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    明確に両想いで付き合ってる由巡
    めぐるの実家がゴン太のやつ
    夏季休暇で避暑に行く由巡

    またしてもいちゃらぶしてないしなんか暗い
    社会環境と歴史をかなり捏造

    別にあっちにも今さっき上げたけどこっちもあげとく

    #由巡

    棺にて眠らない 通常勤務終了の後、珍宿署からそのまま通勤用の車で東京を出てサービスエリアで休憩を挟みつつ一晩かけて関東を出る。
     通い慣れていない、どころか何年も前に一度行ったきりの山奥まで車を走らせるのはキツいが、公共交通機関を使うよりもメリットの方が大きいので多少の無茶をしている。

     巡との待ち合わせ場所に指定されたのは、既に田舎もド田舎の集落だった。地方らしく周辺の家は塀と庭付きの戸建てが殆どで、その中では比較的小さめな家が巡との集合場所だった。最後のサービスエリアと高速を降りた時点での連絡はしてあるがなにせ道路というものは到着時間が読みにくいものだが、既に巡の車は庭のスペースに停められていた。
     小型の、しかしごついオフロード車。どの程度の時間待っていたかは分からないが、巡は家に上がることもなく後部座席を丸ごと使って寝転んでいた。

     コツコツ、とウインドウをノックする。目を瞑ってはいたが寝入っていたわけではないらしい巡は、排気音で既に気がついていただろうに気だるげにゆったりと起きあがってドアを開けた。

    「長距離運転お疲れさん。どうする? 茶でも出してもらう? それとも一寝入りしとくか?」
    「いや、ここからはそこまで遠くないだろ? このまま向かうさ。着いたら流石に仮眠を取らせてもらいたいが」

     あっそ。
     素っ気なく運転席に移動すると、俺を先導するために巡はエンジンをかけ始めた。庭を間借りしておきながら挨拶の一つもしないのは気が引けるが、そのあたりはまだ俺が踏み込んでいい領域ではないことも分かっているので、ツテで後日お礼は伝える事にする。
     既に都会育ちの俺から見ると限界集落一歩手前みたいな村から更に山奥へ。舗装の文字は辞書から消したと言わんばかりの悪路を通勤車で通るのは乗り心地が最悪だが、分かっていたことであるし、まあこういうところ自分は案外耐えられる質なので問題はない。珍宿に戻ったら車のメンテナンスは行くが。


     山奥も山奥。そこにぽっかりと空いた空間に、古き良き日本家屋、ではなく割りと現代的な一軒家と広大な庭。
     不釣り合いな、不自然な、どうにも座りの悪さを感じさせる、ごく普通の都会で見慣れた戸建てが県内の中心街からも遠く離れた大自然の中に鎮座していた。

     巡はさっさと庭に付いている車庫に車を停め、庭を突っ切って玄関へと向かっていた。俺も空いている車庫に車を停める。土地が有り余っているだけあって、随分と停めやすいスペースの広さだった。

    「お前の部屋はリビングの左側な。寝る前になんか胃に入れるか?」
    「いや、食事は途中のサービスエリアでとってきたから。それより軽くシャワーだけ浴びていいか? このままベッドに入るのはちょっとな…」

     風呂場はこっち。タオルこれ、寝巻きこれ、シャンプーリンスは好きに使えよ。
     ちゃきちゃきバス用品を渡した巡は、そのままキッチンの方へ向かっていった。有り難くタオルなんかはお借りして、最低限の汗や汚れを落とす。自分で望んで選んだとはいえ強行軍は強行軍だったので、疲れがひどい。風呂上がりに、リビングのソファでコーヒーを飲んでいる巡は素通りして寝室に向かう。巡が気を利かせたのか適温に冷房が入っていて火照った身体に心地良く、質の良いベッドで俺はすぐに眠りに就いた。


