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    そのこ

    @banikawasonoko

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    文責 そのこ

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    ⓒKonami Digital Entertainment

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    そのこ

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    6/26のビクトールさん側。ビクトールさんはフリックに甘えられるのをなんか平然と受け入れてたらいいとかそういう。

    #ビクフリ
    bicufri

    2025-06-27


     砂漠の入口になっている街のそこそこ良い宿の一室にしばらく滞在する事にしていた。そこの店主と知り合いで、いくつか仕事をこなしてくれれば宿代は格安で良いという。部屋は確かにそんなに広くないけど、俺は帰って寝るだけだし、フリックのほうもカギのかかる部屋で清潔なベッドでねれりゃ百点だと言っていた。風呂もあるし、飯もうまい。仕事は店主が所属している商人ギルドが抱えている案件で、ちょっと時間も手間もかかりそうだった。
     離れたところでサウスウィンドウが戦争なんかしてるからな、この辺の治安維持まで手が回んねえんだろうな。まあ俺としちゃあ、食い扶持に困らなくて助かるってもんだけど。
     心配事と言えば、体が全然まともじゃなかったフリックの体調だ。砂漠を渡り切る間は、隊商の馬車に乗っていたとはいえちゃんと活動していたというのに、渡り切った途端にまた寝付いてしまった。
     この一週間は日がな一日寝ているか、起きていてもなんともぼんやりしている。落ちた体力を戻すの、大変だろうな。別にずっと面倒を見てやったって構やしないんだけど、フリック側が嫌がるだろうな。
     理由もねえし。
     理由がないったって、そもそもここにいること自体に理由がねえんだから、理由の無さが一個増えたってなんでもねえと思うんだけどな。
     
     今日の仕事は少し長引いた。朝、まだ半分寝ぼけたフリックに夕方には戻ると言いおいて出て来たが、もうとっくに日は暮れて、ランプの明かりが街を照らす。お姉ちゃんやお兄ちゃんが通りを行く人に声をかけ、笑いながらそれをかわす奴も、面白半分でついていく奴もいる。
     主要な道が戦争中で使えないからか、覚えている限りじゃ少しさびれた雰囲気さえあった町は人であふれかえっている。ガラの悪いのも多いし、多少いい宿に泊まれてまじで良かったよな。けが人を抱えて場末の宿になんか泊まってられねえもん。
     そのけが人を置いていくつもりが毛頭ない事もちょっとおかしい。まあ俺から誘ったんだけど。あいつじゃなくても良かったが、いまさらあいつ以外の連れを見つけるのも面倒くさい。
     見捨てるのはもっと有り得ない。あいつが他に行くところがあるんなら別だけどさ。そうじゃないだろ。
     こんな異国の地で、頼りに出来るもんもなかろうに。いや、あんのかも知れねえけどさ。
     どうでもいいような考え事をしながら宿に戻る。昨日は今の時間もまだ寝ていて、夕飯を買いに一人で外へ出たが、今日はどうかな。部屋にいるだろうか。
     約束なんてしてないし、最初に言っていた時間から遅れたのは本当だ。なんか買って帰るかな、と酒場をのぞいてみれば隅っこのカウンターにその姿はあった。
     ハイチェアに座って、大して多くもなさそうなプロフとサラダを行儀悪くつつきまわしている。騒がしい酒場の中で、そこだけが浮き上がるように静かに見えた。まあ錯覚なんだけどさ。
     町人とあらくれた傭兵たちが半々ぐらいの酒場で、フリックの姿はなんだかやたらと頼りなく見える。やせたな。もともとほせえのに。
     案内しようと近づいてきた店員に、連れがあそこにいると指をさす。お隣りへどうぞ、と仕草だけで言われて、ありがたくその通りにすることにした。半分ほどしか減っていない飯を片づけてからでないと、店を出るのも申し訳ねえしな。
     殆ど目を閉じているフリックの隣の椅子を引く。
    「起きてて大丈夫なのか」
     肩が跳ねた。慌てて首を巡らせて俺を見る顔の色は夜でも分かるぐらい悪い。今日は下まで降りてこられたことは幸いだが、あんまり飯が食えてないならそれはまだ全然良くねえな。
    「大丈夫、だけども」
     そう答えるが、半分は反射だ。まったく取り合わず、近づいてきた店員に夕飯と酒を注文する。そのままの流れで置いてあった取り皿に手を伸ばした。
    「一人前が腹に入らないような奴は大丈夫じゃねえな」
     もらうぞと声をかけ、残った米と野菜の殆どを自分の皿に移し替える。残すのは嫌だろうけれど、体が受け付けない。困ったもんだよな。
     フリックは俺と皿を見比べ、なんだか素直にちょっとだけ微笑んだようだった。
    「遅くなって悪かったな。ちょっと手間取っちまってよ」
     プロフを頬張りながら言えば、その笑みのまま頭を振る。そのわずかな動きすらシンドイのか、笑みが消えて眉間にしわが出来た。大丈夫かな、もしかしてさっさと部屋に返したほうがよかったかな。
     俺の心配を他所に、フリックは深く息をついてそのまま目を開けた。顔をのぞき込んだ俺に目を合わせ、目を細めてゆっくりと笑う。
     多少なりとも余裕があるならいいんだけどさ。ここまで連れてきた手前、出来れば安心しててほしいし、つまんねえ寂しさみたいなのは感じねえといいなとは思うんだよな。
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