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    846_MHA

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    たいみつ。付き合ってる。
    デザイナーみつやくんの眼鏡を買いに行く話。
    モブの眼鏡店員目線。

    #たいみつ

    お眼鏡にかなう 8,000円で眼鏡が買えてしまう今、うちのお店はいわゆる高級眼鏡店と呼ばれる部類に入るだろう。職人さんが丹精込めて作ったフレームはその時を今か今かと待ち侘びながら、ライトの下で光り輝いている。
     私は新卒からこのお店で働いていて、今日までに沢山の人にいろんな眼鏡を提案してきた。眼鏡ひとつで人の印象は全然変わるので、その人に合った眼鏡を見つけてお客様が喜んでくれる瞬間が、この仕事の醍醐味だと思う。
     今日は一日雨予報だったので、お客様の入りは悪いだろうな。こんな日は、商品棚に飾られている眼鏡たちを一つ一つ丁寧に拭くことに専念する。君たちも早く似合いの人の元にいけるといいね。そんなことをつらつら考えていると、お店のドアのベルが鳴った。
     「いらっしゃいませ。」
    ドアの方へ視線を向けると、男性二人組が入ってくるのが見えた。一人は、まず目に入ったのが紫と黒のメッシュの髪。綺麗な顔立ちで、ちょっと中性的な雰囲気がある。洋服もすごくオシャレなので、一瞬でアパレル系の方かな?と見当がつく。もう一人は、大きい。なんというかもう全部大きい。こちらも特徴的な青と黒のメッシュの髪をオールバックにしていて、これまた端正な顔立ちをされている。洋服はTシャツにジーパンというラフな格好なのに、それがもうモデルみたいにかっこいい。逞しい首筋にはタトゥーが入っているのが見える。ものすごい2人組が来た...と一瞬呆けていると、アパレル系(推定)のお客様が「すみません。」と人当たりの良い笑顔で話掛けてきた。
    「眼鏡が欲しいんですけど、オレ今までかけたことないから選び方とか分かんなくて。一緒に良いの探してもらえないですか?」
    「勿論でございます。」
    と応えつつ、頭ではすでにお客様にお似合いの眼鏡を考えていた。初めての眼鏡選びを手伝えるのは気合が入る。
    「お探しなのは普段使い用ですか?」
    「や、普段は裸眼で良いんですけど、最近ミシンとか細かい作業続けると目が疲れるからそういう時にかけたくて...。」
    「無茶ばかりしやがるからだ。」
    「大寿くんうっせえ。」
    お連れ様はタイジュ様というらしい。
    「眼精疲労で少し遠視が出てるのかもしれませんね。レンズに多少の度を入れると改善されるかもしれません。当店では視力の測定も出来ますので、是非ご検討ください。」
    と笑顔で答える。お客様からミシンというワードが出た時、やっぱりなと思った。自分の見る目を信用できて、幸先の良いスタートがきれた。
    「眼鏡のフレームについて、何かご希望などはございますか?」
    「んー。本当に初めて買うからなぁ...。オレ、普段もこんな感じなんですけど、こういう雰囲気に合うやつが良いってくらいかな。」
    洋服がオシャレだったので、何かこだわりがあるかと思ったけどそうでもないみたい。というより、初めての眼鏡選びで分からないっていう方が正しそう。お任せください、お似合いの見つけてみせます。
    「では、ひとまず私がひとつ選ばせていただきますね。そこからお客様のご希望を徐々にお伺いして、お好みの一本を見つけていかれると良いかと思います。」
    このお客様はお顔立ちが華奢だから、フレームは細めのものが良いかな。とても色白なので、ゴールドとかすごく似合いそう。そう思ってまずお勧めしたのが、ボストンタイプで細めのゴールドフレーム。世代問わず人気があって、人を選ばないデザインだ。
