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    chunyang_3

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    POIPOI 17

    chunyang_3

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    CQL50話の後の懐桑と藍曦臣の話(https://poipiku.com/2517302/5280800.html )に至る兄上と“兄弟”の話。nielanなのかyaolanなのか?みたいな感じですけど、どっちも違うベクトルで大切だったんだろうなぁと思う。“兄弟”にこだわる兄上の話です。お誕生日に上げる話じゃない気がするけどおめでとうございます!(遅刻)
    ※竜胆要素は原作からです

    #藍曦臣
    lanXichen
    #藍忘機
    blueForgottenMachine
    #三尊
    sanzun
    #CQL

    竜胆の願い 修練を始めてからは月に一度、母と会えるのを楽しみにしていた。母上にこんなことができるようになったと言ったらまた褒めてもらえるだろうかと期待しながら向かっていた。叔父上は厳しい方だったので辛いと感じたこともあったはずだけれど、記憶にあるのは母にたくさん話をすると褒められるのが嬉しかったことばかりだ。そんな毎日だったからだろうか、母と叔父しかいない世界が変わった時のことは鮮明に覚えている。
    「あなたに弟か妹ができるの」
     そう言いながら母がお腹をさすって微笑んだ。あの日から、私は兄になった。

    「兄上」
     呼ばれた声にふと我に返る。弟が部屋にやってきていたらしい。うっかり考えに耽っていて声をかけられたことに気付かなかったが、何度か呼んでくれたのだろうか。藍曦臣が立ち上がって弟を迎え入れようと扉を開けると、弟は手に籠を提げて立っていた。恐らく夕餉だろう。
    「お前が持ってきてくれたのか。ありがとう。入ってくれ」
     頷いた忘機が部屋の中まで来ると、二人で卓を挟んで向かい合わせに座った。弟は持ってきた器を取り出して並べてくれる。今日は普段よりも腕の数が多い。清談会が雲深不知処で開かれるから、今晩は宴だったはずだ。
    「忘機、皆の様子はどうだった?」
    「変わらずです。少々、まだ落ち着かない門派もありますが」
    「そうか」
     弟も明確にどこのとは言わないが金鱗台は落ち着くまでに時間が掛かるだろう。宗主があのような形でいなくなってしまったのだから。そこまで考えて反射的に蘇る手に握った剣の感覚に拳をきつく握ってしまい、曦臣は思わず目を伏せた。
    「兄上……」
     気遣う弟の声を頼りに深呼吸をして、目を開けながら指先から力を抜く。
    「大丈夫だ。お前も今日は疲れただろう」
     藍曦臣が聞くと、弟は首を横に振った。持ってきた夕餉を入れてきた籠の中から続けて白い包みを取り出した。
    「兄上、これを」
     卓の上に置かれた白い紙の包みからは、青紫色の花びらがのぞいていた。
    「咲き始めていたので、兄上にと」
     藍曦臣が包みを手にして開くと竜胆の花が一本、いくつもの小さな花を咲かせている。この竜胆の青紫色を見たのは久しぶりだ。
    「もうそんな季節になっていたのだな」
     秋になると咲く竜胆は母の記憶と強く結びついている。そして、私にとっては母だけでなく幼かった弟と三人の記憶でもある。
     兄になると知った時、兄とはどんなものなのかよく分かっていなかった。だが、父とはほとんど会うこともなかったから、弟が産まれて家族が増え、あの母の居室を離れても一人ではないことが嬉しかったのかもしれない。
     自分よりも年少の彼を守っていくべきは自分だという意識ももちろんあったけれど、何より弟が一緒にいるのは嬉しくて心強かった。
     弟は母の前では困った顔をしていることも多かったが、滲み出す喜びを表現するのがあまり得意でなかっただけなのは知っていた。彼は幼い頃から言葉少なかったが、母を喪ってからは嬉しそうな弟を見る機会は少なくなってしまった。
     今は魏公子が側にいることで、弟がそんな風に喜ぶ機会が増えているのだろう。兄としては喜ばしい限りだ。
    「そういえば、今日は魏公子はどうしている?」
    「酒盛りをしています」
     あまりにも当たり前のように答えた弟に、思わず言葉に詰まりながらも聞き返してしまった。
    「酒盛りを……?」
     言うまでもなく、雲深不知処での飲酒は禁じられている。とはいえ、魏無羨が来てからというもの、彼が静室で天子笑を呷っているのは公然の秘密のようなものになっている。しかし、外部の者を引き入れてとなると話は変わって来る。
    「魏嬰がたまには酒を飲める者と一緒に飲みたいと言うので」
    「それは一体誰と?」
    「聶宗主を連れて来ると言っていました」
    「懐桑を……ふはっ、そうか」
     藍曦臣が思わず笑ってしまうと、弟は困惑した表情を浮かべた。
    「昔、お前と魏公子が酒を飲んだと罰を受けたことがあったろう。あの時、最初は江宗主と懐桑もいたのだろう?」
    「……えぇ、確かそうだったと思います」
     随分昔のことなのに、弟が家規を破るなんてことはずっと無かったから、印象に残っている事件のひとつだ。弟もまだ若かったが、藍曦臣自身も今以上に青二才だった。
     隠れて酒を飲もうとするなど、若気の至りの最たるものだ。そんなことを画策しているとは、眩しい何かを見てしまったような気分だ。
    「笑ってしまってすまない。まるで何も無かった頃のようだなと、思ってしまって」
    「兄上……」
     何も無かったのなら、こんな風に雲深不知処で酒を飲んでいる話を弟とすることなどあり得ない。そう理解しているのに、何だか急にあの頃が懐かしくなってしまった。
    「忘機もこれからその酒盛りに加わるのか?」
    「えぇ。私は飲みませんが」
     仙督となった頼もしい弟が、心なしか弾んだ声の響きのせいだろうか、母の元へと通っていた頃の小さな彼に重なって見えた。


