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    chunyang_3

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    chunyang_3

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    “君”がいない世界の江澄
    蓮の花の咲く音を聞くと悟りが開けるという話があるらしいんですが、蓮が開く時にポンという音がするというのは俗説らしい。
    江澄の隣に金凌がいてくれて良かったなと思うばかり。

    詠んだ短歌のイメージを短編にしました

    #CQL
    #江澄
    lakeshore
    #金凌
    #魏無羨
    WeiWuXian

    君待ち/江澄「蓮花の咲きだす音の聞きたさに走る君の背まぼろしなりて」

     ゆさゆさと肩を揺らされて、寝台でよく眠っていた江澄は何事かと寝返りを打とうとする。
    「おい、江澄起きろ。行くぞ」
    「なんだ?」
     目を擦りながらゆっくりと目を開けるが、まだ夜は明けていないようで部屋は暗いままだ。
    「こんな夜中になんだ」
    「夜中じゃないよ、寅の刻(午前四時)だよ」
    「なんでそんな時間にお前が起きてるんだ」
     江澄が苛立たしげに声を上げると、魏嬰は人差し指を顔の前に立てながら、もう片方の手のひらで江澄の口を塞ぐ。
    「しーっ! 大きい声を出したら師姉達が起きちゃうだろ」
     たしかにこんな時辰に騒ぎ立てようものなら、父上や母上の耳に入ったら何を言われるか分からない。
     仕方ないと、ゆっくり起き上がった江澄は魏嬰に目的を問うことにした。
    「それで、いつもなら今頃ぐっすり寝てるお前が、一体どうした?」
    「江澄も聞いただろ、蓮の花が咲く時の話」
    「あぁ、昨日のどこぞの道士が話してたやつか」
    「そうそう」
     父を訪ねてきた旧来からの知り合いというその道士は、蓮花塢の蓮の美しい季節に来たことをやたらと喜んでいて、色々と話していた中でこんなことを言っていた。
    “蓮の花が咲く瞬間というのはポンと音がすると言われておりましてな、その音を聞いたものは、悟りを開けると言われているのです”
     その話を聞いた時、魏嬰は江澄を見て言ったのだ。“蓮は毎日見てるのに、そんな音は聞いたこと無いよな?”と。
    「それで、今から確かめに行くのか?」
    「もちろん。気になるだろ」
    「一人で行けば良いじゃないか」
     そもそも、蓮の花が咲き乱れるこの蓮花塢に居るのに、そんな話は一度として聞いたことがない。
     江澄が不満げに魏嬰を見上げるが、魏嬰はそんなことはお構いなしに江澄に右手を差し出してきた。
    「一人で行ってもし聞こえたとしても証人がいないと単なる妄言になっちゃうだろ。それに、二人で聞いて、さらなる高みに登れるんなら雲夢双傑は最強だろ?」
     暗くて分からないが、小声ながら弾んだその声に魏嬰の満面の笑みが見なくても伝わってくる。
    「分かった……行こう」
     伸ばされた魏嬰の手を取って立ち上がる。居室を抜け出して二人はそっと水辺へと向かう。建物を出てからは魏嬰が勢いよく走り出したので、江澄も負けじとその後ろ姿を追う。魏嬰の足は速いが、江澄だって負けてはいないのだ。
     船着場の辺りへ辿り着いて足を止め、ふと空を見上げれば、夏の空の星座が随分と西へと巡っている。東から薄く明るくなったからか、水面には星の輝きはもう映っていなかった。まだ明けぬ空の下で、今まさに開こうとしている蓮のつぼみが穏やかな風に吹かれて揺れていた。


