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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    戦争中。ナナミちゃんはジョウイが帰ってくるんじゃないかと待ってしまう日がある。それを、2主はやや苦々しくおもっている。ジョウイに対しての怒り。

    #幻想水滸伝2
    theWaterMarginOfIllusion2

    2025-04-16


     レオナさんの酒場の窓から夕方の日差しが長く差し込んでくる。夜の気配をまとった風が背筋を撫でて、僕は思わず首をすくめた。カラスの声と、家路を急ぐ人の声がする。レオナさんはカウンターの中に引っ込んでしまって、僕だけが出してもらったレモネードを前にぼんやりとしていた。 
     カウンターの高い椅子に座って、足をぶらつかせる。行儀悪く頬杖をついても誰も咎めてはくれない。僕はいま一人だった。ナナミはいない。どこに居るかは知っているけれども。
     夕日が真っ赤に空を染める。風がなんだか冷たくて、体の芯が氷になりそう。そんな日に、ナナミは一人、城門の隅に座り込んでいる事がある。このノースウィンドウの住民や物資を運ぶ商人たち、城を守ってくれる兵士たちの邪魔にならないよう、小さく小さく膝を抱えて待っている。
     草原に視線を向け、膝を抱えたまま半分眠ったように、だが確かに誰かを待っている。
     待っていれば、いつか帰ってきてくれるんじゃないかと、待っている。誰を待っているかなんて、決まっていた。
     迎えに行ったことは幾度もある。でもそのたびに、追い返されるのだ。タイラギは待たなくていいよ。ジョウイはいつ帰ってくるか分かんないんだから。
     ナナミだってジョウイが帰ってくることなんてないと分かっているから、すっかり日が落ちて城門が閉まる頃には帰ってくる。だけれど、なんの準備もせずに石の上に座り込ものだからその体がすっかり冷えて、それこそ氷みたいになってしまうのだから堪らない。
     ジョウイは帰ってこない。少なくとも今は。
     ナナミだってそんなことは知っているはずなのに、あの時帰ってきたから、今も帰ってくるかもしれないと微笑んでしまうし、僕はそれをどうにもこうにも止められない。ため息をつき、カウンターに倒れこんだ。頬に木の感触がある。酒場が開くまでにどうにか背筋を伸ばさなければいけない。
     ガタリと音がして、扉が開いた。慌てて体を起こしかけ、入ってきた人間を認めて僕はだらしないままでいることにした。
    「お、タイラギ」
    「レオナはいないのか」
     この城ではもう珍しくなってしまった、僕が肩肘を張らずに居られる人たちだ。確かフリックさんは外に出ていたと聞いた。まとっていた外套を脱ぎながら二人で僕に歩み寄ってくる。
     今日は一日中城の中にいたビクトールさんが、定位置ではなく僕の隣に座った。大事に使われてつやつやのカウンターに置かれた今日の軽食メニューを一通り眺めて、フリックさんに渡す。
    「もう少しがっつり食べたいな」
    「レストランに行くか。レオナもまだいねえし」
    「タイラギは夕飯食べたか」
     僕が気落ちしていることなど分かっているだろうに、二人してそこには触れない。ただ、まだいつもの夕食には早い時間なのにこうして二人の間に入れて夕食に誘ってくれるだけだ。
     ナナミはきっと夕ご飯も食べないだろう。ジョウイを待っているからだ。
    「まだですけど」
    「一緒に食うか。ナナミも一緒に」
     僕がいくら誘っても、ナナミは立ち上がろうともしなかった。ジョウイが心配だから、待っていないと帰ってこない気がするから。
     夢か幻を追いかけている。だっていまジョウイはハイランドにいて、僕らは敵対していて、帰って来るなんてありえない。 
     ナナミは幻想を追っている。ルードの森では僕が帰ってきた。ミューズではジョウイが帰ってきた。ナナミはただ待っていた。待っていることしか出来なかった。
    「ナナミ、ジョウイの事ずっと待ってて」
     つるりと言葉が出た。ビクトールさんが頷く。
    「今も。こういう夕方はダメなんですよ。ミューズの時と同じだから、帰ってきた夕方と同じ空だから」
     あの時ジョウイに抱き着いたナナミの嬉しそうな事と言ったら。でもあの時のジョウイはすでにミューズを裏切ることを一人で勝手に決めていた。
    「ナナミはずっと待ってて。でも僕は、なんか待てなくて」
     多分、ナナミが望むだけ隣で待っているのがいい気がする。昔話をするかもしれない。恨みごとがあるかもしれない。逃げようと誘いがあるかもしれない。
     でも、ナナミを近くに感じられるだろう。ナナミも僕が近くにいると信じてくれるかもしれない。
     ビクトールさんが困ったように指でカウンターを叩き、フリックさんは静かにメニューを戻してしまう。
     コツコツとリズムがカウンターになついたままの僕に伝わる。
    「待ちたくないんですよね……だって僕は怒ってるから」
     あんなに大事な決断を、僕らをそっちのけで決めたジョウイに、僕は怒っている。助教さえ許せば、いつだって一発ぐらいぶん殴りたい気持ちだ。あの時みたいにただ『おかえり』とだけは言えない。
    「ナナミは待ちたいんだろうな」
     ビクトールさんが優しく僕の背を撫でてくれる。
     少し固いけど、暖かい手だ。フリックさんは座りこそしないが、僕のそばにいてくれるのが分かる。
    「ハイ・ヨーのところってなんかテイクアウト出来たっけか」
    「城門のところに屋台出てた。餡餅あったぞ」
    「じゃあそれにするか」
     二人で勝手に決まった話に顔を上げれば、ほら、と手を引かれた。
    「冷えるからな。待つなら待つで腹になんか入れたほうがいい」
    「ナナミ、食べないかも」
     ナナミはきっと今が不満で、未来が怖い。ジョウイと僕が相争う事そのものに反抗したくて、ジョウイの帰りを待っている。不満を抱えて食べるご飯のおいしくない事と言ったら。
    「ま、そん時はそん時だ」
    「そん時は暖かいものだけ渡して、お前は俺たちとご飯にするとしよう」
     フリックさんに子供みたいに手を引かれるのはなんとも気恥ずかしい。おなかが鳴った。酒場の外はすっかり夜だ。
     動き出せば、自分の体も冷え切っているのが分かった。おなかが空いた。温かいものが食べたい。出来ればナナミにも食べてほしい。
     それが無理でも、僕までナナミと一緒に沈むわけにはいかない。僕は僕でやるべきことがある。ジョウイを取り戻したいのは僕だって同じ。でもナナミよりもう少しだけ出来る事が多いはずだ。
     
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