C-7C-7
風の音がする。
「ん……」
クラージィが身じろぎすると、すぐ耳元で声がした。
「起きたのか?」
「ノースディ……うわ?」
四方に暗い空が広がっている。足元に地面の感触がない。
「あまり動くなよ、バランスを崩すと危ない」
「飛んで、いるのか……?」
向かい風が顔に吹き付ける。クラージィが下を見ると、夜の街が輝いていた。
大きな駅ビルと、バス乗り場の街灯。その周囲では無数の小さなビルが看板を煌々とさせてひしめいている。合間を縫うのは車のライトが続く道路だ。特徴的な円い陸橋が見える。少し離れて、集合住宅の通路の灯り、家々の窓。遠くの暗いのは川の方角か。
「灯りが、あんなにたくさん」
眩しい。クラージィは目を細めた。ノースディンは言った。
「人間の街だ。夜を昼にしたいのさ」
クラージィはノースディンの肩にぶら下がったまま、街の灯りを見つめていた。
「人間と吸血鬼の街だ、ノースディン。あの中に、ドラルクやロナルド君、ヒナイチ嬢、ヨセフ、ケン、ラーメンヘッド……人間と吸血鬼の暮らしがある。夜と昼のあわい。たそがれの街だ」
「お前には、そう見えるのか」
ノースディンはため息をついた。
「ノースディン」
「何だ」
「あの時、助けてくれて、ありがとう」
ノースディンはしばらく黙っていた。
「……少し、飛ばすぞ」
言うが早いか、ノースディンは飛行速度を上げる。クラージィは風を切る音を聞いた。
「帰ったらお前、まず風呂に入れ。ニンニクくさくてかなわん」
「それはすまないな」
シンヨコの灯りが後方に去っていく。近くの別の街の灯りと比べると、シンヨコの灯りは少し暗い。それがかえってクラージィには愛おしかった。