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    ノスクラともクラノスともつかないやつ12

    #吸血鬼すぐ死ぬ
    vampiresDieQuickly.
    #吸死
    Kyuushi
    #クラージィ
    clergy
    #ノースディン
    northDinh

    C-6 C-6

     年末にドラルクキャッスルマークⅡを訪れた吸血鬼たちの中には、自分の店で働かないかとクラージィに声を掛けてくれる者もいた。とりあえず二週間という話で、クラージィはその店のホール係を勤めている。
     
    「これはアレだろうクラージィ、関西地方のレトリックでテンドンというヤツ」
     クラージィがノースディンにバイトがあるので一緒には行けないと言うと、ノースディンとドラルクはすぐさま説明を求めた。
    「いつの間にそんなことに。どこの店です?」
    「ラーメンヘッド氏の……」
    「ダメだーッ!」
     言い終わる前に、ドラルクにすごい形相で叫ばれてしまった。
    「におい意外は、とても良い店なんだが」
    「猛毒ですよ!」
     ラーメンヘッドのニンニクラーメンの店は同業者の集まる商業施設の中にある。未明まで開いているような店ではない。万一朝まで居ることになっても、この施設には日光の入る窓がない。昼間でも安全を確保できる……というのがクラージィの主張である。
    「日光だけじゃなくてニンニクも気にしなさいよ」
    「初日こそ危なかったが、だんだん嗅覚がバカになってきたから大丈夫だ、耐えられる」
    「さっさと辞めろ、そんな店!」
    「しかし約束をたがえるわけには」
     ノースディンやドラルクとの問答の末、クラージィがラーメンヘッドの店で働くのは最初の二週間が終わるまでとなった。ラーメンヘッドの店を辞めたら、まずはノースディンのもとを訪問する。ノースディンが紙袋の下でどんな顔をしていたのかはわからないが、それでどうにか納得して貰った。
     ドラウスとノースディンが事務所から引き揚げると、入れ違いでロナルドとヒナイチが帰ってきた。
    「ちん!?」
    「今の、ドラ公の親父さんと、……誰?」

     * * *
     
     ラーメンヘッドは吸血鬼でありながらニンニクたっぷりのラーメンを作ることに情熱を注いでいる。彼のラーメンを求めて人間たちはこの商業施設を訪れ、店の前に行列を作る。客足が途絶えることはない。
    「アンタよく働いてくれるのにな。残念だ」
     短い雇用期間の最終日、ラーメンヘッドは閉店後の店内で名残惜しそうにしていた。クラージィはテーブルを拭いている。すっかり手際が良くなった。
    「すぐに辞めてしまって、すみません」
    「気にすんなよ。それより、血族よりこっち優先して良かったのか? ウチは助かったけどよ」
    「なんとか」
    「そうかい」
     ラーメンヘッドは腕を組んだ。クラージィは台拭きを洗ってタオル掛けに干す。
    「最初、貴方のこと疑いました。料理で人間を招いて、血を吸うの、吸血鬼の手口ですから」
    「いつの時代の話だよ」
     ラーメンヘッドはおおらかに笑う。
    「いまは血液パックがあるから人間襲わなくていいんだぜ」
     クラージィは椅子をテーブルに上げ、ラーメンヘッドの話を聞く。聞きながら店の奥からモップを持ってくる。
    「俺はさあ、ニンニクたっぷり入ったこってりラーメンがいちばん旨いと思うんだ。だから他人にも食わせたい。そりゃあ揺らいだこともあったけどよ。あっさり系とか淡麗系とか流行って、客足が遠のいたときなんか」
     クラージィはモップで床を拭く手を止めた。
    「どうして、あっさりに変えなかったですか?」
    「迷うから味が落ちるんだ。俺はニンニクラーメンが好きだ。吸血鬼のくせにとか、流行りと違うとか、余計なことだってわかったのさ。理想のニンニクラーメンを追求するのが俺にとっていちばん重要だったんだ。人間の客が集まるのはただの結果だよ」
     ラーメンヘッドは笑い、クラージィもまた笑った。
    「ラーメンヘッドさんはすごい吸血鬼ですね」
    「そりゃあ、どうも?」

