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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

    以下は公式ガイドラインに沿って表記しています。
    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    戦士の村の、フリックより年上の人が傭兵として戦争に参加してたら面白いかなって。それだけ。「兄さま」呼びは趣味です。

    #幻想水滸伝2
    theWaterMarginOfIllusion2

    2025-05-12

     傭兵として、同郷の4人でつるみ始めてもう10年近くになるだろうか。戦士の村の出と喧伝するわけではないが、必要に応じてその名を使い、渡り歩いて幾星霜。今はデュナンでの、新同盟軍とハイランドの戦いに参加している。

     軍主はしょっちゅういろんなところからいろんな人間を連れてくる。今日兵舎に案内されてきたのは知った顔だった。と言っても、自分たちのように傭兵として身を立てているわけではない。まだ儀式の途中と言った風情の、若い戦士だ。赤い髪の女の子も連れている。
     自分たちを認めて、えへへと笑う顔はまだ幼いというよりも頼りない。誰か名前を知っているか、と顔を見合わせれば一人が声を上げた。
    「村長の娘だろ」
    「ああ知ってる。小さいころから気が強くてさ」
    「村長が一緒に住んでんのか。そりゃ気も強くなる。でないと話す隙なんてなくなるぞ」
    「ちがいないな」
     ゲラゲラ笑っているうちに若い戦士とテンガアールは兵舎に吸い込まれていった。結局、テンガアールが連れていたのは誰かは分からない。

    「ヒックスだ。ほら、解放戦争の時に特例で剣に名前をつけた」
    「ああ聞いたことあるな」
    「あの子か。俺がたまたま帰ってた時のだ」
     俺たちよりも少し年が近いフリックなら知っているだろうとあたりをつけて聞いてみれば、明確な答えがあった。そんなことよりも仕事をしてくれ、と言わんばかりの視線を向けられたが、それははぐらかすことにする。書類に埋もれているのが少々哀れだが、司令官とは往々にしてそう言うものだ。
     俺たちはそれが嫌で、村から飛び出したようなもの。椅子の背もたれを反対にして、我らが部隊長の仕事ぶりを観察するのもまた楽しみだ。
    「解放戦争の頃に出立ってことはもう3年ぐらいになるのか」
    「けっこう長いな。お前、どれぐらいやった?」
    「一年ぐらいか? 適当に盗賊団をこう」
     拳をぐっと突きあげる男に笑う。どれも似たようなものだ。自分たちには力があった。それをどう扱うか、何を正義とするかの指標もあった。その生き方が苦ではなかった。
     だからこんなところにいる。
    「あの時、吸血鬼を退治したんだろ。そう言う、儀式の前にでかめの討伐したらどうなるんだ」
     戦士の村は自治がみとめられているが、赤月帝国末期にはその特権が奪い取られた。突然やってきた軍政官は宮廷魔術師の手下で、かつ人間ではなかったらしい。吸血鬼はテンガアールを花嫁として求め、我らが戦士の村は解放軍とともに圧政を打ち破ったとは、まったくおとぎ話の一節のようだ。どうせ村のだれかが詩にでもしている事だろう。
    「吸血鬼に立ち向かうために特例で剣に名前をつけたんだから順序が逆じゃないか」
     剣に名前を付ける事を許されるのは、戦いにでる覚悟と実力が備わったものだけだ。許されるだけでつける名がないまま儀式に出るものが殆どだが、ヒックスはそうではなかったらしい。
    「それで3年か。あんまり長くなると、それ相応の手柄を、と思って良くねえんだよな」
    「そう。さっと行ってパっと終わるのが一番だとおもった」
    「だからってお前の3か月は短いだろ」
    「効率的と言ってくれ」
     あまり長いと良くはない。行った先で、村よりも良い場所を見つけてそこで生きるならば構いはしないが、そんな幸福な例ばかりではない。
     大概が道を踏み外す。力だけがあって、その行き場を見失ったものの末路は悲惨だ。少なくとも、自分たちにとって。
    「まあ、村長の娘もいるし」
     守るものがあるならそうそう壊れはしないだろう。それに、と机に向かうのも様になり始めてしまってる部隊長を指さした。
    「ここに8年目がいるしな。フリック、お前こそそろそろ帰れ」
    「はいはい」
     国を一つ滅ぼして、不足などなにもないのにこいつは一向に帰ろうともしない。
     解放軍のリーダーの女とどういう関係だったかははっきりとは知らない。だが、そこに足を取られている事は知っている。頭を抱えるように書付をつづける年下の同郷を4人で等分に眺め、同じように肩をすくめた。
     帰ることも、帰らない事もない。ただのモラトリアムだ。呆れてものも言えない。
    「まあ良いけどな」
    「変なことはするなよ。お前相手はさすがに骨が折れる」
     それでも、道を踏み外せば討ち取られるのが自分たちだ。そう言う約束で作られている。
     俺たちの言葉によらず、フリックが顔を上げた。殆ど同時にドアが開く。
    「フリック、うわ狭い」
    「ノックぐらいしろ」
     狭い部屋に大の男が5人もいればそう言う感想も出るだろう。ドアを開けた同じぐらい大きな男はフリックの小言を聞き流し、用向きを告げる。
    「シュウのやつが呼んでる。一緒に来いって」
    「お前と一緒か……」
     厄介ごとの気配をその場にいる全員が感じたが、だからと言って厭うわけではない。大きな男、確かビクトールとかいう奴は慣れた風情でフリックを促した。
    「すぐ行く。兄さま……あんたたちもさっさと仕事に戻ってくれ」
     立ち上がったフリックが、思わず口に出した昔の呼び方に4人で笑う。こういう事があるから、今でも直接面倒を見た奴はかわいくて仕方がないのだ。
    「お前の口から兄さまって呼ばれんの、久しぶり」
    「もっかい呼んでくれよ」
    「良いから。早く出ろ!」
     耳を真っ赤にしたフリックが戸口から怒鳴るから、俺たちは笑いながら部屋を出る。
     
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