元気の在庫「ガンガディア」
マトリフは言って両手を広げた。ガンガディアはマトリフを見下ろして首を傾げる。
マトリフは突然にやってきたと思えば、ガンガディアの目の前に立った。何やら思い詰めた顔をしており、どうしたのかと思っていたら、突然にガンガディアに向かって両手を広げてみせた。
「……何かね?」
ガンガディアはマトリフの行動が何を意味するのかわからず首を傾げる。ガンガディアを見上げながら両手を広げるマトリフの姿が、おおありくいの威嚇のポーズのように見えた。
はて、私はマトリフを怒らせることをしたのだろうか。ガンガディアは昨日のマトリフの様子を思い返してみたが、特段変わったことは無かったはずだ。
「……ハグだよハグ。抱きしめろ」
マトリフは口を曲げながら言う。どうやら威嚇ではなく、機嫌が悪かったのだろう。
「気が付かなくてすまない。おいで」
ガンガディアは身を屈めてマトリフを受け入れるように腕を広げる。マトリフはいつもなら問答無用で呪文で飛び上がってくるのに、今は両手を広げたまま待っていた。ガンガディアは屈んで床に膝をつくと、そっとマトリフを抱きしめる。小さな身体を傷つけないように、しかし大事に思う気持ちが伝わるように、その身体を抱きしめた。
しばらくそうしていたら、マトリフがぽつりと言った。
「……何があったか聞かねえのかよ」
「あなたが話したいなら聞くよ」
「いい。これで充分だ」
マトリフはガンガディアの胸に顔を埋めて目を閉じる。マトリフが存外に不器用であると知ったのは最近のことだった。
マトリフは甘え下手であった。高い知能のせいか、あるいは性格のせいなのか、マトリフは自らの弱い部分を見せたがらない。強くあることを強いられてきた環境がそうさせるのだとガンガディアは思う。それはガンガディアにも覚えがあるからだ。
だがマトリフは不器用ながらもガンガディアにその弱さを晒している。それが信用の証のように思えた。
「私はいつでもあなたを待っている」
だから、何かに傷付いたり、明日を信じられなくなったら来てほしい。ガンガディアの真摯な言葉がマトリフに囁かれた。