     明日が清談会だと言うのに、随分と軽い足取りで向かう弟を微笑ましく送り出し、藍曦臣は再び部屋にひとりになった。その静けさに、目に入ったもらった竜胆をひとまず小さな水差しに挿すことにした。
     視界に竜胆の花を入れながら、せっかく持ってきてくれたのだからと、藍曦臣は夕餉に手をつけるべく卓の前に座った。長らくひとりで考えごとをしているばかりのせいで食欲がないことが多かったのだが、今日は少し笑って楽しくなったのか食べられそうな気がした。
     座って箸を手に持ち、汁物の芋を摘んで口に入れた。宴に出した献立だけあって手がこんでいる。後で忘機に持ってきてくれたことの礼を改めて言わなければ。先ほどまで弟が座っていた卓の向かいの空席に視線を向けた。この十六年を思えば、兄としても今の忘機を見て良かったと思う。
     藍家双璧の弟の藍忘機は唯一無二の知己を手に入れた。それでは私は? 兄の藍曦臣は何を手にしたのだろう。
     契りを結んだ義兄も義弟も、今はもうこの世からいなくなってしまった。しかもそのどちらもが、自分が手を伸ばしたから失ってしまったようなものらしい。そこまで考えてから食べ進める気にならず、藍曦臣は箸を置いた。
     観音廟から戻ってからはこれまでのことをずっと思い返していた。大哥と初めて出会った頃、父が死んで宗主になった頃、温家に雲深不知処を焼かれ逃げていた時に阿瑶に匿ってもらった頃、「射日の征戦」後に三人で義兄弟の契りを交わした頃。そして、大哥の行方が分からなくなり、長いこと音沙汰の無かった中で起きた今回の件。何かひとつでも違えば今のこの結末には辿り着かなかっただろうかと考えてしまうけれど、別の何かを選んでも藍曦臣の両手に何も残る気はしなかった。
     両手に視線を落とし、その手が空虚で何も無いことに吐き気がして思わず両手で顔を覆った。
     宗主という道を捨て誰か一人を追い求める生き方をするべきだったのだろうか。そう何度も考えたけれど、そんなことを藍曦臣にすることはできなかっただろう。もう一度やり直しをして選べると言われても、誰か一人の手を取り続けることができるか自信が無かった。それは宗主として、兄として守るべきものがあると信じて生きてきたからなのかもしれないけれど、そんな風に理由をつけて欲しいものを手に入れようとしていたからでもある。では手に入れたかったものは何なのだろうか。もしかしたら、自分が欲しかったのは兄と弟という家族なのだろうか。
     思い返してみれば、聶明玦と金光瑶の二人の仲は兄弟になれば万事解決するだろうという期待は土台無理な話ではあったのだろう。けれど、当時はきっとこれで上手くいくだろうとしか考えていなかった。
     結果的に大哥のためを思った行動が彼と共に過ごせる時間を縮め、守りたかった阿瑶を守ることもできずに彼に利用され、挙句にこの手で彼に刃を向けた。そんな藍曦臣を、聶明玦の唯一の肉親である懐桑はきっと恨んでいるのだろう。だからこそ、藍曦臣の手で金光瑶を殺させようとしたのではないかとすら思う。
     藍曦臣が知っている金光瑶は他の皆が言うような姿とは程遠くて、藍曦臣は酷く混乱した。そんな藍曦臣がまるで糸繰人形で操られるように辿り着いてしまった結末に至っても、操り手が聶懐桑であることなど考えもしなかった。まだそれを信じたくないほどに、整理がついていない。けれど聞こえないふりをして、見えていないふりをしようとしても、目の前から消えるわけではない。
     ふと、懐桑はまだ藍曦臣のことを義兄と思っているのだろうかと疑問に思う。大哥がいなくなってしまって以降、彼がいつ金光瑶のことに気づいたのかは分からない。だが、彼は今に至るまで一度も態度を変えることは無かった。観音廟が大きく崩れた後ですら、藍曦臣の前では「一問三不知」で、すぐに助けを求める懐桑であり続けている。
     もしやもうずっと前から藍曦臣は弟を一人失っていたのだろうか。大哥がいなくなっても、懐桑が義弟であると思っていたのは藍曦臣だけなのかもしれない。曦臣哥と呼ぶのは口先だけのことなのかもしれない。ただ、大哥と阿瑶とひとつ違うのは、懐桑とはまだ会おうと思えば会えることだ。
     藍曦臣はそこまで考えて卓から離れ、琴を出した。指が爪弾くのは、何度も弾いた「清心音」だ。悪用されるなどということを考えもしなかった旋律。清く、美しく、心を落ち着ける旋律を奏でながら、この曲を弾かなければ変わったことがあったのかどうか、何度目か分からない堂々巡りに入ってしまいそうになる。
     それにしても、魏の公子と懐桑との酒盛りはいつまでやっているのだろう。きっと忘機のことだから、亥の刻を超えて騒ぐということはさせないだろう。そもそも明日に響くようなことがあれば、いくら聶宗主が普段からそう積極的な発言はしないにしても、朝まで飲んでいたら怪しまれるに決まっている。
    「懐桑に飲ませすぎないようにと言うべきだったな」
     まるで面倒見の良い兄のように独りごちてしまってから、一度試してみても良いだろうかと思いつく。きっとこれからも彼とは聶宗主と藍宗主という立場で話す機会はあるだろう。それでも、兄と弟という関係で話す機会はもう無いかもしれない。あったとしてもそれは乾いた空虚な響きが長く続くだけなのかもしれない。だから、そうなる前に今晩話す機会を作ろうではないか。
     そう決意して再び卓の上に視線を向けると、水差しに挿した竜胆が薄灯に照らされていた。竜胆は一本に沢山の蕾をつけて花を咲かせる。私はこんな風にいくつもの花を咲かせることはできないのかもしれない。こんな風に庭から手折ってきた花を愛でるように美しい思い出だけを抱えて生きていくのも悪くないのだろうとも思う。それでも、その思い出を分かちたいと思うのは欲張りだろうか。
     何かひとつくらいこの手にあれば良いのにと願うくらいは許して欲しい。そう思いながら藍曦臣は立ち上がり、扉を大きく開け放った。家規で夜間の演奏は禁止されているのを承知で、藍曦臣はこの願いが叶うことを祈りながら再び琴で清心音の旋律を緩やかに弾き始めたのだった。
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    chunyang_3

