はじめての後で「もう起きていたのかね」
背後から声をかけられて、マトリフはびくりと肩を跳ねさせた。まだ夜が明けきっていない海辺に、マトリフは一人で座り込んでいた。
「……おぅ」
マトリフは振り返らなかった。顔を合わせるのが気まずかったからだ。
ガンガディアは屈むとマトリフの背にそっと手を当てた。
「身体は大丈夫かね。昨夜はあなたに無理をさせてしまって……随分と辛そうだったが」
「言うな言うな。夜の話を朝にするのは野暮だぜ」
マトリフはガンガディアの手を避けるように立ち上がった。回復呪文をかけた身体は傷ひとつない。だがガンガディアに触れられた感触は消えていなかった。囁かれた言葉も耳に残っている。眼差し力強さもそこに籠った熱も、全てが目を瞑っても思い出されてしまって、マトリフは羞恥で肌を赤くさせた。
「どうしたのかねマトリフ」
ガンガディアは不思議そうにマトリフを見ている。マトリフも昨夜は熱に浮かされて睦言の一つも言ったが、朝になれば冷静になってしまった。ガンガディアは急に素っ気なくなったマトリフに困惑してしまう。
「やはり嫌だったのかね。私に抱かれるのは」
「嫌だったわけじゃねえが……」
「ではなぜ私を避けるのかね」
「言わねえとわかんねえのかよ唐変木」
ガンガディアを見ているとマトリフは昨夜の己の痴態をありありと思い出してしまう。それがどうにも居心地が悪くて仕方がなかった。まさか自分があんなに甘ったれた声で行為をねだるだなんて、ガンガディアに抱かれるまで知らなかったのだ。
マトリフは熱くなったうなじを撫でる。どんな顔をしてガンガディアを見ればいいかわからなかった。
「……言ってくれないとわからないよ」
ガンガディアの気落ちした声にマトリフは急に罪悪感を覚えた。マトリフはそろりと振り返る。ガンガディアは悲しそうに視線を落としていた。
「いや、おめえのことが嫌だってわけじゃねえよ。ただ……」
「ただ、何かね」
ガンガディアはマトリフと目線を合わせて顔を寄せてきた。
「だから……は、はず……」
ガンガディアはマトリフの言葉を一言も聞き逃すまいと真剣に見つめてくる。起きたばかりで眼鏡をかけていないせいか、その表情を見ているとやはり昨夜の情景が思い出してしまう。意外にも手慣れた手つきで口付けてきたガンガディアの唇の体温が、今まさに触れられているかのように思い出されてしまう。
「ああッ! おめえはこっち見るな!!」
マトリフは両手でガンガディアの顔を押し除けるとルーラで飛び立った。
後にこのことが原因で二人は拗れるのだが、それはまた別のお話。