     最後の勤務と店主へのあいさつを済ませて、クラージィは店が入っているビルを出た。新鮮な、冷たい空気が肺を満たす。
    「旅人くん」
     背後から声を掛ける者があった。
    「すごいところに勤めてるね、君。嫌なにおいが染みついてるよ」
     ヨセフだった。ハンカチで鼻と口を押さえている。
    「ヨセフ。このあいだはなぜあんなことを――」
     ヨセフは片手でクラージィの言葉を遮った。
    「坊やに付いていかなかったんだ?」
    「坊や?」
    「ノースディンのことさ」
     ヨセフが杖で促すので、クラージィはヨセフの後をついて歩いた。
    「いや、このあと会いに行く予定だが……貴方とノースディンはそんなに年が離れているのか? 吸血鬼の歳はわからないな」
    「それを言うなら君だって二百歳の爺さんだ。それより、今夜は君に用があってね」
    「用?」
    「後始末。二百年前の。いま風に言うならアフターケア」
     ヨセフとはひと気のない路地に入った。クラージィが続こうとすると、ヨセフは路地の入り口で立ち止まり、クラージィに向き直った。
    「誰しも隠している欲というものがある。本人にも気づかないくらい、心のずっと奥、本能に近いところにね」
     ヨセフはクラージィを見ながら、他人事のように話をする。
    「私はそれを吐露させるのが得意なんだけど、もう死んでしまう人間では難しいんだ。心は経験と文脈と時間が絡み合った毛玉のようなもので、死の間際にはどんどんちぎれて無くなっていく」
     クラージィが話に付いてきているかどうかは、ヨセフにはどうでも良いらしかった。
    「だからあのときは時間との勝負でね、ちょっと雑なことをやった。君がノースディンをなかなか思い出せなかったのはその影響」
     ヨセフはクラージィの目をじっと見た。
    「ヨセフ?」
    「きれいなものがぼんやり鈍ってるのは、つまらないからね」
     クラージィが訝しむと、ヨセフはクラージィの額を杖で小突いた。
    「あいたっ」
    「よしよし、うまくつながった」
    「……?」
    「じゃあね。今度会ったときには、この街の流儀でもてなそう!」
     クラージィが額をさすっている間に、ヨセフは路地の奥へと消えてしまった。
     クラージィは目をこらして路地の暗がりにヨセフを探した。夜目がきくはずなのにどういうわけか、あの黄色い姿を見つけることは出来なかった。
     クラージィは路地に背を向けた。表通りが騒がしい。街のざわめきに悲鳴や物の壊れる音が混じっている。
    「逃げろーッ!」
    「誰か退治人を呼べ!」
     往来に異形の生物が蠢いて、人々が追い散らされている。人間も吸血鬼も一様に逃げ、あるいは遠巻きに様子を窺っている。
    「あれは……なぜこんな街なかに?」
     クラージィの時代では悪魔に分類されていた生物だ。大きな蜘蛛に似た姿で、森に隠れ住み、小動物や子供を襲う。
    「おいアンタ、逃げたほうがいいぞ!」
     すれ違う人がクラージィに声を掛ける。じきに退治人たちが来るはずだ。彼らがすぐに場を納めてくれるだろう。クラージィはすでに杭を持たない。動きは鈍り、膂力は衰えている。
     大蜘蛛は人々を追い散らしながら、その中の小柄な女性に迫っていく。女性の足首を前脚で掴み、口を開ける。針を撃ち出すつもりだ。
     ゆっくり考えている暇はなかった。
     決断するより早く、クラージィの脚が動いた。
     クラージィは蜘蛛の大きな体に真横から体当たりした。撃ち出された太い針は女性から逸れ、空を刺した。蜘蛛はクラージィへと向き直る。針の先がクラージィの肩をかすめた。ジャケットの生地が切れて、血が滲む。
     蜘蛛は威嚇の声を発したが、少しずつ後退し始めた。さっきまでニンニクラーメンの店にいたのだ。そんな体を針で裂いて、さぞ臭かったことだろう。
    「借ります!」
     クラージィは近くにいた男の手から傘を奪い取った。胴と頭の境を狙い、傘の石突きで正確に突く。蜘蛛の首が落ち、胴体と同時に塵へと還った。クラージィは安堵の息をつき、傘に残った塵を払った。
     クラージィは男に傘を返して礼を言った。男は傘を取り落とし、夜空を見上げて口を開けた。周囲の人々も空を見上げている。
     視線の方向に振り返ると、空から鳥型の下等吸血鬼が降りてくるところだった。キラキラ光るガラス片を纏った、カラスのように黒い鳥。あれも昔祓ったことはあるが――知っている個体と比べて、大きすぎる。
    「え?」
     クラージィは鳥が滑翔していく方向を見た。こんな遅い時間に、子供が三人。遠い。速い。追いつけない。
    「クソッ、止まれ!」
     クラージィは叫び、走る。止まれ。その声に超常の力が込められたことにも気付かずに。
     黒い鳥は子供たちの手前でバランスを崩し、路上へ落ちた。地面が震え、土埃が舞い上がった。
    「何だ?」
     クラージィは埃と風圧に足を止める。何が起きたのかわからない。子供たちは無事だ。鳥が落ちた場所を指差して騒いでいる。
     鳥型の下等吸血鬼が墜落するところをクラージィは初めて見た。とにかく運が良かった。仕留めるなら今だ。クラージィは再び走り出そうとした。
     路面を蹴った瞬間、視界がぐらりと傾く。身体が動かない。まっすぐ立っていられない。
     眠い。どうして急に。走れ。行ってとどめを刺せ。あの鳥がいつまた動き出すかわからない。その前に!
     意思とは反対に、意識は途切れがちになる。無理に数歩進んだところで、クラージィはついに身体を支えきれなくなり、路上へ倒れた。
     意識を手放す直前、こちらに走ってくるロナルドとヒナイチ、ノースディンの姿が見えた。
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    kidd_mmm

    TRAININGノスクラともクラノスとのつかないやつ16
    アカジャというか再会したやつ見る前の構想そのままで終わりまで書く予定なので嫌だったらゴメンね
    C-8C-8

     いくつかのドアの前を通り過ぎて、教えられた部屋に入る。壁際にクローゼットと整えられたベッド、それから正面の書き物机をはさんで、本棚、姿見。掃除の行き届いた居心地の良い部屋だ。ベッドの上には新品のパジャマまで用意されている。
     クラージィは柔らかいベッドに腰を降ろし、行儀悪く仰向けに倒れた。指で唇に触れる。まだ血と体温の味が口の中に残っている。なかなか牙の入らない肌の弾力も。
     意外なことに――いや当然なのか、その味と感触は不快なものではなかった。自分で予想していたほどの抵抗も忌避もなく、かえって困惑するほど円滑にことは済んだ。
    (いや、円滑……ではなかったな)
     ノースディンは何も言わなかったが、かなり痛かったのではないだろうか。元から青白い顔が真っ白になっていた。その場に残してきてしまったのはまずかったように思う。心配だったが、棺までついていくのはさらにまずかろうとクラージィは思った。ドラルクからは、棺のありかは吸血鬼の社会において大変繊細な話題と聞いている。
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