ方をしていた。
ガンガディアは一旦マトリフの手を離すと、より深く手を重ねる。指と指は絡まり、手のひらは密着した。
「〜ッ!」
何か言いたそうなマトリフの手を引いて歩く。ガンガディアはマトリフと手が繋げて満足だった。