     江澄がハッとなって目を覚ますと、まだ部屋の中は暗く夜は明けていなかった。宗主たるもの寝坊をする訳にはいかないが、だからと言ってこんな夜中に目を覚ます必要は無い。周囲に誰もいないことを確認し、両手で目を覆いながら深く息を吸う。
    (夢か……)
     目が覚める前に見たのは、今はもういないあの魏無羨の後ろ姿だった。まだ夜が明ける前の薄暗がりで追いかけた師兄の背中を、時折こうして夢に見る。
     “蓮の花の咲く音を聞けば悟りが開ける”などというのは単なる迷信だ。何故ならあの時、寅の刻から卯の刻を過ぎ、辰の時辰まで二人でじっと蓮の花が咲くのを見続けていたのに、終ぞ蓮の花がパンと開く音は聞けなかったからだ。見守った蓮の花は静かに少しずつ大きく膨らみ、見慣れた形へと花開いていった。
     その日の日中は二人ともとても眠くて、集中力がないと怒られてしまった。はじめこそ誤魔化していたが、魏無羨が眠気で倒れたので仕方なく理由を答えたら、勝手に部屋を抜け出したこともそうだが、音を聞いたくらいで高みに登れるなどと、そんな世迷い事に翻弄されるとは鍛錬が足らないと二人にだけ特別な鍛錬が追加される酷い目に遭った。だからそれ以来、蓮の花が咲く瞬間を見に行こうなどとは、どちらからも誘うことはなかった。
     この時間なら、まだ蓮の蕾は閉じている時辰だろう。江澄は目を瞑ったが寝付けそうになかったので、あの日のように寝台を抜け出し蓮花塢の建物を抜けた。静まり返った蓮花塢の空の上には、夏の星座が随分と西へ巡っている。もう少ししたら薄明るくなり、夜明けがやってくるのだろう。
     蓮花塢の水辺へと辿り着き、今日これから咲きそうな蓮の蕾の前に立つ。今ここにいるのは江澄一人だ。もしあの時、蓮の花が咲く音を聞けていれば、あいつはここに共に居たのだろうか。そんな荒唐無稽なことを考えてしまってから江澄は頭を振った。花の咲く音は幻だ。それを追い求めていたあの男のことをそんな風に追い求めていることこそ馬鹿らしい。
     その時、後ろからカサリと何かが動く音がして、江澄は念のため持ってきていた三毒を抜いた。
    「誰だ!」
     まさかと思ってしまった己に、江澄は奥歯を噛み締めた。
    「ぼ、ぼくだよ叔父上!」
     江澄が向けた剣の先にいたのは、金凌だった。ふと頭によぎった人物ではなかったことに安堵していいのか、一瞬でもそんなことを考えた己が馬鹿らしいと自嘲した方がいいのか江澄はすぐに答えが出せず、言葉を紡ぐのに時間がかかってしまった。
    「あ、あぁ……金凌か。こんな時間に何してるんだ」
    「何って、叔父上が出て行くのが見えたから気になってついてきただけだよ! 叔父上こそこんな時間に何してるんだよ?」
     まさかこんな時間に金凌にあとをつけられているとは思わず驚いたが、溜息と共に三毒を鞘に納めた。
    「何もしてはいないが……」
     何もせずにこんな時間にこんな場所にいるのはおかしいのは明白だ。
     江澄は何と答えるか悩んだが、わざとらしくコホンと咳ばらいをして、そのまま伝えることにした。
    「私は蓮の花を見に来ただけだ」
    「わざわざ蓮の花を? 毎日見てるのに?」
     金凌が疑問を呈すのはもっともだ。この時期は蓮の花は見ようと思えばいつでも見れる。
    「蓮の花が咲き始めるのはこの時間からだけだ。だから、たまには見ておこうと思ってな」
    「ふーん? 確かに、蓮の花が咲くところは見たことなかった気がするけど。こんなに朝早くに咲くのかぁ」
     江澄の行動に納得はしていないようだが、金凌も少しは興味が湧いたようだ。
    「せっかく起きたのだから、蓮花塢にいる間に見ていきなさい」
    「わかりました。叔父上も一緒に見るんでしょ?」
     金凌に見上げられてしまうと、江澄は自分は戻るとは言えなくなってしまった。
    「……あぁ、せっかくだからな」
     そうして二人で岸辺に並んで腰を落とす。かつての雲夢双傑がそうしたように、蓮の蕾を二人で見つめた。二人で他愛もないことを話している間に少しだけ東の空が白み、心なしか蕾も膨らみ始めていた。
    「蓮の花は早朝に咲き始めるんだが、夜になると閉じるだろう。一度咲いたら翌日も同じように開いて、夜にまた閉じるんだ。それでも四日目くらいになると、ぱらぱらと花弁がくずれるように落ちていくんだよ」
    「へぇ~」
     金凌が意外にも興味深そうに話を聞くので気を良くしそうになったが、この話はあいつから聞いた話の受け売りだったことを思い出す。思わずそこまでで口を閉じてしまった。
     それからしばらくは二人でじっと蓮の花の開くのを見つめていた。段々と東の空が明るくなり鳥の鳴き声が聞こえ、世界が目を覚まし始めているのを感じるようになった。そんな世界の目覚めの音と色に気を取られている間に、蓮の花弁はどんどん大きく開いていった。花の咲く音は、やはり江澄の耳には入ってこなかった。
    「金凌」
    「何?」
    「お前は、蓮の花が開く音が聞こえたか?」
    「音? 音なんてしてなかったんじゃない? 何か意味があるの?」
    「意味なんてないさ」
     聞こえないと分かっているのに期待してしまうのは幻想だ。もういないはずなのに、あいつはまだどこかにいるんだと信じている自分がいるのも変わらない幻想なんだろう。あんな風に消えたりなんてするはずがないのだと……そう思ってしまうのは、俺には聞こえない蓮の花の咲く音を、聞いていたんじゃないかと、そんな風にすら考えてしまうから。
    「金凌、いいか。今日の鍛錬は夜中に寝所を抜け出した罰の分、多めに走らせるからな」
    「えー! じゃあ叔父上も走るの!?」
    「そうだ。同罪だからな」
     江澄も一緒にということなら、余計に金凌も逃げられそうもない。
    「やだな~~!」
    「これに懲りたら、夜中に勝手に部屋を抜け出すんじゃないぞ」
     江澄が言うと、金凌はむすっとした顔をしながらも、買い言葉に売り言葉とばかり江澄を指さした。
    「叔父上だって、勝手に抜け出したらダメなんだからね!」
    「……わかった」
     残された蓮花塢と金凌のためにも、江澄は幻想を抱いている訳には行かない。それでも、きっと探し続けてしまうのだろう。あいつにはまだ言い足りないことが山ほどあるのだ。
     そう思いながら再び視線を向けた蓮の花弁は日の光を受けながら美しく咲き誇っていた。
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    chunyang_3