    MEMO観音廟の後、藍忘機と別れ一人で旅をしている魏無羨が蓮花塢に立ち寄って金凌と出会う話。CQLを見終わった時に全て終わった後の金凌と魏無羨が再会するのを見たいなと思っていたのですが、魏無羨から両親の話を聞く話になりました。※原作の番外編の再会とは異なります。
    話を聞かせて 目の前に広がる蓮の花の咲く景色を瞳に映し、魏無羨は大きく深呼吸をした。早朝の水辺の空気そのものを吸い込んだような清々しさに、自然と顔が綻んでしまう。朝食を売る屋台の呼び声が聞こえ、波止場の街には既に活気がある。
     この世から消えてしまってからの十六年。決して短くない時の流れの間に変わってしまったことも変わっていないこともある。蓮花塢には少しばかり前にも来たけれど、その時はこんな風に優しく吹く風を感じる余裕は無かった。慌ただしく走り抜けるばかりだった景色が、今は目の前に悠然と広がっている。
     今になって思えば、魏無羨が帰る場所というのは元々この世には無かったのかもしれない。ここ蓮花塢は幼い頃から育った場所でとても大事でかけがえのない存在であることは今も昔も変わらないけれど、魏無羨が帰る場所では無くなってしまった。それは、江澄に江家を破門される前から頭では理解していたことだったが、こうして訪れてみると改めて実感する。
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    chunyang_3