    「当店で1番人気のタイプでして。どんなお洋服にも合わせやすいので、初めて眼鏡を買われるお客様にもお勧めです。」
    「確かに、これどんな時でもかけやすそうですね。」
    そう言って眼鏡をかけたお客様は優しい雰囲気が増して、とても可愛らしく親しみやすい印象になる。
    「どう?」
    お客様がタイジュ様の方を振り向く。お二人にかなり身長差があるためお客様が自然と上目遣いになっていて、なんだか見てはいけないものを見てるようでドキドキしてしまう。
    「悪かねえ。」
    「なんだよその答え。」
    「...いきなり決めないで、他のも試してみたらどうだ。」
    「ま、それもそうか。お姉さんすいません、このフレームの別の色かけてみても良いですか。」
    「是非お試しください。」
    形は気に入ってもらえたみたいだ。個人的にはゴールドフレームが可愛らしくて良かったと思うのだが、お連れのタイジュ様の反応がイマイチだったのが気になる。何がダメだったんだろう、可愛すぎたとか?はは、まさかね。なんて考えていたら、タイジュ様は他のフレームを試しているお客様から離れ、一人で眼鏡を物色し始めた。
     お客様は他のフレームも全てお似合いで、正直なところ顔立ちが良いと何をかけても似合うなぁと思ってしまう。これは誉め言葉だけれども、眼鏡を選ぶ上では難点。どれに決めて良いのか決め手が分からなくなってしまうから。案の定、お客様も判断基準がなくて困ってるご様子。
    「やばい、どれが良いか分からんくなってきた。」
    「全部お似合いなので、選ぶの難しいですよね。」
    「あはは、お姉さんたらお世辞上手。うーん、最初だからこれだ!って思う一本にしたいんだけどなぁ...」
    お客様と二人で頭を抱えていると、店内を回っていたタイジュ様が戻ってきた。
    「三ツ谷、これかけてみろ。」
    と言って渡してきたのは、私がお待ちしたのとは正反対の、かなりフレームが太いタイプ。え、それ?このお客様(ミツヤ様っていうのか)にはゴツすぎないかな...なんて言えないので、そちらもお似合いになりそうですね。と笑うしかない。ところが、ミツヤ様がその眼鏡を付けた瞬間、びっくりするくらいフレームと馴染んで、儚げで優しい雰囲気から大人びた印象に変わる。
    「お、良い感じ。」
    「仕事で使うなら、こっちの方がお前に対する客の印象は締まると思う。」
    選んでもらったミツヤ様は、それは嬉しそうに
    「大寿くん、オレのことよく見てんね。」
    と笑った。
    うーん、完敗。あの眼鏡は選択肢にも入っていなくて、プロとしてお似合いのものを見つけられたかったのが悔しい。でもプロなので!接客には噯にも出さないようにする。
    「こちらの眼鏡、とってもお似合いだと思います。」
    「本当ですか?じゃ、これにしようかな。」
    「畏まりました。レンズの度数はいかがいたしますか。」
    「あ、測ります。」
    「ただいま他のお客様が検査に入っておりまして。大変申し訳ないのですが、少々店内お待ちいただけますか。」
    「あ、わかりました。じゃあ大寿くんに似合う眼鏡、探そっか。」
    「?俺は必要ねえ。」
    「最近、自分だって新聞読む時に目細めてんじゃん。見辛いんじゃねえの?」
    「...。」
    如何せんタイジュ様の風格がすごいので、お二人のやりとりにドキドキしてしまう。喧嘩しないよね...?2人でしばらく見つめあった後、タイジュ様は溜息を吐いて
    「好きにしろ。」
    と言った。
    「やりぃ!お姉さん、この強面に似合う眼鏡一緒に探してくれる?」
    「おい。」
    「か、畏まりました...!」
    突然振られてびっくりしたけど、次こそはお似合いのものを見つけてみせる!と、1人心の中で意気込んで、ミツヤ様と一緒に店内を回る。