    MEMO観音廟の後、藍忘機と別れ一人で旅をしている魏無羨が蓮花塢に立ち寄って金凌と出会う話。CQLを見終わった時に全て終わった後の金凌と魏無羨が再会するのを見たいなと思っていたのですが、魏無羨から両親の話を聞く話になりました。※原作の番外編の再会とは異なります。
    話を聞かせて 目の前に広がる蓮の花の咲く景色を瞳に映し、魏無羨は大きく深呼吸をした。早朝の水辺の空気そのものを吸い込んだような清々しさに、自然と顔が綻んでしまう。朝食を売る屋台の呼び声が聞こえ、波止場の街には既に活気がある。
     この世から消えてしまってからの十六年。決して短くない時の流れの間に変わってしまったことも変わっていないこともある。蓮花塢には少しばかり前にも来たけれど、その時はこんな風に優しく吹く風を感じる余裕は無かった。慌ただしく走り抜けるばかりだった景色が、今は目の前に悠然と広がっている。
     今になって思えば、魏無羨が帰る場所というのは元々この世には無かったのかもしれない。ここ蓮花塢は幼い頃から育った場所でとても大事でかけがえのない存在であることは今も昔も変わらないけれど、魏無羨が帰る場所では無くなってしまった。それは、江澄に江家を破門される前から頭では理解していたことだったが、こうして訪れてみると改めて実感する。
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    chunyang_3