    MEMO景儀と思追の出会いの妄想です。思追が温寧と温家の弔いを済ませ雲深不知処に戻った頃に、魏無羨も雲深不知処に留まる様になったという時間軸の設定です。うさぎと一緒に人参を食べていた頃の思追くんと景儀の出会いの話を書いてみたくなって書きました。
    君と兎と しんと静まり返った蘭室を前にして、藍景儀は柄にもなくとても緊張していた。今日は景儀にとって初めての座学だ。随分前に蘭室には遊びで入って良い場所ではないと叱られてからは一度も近寄っていないので、この建物に来ること自体、ちょっと尻込みしてしまう。
     同じ年頃の藍家の子弟が中に入って行くのに続けて景儀もその静かな空間に足を踏み入れた。周囲を見回してみると、どうやら空いている席に座って良さそうだ。
     こっそり息を吐いて、周囲を見回す。近くに誰か景儀が知っている友達がいると安心できるのだけれど来ているだろうか。そう思って既に座っていた隣の席の少年へと視線を向けた景儀は、視界に入ってきた横顔に思わず息を呑んだ。まるでお手本のように姿勢良く座っていた景儀と同じ白い藍氏の校服を身に纏った少年も、隣に誰かが座ったことに気付いたらしい。軽く横へ顔を向けたことで、景儀と顔を互いに合わせることになった。その顔を見て、景儀は思わず叫ばずにはいられなかった。
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    MEMOCQL話数ワンドロワンライアンコール開催分。2周目に見る1話の魏無羨が過ごす夜の話です。2周目ということにすれば、これまでのことを思い出しているんだろうなぁということがネタバレ有りで書けるのでは!?と思い立って書いた話です。草笛で奏でる旋律は全てを失った魏無羨に残された魂に刻まれたものなのだろうなと思えてとても好きです。
    ※画像で上げたものと基本的に同じですが、表現を手直ししています
    残されたもの 魏無羨はこれでも一応途方に暮れていた。
     今の状況で途方に暮れない人はほとんどいないだろう。一度死ぬ前の魏無羨なら、もう少しは不遜な態度でもしてみせたかもしれない。とはいえ、一度魏無羨はこの世から消え、死んでいる間に十六年も時が経っていたらしい。そんな事態なのだから、魏無羨だって多少は途方に暮れても許されるのではないだろうか。
     せめて魏無羨をこの世に蘇らせた莫玄羽が詳細を書き残してくれていれば良かったのだが、どうやらそこまでは考えなしだったのか、それとも詳細を書くことを躊躇っていたのか。
     魏無羨の魂を呼び寄せ、己の魂魄を犠牲にした莫玄羽は魏無羨に負けず劣らず周囲に敵しかいない状況ということは否応なく理解した。一体何をして金家から追い出されたのか詳しくは分からないが、金家にも莫家にも居場所がなかったことだけは確かだ。そんな莫玄羽と一度話をしてみたかったなと思う。もし話が聞けたなら、怨んでいる相手くらい分かるようにしておいてくれとか、陣の描き方のちょっとした間違いなんかを説教してしまうかもしれないけれど。
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    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライ5回目(41〜50話)。50話の思追と温寧です。番外編も含めて叔父さんって呼んでるの良いなぁと思っています。思い出さない方が良いと思っていた温寧が、二人で一緒に走って追いかけるんだなぁというところが改めて嬉しいなと思いました。
    焔つなぐ 少し前からもしかしたらと思うことは幾度もあった。己が一体どこの家に生まれ、父母亡き後に一体誰と一緒にいたのか。
     思追は幼き日のことを覚えていなかった。けれどそれは忘れていただけだったのだ。もう会うことは叶わないはずだった人に出会ってから、忘れ去られていた記憶は少しずつ断片的に焔が灯るように蘇っていた。真っ暗な夜空に散らばっていた小さな灯りは、輝く星が互いに繋がり星座を描くように、段々とその全容を理解することができるようになっていた。
     観音廟の外に出ると、思追は駆けつけた他の子弟達に囲まれ、無事を喜ばれながらも観音廟での事の顛末を聞かせてくれとせがまれた。温寧を追いかけて辿り着いてからのことだけでも、思追が説明することは難しい。ましてや金光瑶がどのような人物であったのかを語ることもできそうにない。十六年前に起きたことについても同様だ。それでも、この目で見たことや感じたことはしっかりと覚えておきたいと思った。だからこそ、今はまず不確かな己の過去と向き合いたかった。
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    MEMOCQL話数ワンドロワンライ4回目(31〜40話)。39話の刀霊に対面する藍曦臣はどんな気持ちだったのだろうかというのが気になって書いた話です。原作読んでから見るとあの再会シーンだよなぁとも思うところ。この時になって初めて兄上は金光瑶に対する疑念の欠片を抱くのかなと思いはするんですけど、水面が初めて揺らいだ時だったのかもなぁと感じます。
    揺らぐ心 藍曦臣が弟からの知らせを受けて宿に辿り着いた時、藍忘機と莫玄羽はまだ宿に着いていなかった。今ここにいるのは知らせにあった義城で遭遇したという各家の子弟達だろう。若者達は徐々に宿の門の前に集合しつつあった。
    「沢蕪君!」
     藍曦臣に気付いた藍氏の子弟達が近付いてくる。揃って礼をした彼らを見回して、皆無事そうなことに胸を撫で下ろした。
    「忘機はどこに?」
     藍曦臣が問うと、手前に居た藍思追と藍景儀がそれぞれに口を開く。
    「含光君と莫先輩は街を見てくると言っていました」
    「集合の時間を過ぎたのに、まだ戻ってないんですよ」
     景儀が少々不満そうなので、どうやら二人は随分とゆっくり街を見ているらしい。仲良くしているのなら良いことだ。弟がそんなに仲良く連れ立って歩きたいと思う相手などいるのか……と、そこまで考えて頭を振る。これはあくまで仮定の話でしかないし、確証はない。
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    chunyang_3