     タイジュ様も非常に端正なお顔立ちをされてる。骨格もしっかりしていて、鼻筋がスッと通っていて綺麗なので、銀縁のシャープめなフレームなんてお似合いになりそう。ということで私が選んだのは、シルバーの細いオーバルタイプ。
    「こちら、今年出た新作です。お連れ様はお顔立ちがシャープめなので、オーバルタイプの物がお似合いかと。」
    「おぉー、めっちゃ似合いそう。大寿くん、かけてかけて。」
    タイジュ様はもう諦めたのか、ミツヤ様に言われるがまま、私が選んだフレームをかける。見立て通り、シャープお顔立ちが映えて、とてもクールな印象になった。よし!と心の中でガッツポーズ。
    「うん、めっちゃかっけえね。」
    似合ってるよ、とミツヤ様にもお褒めいただいき、誇らしい気分になる。
    「...お前はなんかいいと思ったものないのか。」
    「俺?んー、それ似合ってるけどなぁ...」
    と言いつつミツヤ様は最初から気になるものがあったようで、迷うことなく商品棚へ向かわれる。手の取られたのはゴールドのボストン、それもメタルフレーム。私はまた、え?それ??と心の中で呟いてしまう。大変失礼ながら、これをかけたらもうカタギの人には見えないんじゃ...いや?もしかしてそもそもカタギの人じゃない...?私が1人混乱してる中で、タイジュ様とミツヤ様のやりとりは続く。
    「...俺で遊んでんじゃねえだろな。」
    「遊んでねえよ失礼だな!大寿くん、肌の色的に金色も合いそうって思って。ま、一回かけてみてよ。」
    渋々といった様子でその眼鏡をかけたタイジュ様を見た瞬間、また負けたと思った。元々かなりシャープなお顔立ちが、フレームによって柔和な印象になる。
    「ん、これもかっこいい。大寿くんの優しい雰囲気出てるよ。」
    ミツヤ様が、頬を染めながらはにかんだ。可愛いな。というか今更だけどこのお二人、友達って雰囲気じゃない気がする。ミツヤ様の笑顔を見て、タイジュ様の口元が上がった(多分)。こっちはかっこいいな。
    「お前、こっちの俺の方が好きか。」
    「っはぁ?!」
    外で何言ってんの馬鹿じゃねえの!って怒る(というか照れてる?)ミツヤ様の顔が桜色からりんごのように赤くなる。そんな様子にますます気分を良くしたらしいタイジュ様が、こちらを振り返った。
    「選んでもらったところ悪いが、連れが選んだ方を貰えるか。」
    「畏まりました。そちらの方が、とてもよくお似合いですよ。」
    心の底からそう答える。プロとして悔しいはずなのに、私はとてもあたたかい気持ちになっていた。
     お二人とも検査を済ませてお会計をしている時にタイジュ様の携帯電話が鳴り、店の外に出て行かれた。店内には私とミツヤ様だけになる。
    「お姉さんにたくさん選んでもらったのに、なんかすみません...。」
    「とんでもないです!お二人ともお互いが選ばれた物の方が、本当によくお似合いでした!」
    ミツヤ様はすごく話しやすい雰囲気だったから、私は思わずぽつりと本音を溢してしまう。
    「本当にお似合いだったから、プロとしてはちょっと悔しかったくらいです...。」
    それを聞いたミツヤ様が、一瞬びっくりされたような顔をした後、柔く笑う。
    「オレたち、もうお互いのいろんな表情見まくってるからなぁ。他のお客さんに選ぶのは、絶対ェお姉さんのが上手だよ。」
    そう答えられたお顔はあまりにも幸せそうで、見ているこっちが照れてしまうくらい。その笑顔だけで、お二人は友達以上の関係なんだなってわかった。
     タイジュ様が戻ってくると、ミツヤ様はまた私に御礼を言って店を出て行く。去っていく背中に頭を下げながら、お二人の眼鏡の受け取り日って私シフト入ってたかなと、頭の中で一生懸命思い出していた。
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