    MEMO景儀と思追の出会いの妄想です。思追が温寧と温家の弔いを済ませ雲深不知処に戻った頃に、魏無羨も雲深不知処に留まる様になったという時間軸の設定です。うさぎと一緒に人参を食べていた頃の思追くんと景儀の出会いの話を書いてみたくなって書きました。
    君と兎と しんと静まり返った蘭室を前にして、藍景儀は柄にもなくとても緊張していた。今日は景儀にとって初めての座学だ。随分前に蘭室には遊びで入って良い場所ではないと叱られてからは一度も近寄っていないので、この建物に来ること自体、ちょっと尻込みしてしまう。
     同じ年頃の藍家の子弟が中に入って行くのに続けて景儀もその静かな空間に足を踏み入れた。周囲を見回してみると、どうやら空いている席に座って良さそうだ。
     こっそり息を吐いて、周囲を見回す。近くに誰か景儀が知っている友達がいると安心できるのだけれど来ているだろうか。そう思って既に座っていた隣の席の少年へと視線を向けた景儀は、視界に入ってきた横顔に思わず息を呑んだ。まるでお手本のように姿勢良く座っていた景儀と同じ白い藍氏の校服を身に纏った少年も、隣に誰かが座ったことに気付いたらしい。軽く横へ顔を向けたことで、景儀と顔を互いに合わせることになった。その顔を見て、景儀は思わず叫ばずにはいられなかった。
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    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライアンコール開催分。2周目に見る1話の魏無羨が過ごす夜の話です。2周目ということにすれば、これまでのことを思い出しているんだろうなぁということがネタバレ有りで書けるのでは!?と思い立って書いた話です。草笛で奏でる旋律は全てを失った魏無羨に残された魂に刻まれたものなのだろうなと思えてとても好きです。
    ※画像で上げたものと基本的に同じですが、表現を手直ししています
    残されたもの 魏無羨はこれでも一応途方に暮れていた。
     今の状況で途方に暮れない人はほとんどいないだろう。一度死ぬ前の魏無羨なら、もう少しは不遜な態度でもしてみせたかもしれない。とはいえ、一度魏無羨はこの世から消え、死んでいる間に十六年も時が経っていたらしい。そんな事態なのだから、魏無羨だって多少は途方に暮れても許されるのではないだろうか。
     せめて魏無羨をこの世に蘇らせた莫玄羽が詳細を書き残してくれていれば良かったのだが、どうやらそこまでは考えなしだったのか、それとも詳細を書くことを躊躇っていたのか。
     魏無羨の魂を呼び寄せ、己の魂魄を犠牲にした莫玄羽は魏無羨に負けず劣らず周囲に敵しかいない状況ということは否応なく理解した。一体何をして金家から追い出されたのか詳しくは分からないが、金家にも莫家にも居場所がなかったことだけは確かだ。そんな莫玄羽と一度話をしてみたかったなと思う。もし話が聞けたなら、怨んでいる相手くらい分かるようにしておいてくれとか、陣の描き方のちょっとした間違いなんかを説教してしまうかもしれないけれど。
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    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライ5回目(41〜50話)。50話の思追と温寧です。番外編も含めて叔父さんって呼んでるの良いなぁと思っています。思い出さない方が良いと思っていた温寧が、二人で一緒に走って追いかけるんだなぁというところが改めて嬉しいなと思いました。
    焔つなぐ 少し前からもしかしたらと思うことは幾度もあった。己が一体どこの家に生まれ、父母亡き後に一体誰と一緒にいたのか。
     思追は幼き日のことを覚えていなかった。けれどそれは忘れていただけだったのだ。もう会うことは叶わないはずだった人に出会ってから、忘れ去られていた記憶は少しずつ断片的に焔が灯るように蘇っていた。真っ暗な夜空に散らばっていた小さな灯りは、輝く星が互いに繋がり星座を描くように、段々とその全容を理解することができるようになっていた。
     観音廟の外に出ると、思追は駆けつけた他の子弟達に囲まれ、無事を喜ばれながらも観音廟での事の顛末を聞かせてくれとせがまれた。温寧を追いかけて辿り着いてからのことだけでも、思追が説明することは難しい。ましてや金光瑶がどのような人物であったのかを語ることもできそうにない。十六年前に起きたことについても同様だ。それでも、この目で見たことや感じたことはしっかりと覚えておきたいと思った。だからこそ、今はまず不確かな己の過去と向き合いたかった。
    1910