    MEMOCQL話数ワンドロワンライ3回目(21~30話)。28話の夷陵で再会した忘羨と阿苑の話です。剣と刀で2本買ってもらったんだなぁなんてことを思いながら書きました。
    ※画像で上げたものと基本的に同じですが、表現を手直ししています
    夷陵での再会 子どもがずっと乱葬崗にいるのは良くないかもしれないし、阿苑なら温氏だと誰かに気付かれることもないだろうと、魏無羨は街の様子を見せるためにも阿苑を夷陵の街に連れてきていた。目を離したほんの一瞬でいなくなった阿苑に肝が冷えたのは一瞬で、阿苑はなんとあの雨の中で別れたきりの藍忘機の足元でわんわんと声を上げて泣いていた。
     久しぶりに遭遇した見知った顔が、阿苑を泣かせているなんて思いもしなかった。あんな別れ方をしたのに、再会がこんな笑える場面だなんてことも思いもしなかったけれど。お陰で声を掛けることに悩まずに済んだし、冗談を言って揶揄って、まるで何もなかったかのように話をすることができた。
     屋台の玩具屋の前で足を止め、阿苑に玩具を見せてひやかした。乱葬崗には玩具などないし見せてやるくらいしてもいいだろう。しかし、阿苑に玩具を見せて喜ぶ姿を見た藍忘機は、なぜ買ってやらないと不満気に疑問をぶつけてくる。そりゃあ、お金があったらいくらでも買ってやりたいが、今の魏無羨にはなかなかそうもいかない。
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     同じ年頃の藍家の子弟が中に入って行くのに続けて景儀もその静かな空間に足を踏み入れた。周囲を見回してみると、どうやら空いている席に座って良さそうだ。
     こっそり息を吐いて、周囲を見回す。近くに誰か景儀が知っている友達がいると安心できるのだけれど来ているだろうか。そう思って既に座っていた隣の席の少年へと視線を向けた景儀は、視界に入ってきた横顔に思わず息を呑んだ。まるでお手本のように姿勢良く座っていた景儀と同じ白い藍氏の校服を身に纏った少年も、隣に誰かが座ったことに気付いたらしい。軽く横へ顔を向けたことで、景儀と顔を互いに合わせることになった。その顔を見て、景儀は思わず叫ばずにはいられなかった。
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