    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライ4回目(31〜40話)。39話の刀霊に対面する藍曦臣はどんな気持ちだったのだろうかというのが気になって書いた話です。原作読んでから見るとあの再会シーンだよなぁとも思うところ。この時になって初めて兄上は金光瑶に対する疑念の欠片を抱くのかなと思いはするんですけど、水面が初めて揺らいだ時だったのかもなぁと感じます。
    揺らぐ心 藍曦臣が弟からの知らせを受けて宿に辿り着いた時、藍忘機と莫玄羽はまだ宿に着いていなかった。今ここにいるのは知らせにあった義城で遭遇したという各家の子弟達だろう。若者達は徐々に宿の門の前に集合しつつあった。
    「沢蕪君!」
     藍曦臣に気付いた藍氏の子弟達が近付いてくる。揃って礼をした彼らを見回して、皆無事そうなことに胸を撫で下ろした。
    「忘機はどこに?」
     藍曦臣が問うと、手前に居た藍思追と藍景儀がそれぞれに口を開く。
    「含光君と莫先輩は街を見てくると言っていました」
    「集合の時間を過ぎたのに、まだ戻ってないんですよ」
     景儀が少々不満そうなので、どうやら二人は随分とゆっくり街を見ているらしい。仲良くしているのなら良いことだ。弟がそんなに仲良く連れ立って歩きたいと思う相手などいるのか……と、そこまで考えて頭を振る。これはあくまで仮定の話でしかないし、確証はない。
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    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライ3回目(21~30話)。28話の夷陵で再会した忘羨と阿苑の話です。剣と刀で2本買ってもらったんだなぁなんてことを思いながら書きました。
    ※画像で上げたものと基本的に同じですが、表現を手直ししています
    夷陵での再会 子どもがずっと乱葬崗にいるのは良くないかもしれないし、阿苑なら温氏だと誰かに気付かれることもないだろうと、魏無羨は街の様子を見せるためにも阿苑を夷陵の街に連れてきていた。目を離したほんの一瞬でいなくなった阿苑に肝が冷えたのは一瞬で、阿苑はなんとあの雨の中で別れたきりの藍忘機の足元でわんわんと声を上げて泣いていた。
     久しぶりに遭遇した見知った顔が、阿苑を泣かせているなんて思いもしなかった。あんな別れ方をしたのに、再会がこんな笑える場面だなんてことも思いもしなかったけれど。お陰で声を掛けることに悩まずに済んだし、冗談を言って揶揄って、まるで何もなかったかのように話をすることができた。
     屋台の玩具屋の前で足を止め、阿苑に玩具を見せてひやかした。乱葬崗には玩具などないし見せてやるくらいしてもいいだろう。しかし、阿苑に玩具を見せて喜ぶ姿を見た藍忘機は、なぜ買ってやらないと不満気に疑問をぶつけてくる。そりゃあ、お金があったらいくらでも買ってやりたいが、今の魏無羨にはなかなかそうもいかない。
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    chunyang_3

    MEMOCQL50話の後の懐桑と藍曦臣の話(https://poipiku.com/2517302/5280800.html )に至る兄上と“兄弟”の話。nielanなのかyaolanなのか?みたいな感じですけど、どっちも違うベクトルで大切だったんだろうなぁと思う。“兄弟”にこだわる兄上の話です。お誕生日に上げる話じゃない気がするけどおめでとうございます!(遅刻)
    ※竜胆要素は原作からです
    竜胆の願い 修練を始めてからは月に一度、母と会えるのを楽しみにしていた。母上にこんなことができるようになったと言ったらまた褒めてもらえるだろうかと期待しながら向かっていた。叔父上は厳しい方だったので辛いと感じたこともあったはずだけれど、記憶にあるのは母にたくさん話をすると褒められるのが嬉しかったことばかりだ。そんな毎日だったからだろうか、母と叔父しかいない世界が変わった時のことは鮮明に覚えている。
    「あなたに弟か妹ができるの」
     そう言いながら母がお腹をさすって微笑んだ。あの日から、私は兄になった。

    「兄上」
     呼ばれた声にふと我に返る。弟が部屋にやってきていたらしい。うっかり考えに耽っていて声をかけられたことに気付かなかったが、何度か呼んでくれたのだろうか。藍曦臣が立ち上がって弟を迎え入れようと扉を開けると、弟は手に籠を提げて立っていた。恐らく夕餉だろう。
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