     弱めにかけたアラームで目覚めると、丁度昼頃だった。
     リビングにまだ巡は居るかと顔をだすと、朝までは普段通りの黒シャツに黒パンツの黒尽くめの洋服だった巡はツイードのような細かい格子の入った濃紺の浴衣を着ていた。俺も詳しくはないが帯の結びがあからさまに適当なのは、まあ部屋着としての着用故だろう。
     由基も着るか? と言われたのでせっかくなので着用することにする。俺に渡されたのは、黄みがかった白地に茶色の大きめの格子が入ったものだった。浴衣の着付け方を知らなかったので、巡が着付けてくれた。着崩れはしないように紐はきっちりと締められた。帯は変わらず適当だったが。

     昼メシはどうする? とキッチンに向かいもせずソファに深く腰掛けて巡が問う。一人暮らし用ではなく家族用のやや大きめな冷蔵庫を開けると、ベーコンやソーセージの加工肉から、牛、豚、鶏。ドアポケットには牛乳とアイスコーヒーとアイスティー、オレンジジュース、ケチャップ、マヨネーズ、麺つゆ、ドレッシング各種、チューブのにんにくと生姜、他調味料各種。棚には、タッパーに惣菜が複数。冷蔵保存のレトルトの他に卵とヨーグルトと味噌、缶ビールと缶チューハイが冷えている。冷凍庫や野菜室もここと同じで充実しつつも調理後の食事の収納の隙間が考えられて適度に埋まっているだろう。
     粗方の料理は作れそうだ。と思いながら、惣菜の野菜の揚げ浸しを見て夏らしくそうめんと揚げ浸しにしようか、と巡に提案する。俺は二束。とそうめんの量だけが返ってきた。俺が茹でるんだな、別にいいけど。

     鍋に湯を沸かしながら、そうめんの入った木箱のビニールを剥がす。茗荷とネギも刻んでおこう。そうめんは茹であがるのが早いので。

     夏野菜と豚しゃぶが入った揚げ浸しは、ちょうどよい濃さで味が染みすぎてもなく、前日くらいに作られたのが分かる。
     巡は涼やかなガラスの器に盛られたそうめんを、茗荷とネギとゴマの薬味全部盛りの麺つゆで啜っている。


     調理は任せたから、と皿洗いは巡が請け負ってくれた。俺はそうめんを茹でて薬味を刻んだだけなのだが、まあ洗い物もそう多くはない。巡は器用に手で食器類を洗いながら、念動力で濡れた食器を拭き上げている。いつ見ても器用というか、手足が一対以上ある様な振る舞いは断絶にも似た不理解を突きつけられるような心地になる。


     昼食の後は何の予定も決めていない。テラスに出るにはまだ気温が些か暑い。夏の盛りも過ぎて、低山とはいえそれなりの標高でもあるのだが近年の異常気象と、今日は照りつけるような良く晴れた日だった。
     結局、冷房の効いた室内で最近巡がハマっているらしい対戦カードゲームをすることになった。
     未開封のカードが入った箱を巡がテンションを上げながら開封する。お前も開けろよ、と幾枚かのカードが入ったパッケージを渡されるのだが、知識の無い俺には何が強くて良いカードなのかは分からない。とりあえず、他と比べて装飾が多くて数字が大きいカードを見せてみたら巡がギリギリと悔しがっていた。これは俺のカードだから。巡と遊ぶために珍宿に帰ってからも勉強して始めるから、カードゲーム。

     ルールと定石を説明されて何度か勝負したが、流石にカード運が良かった一度しか勝てなかった。
     日差しも和らいできたし、テラスでお茶でも飲みながらお茶会と洒落込もうか、とどちらともなくカードゲームを片す。まあほとんど勝負になってなかったしな。仕事が忙しくてゆっくり巡と話す機会はいつでも不足しているのだ。

     紅茶とコーヒーと、と飲料を見る。巡はエスプレッソメーカーのカプセルを吟味している。俺はといえば、アールグレイの未開封の茶葉缶を見つけたのでそれにする。ピッチャーに氷を詰めてアイスティーを作る。既製品より淹れたてがやはり美味い。

     広々としたテラスはほどよくそよ風がふいて、配置されているのはシンプルな広い机にクッションの敷かれた木製の椅子。端のほうには吊り下げタイプの卵のような形をした分厚いクッションがたっぷりと詰められたハンギングチェア。
     机に飲料と茶菓子を置くと、椅子にそれぞれ腰掛ける。
     常より穏やか、というかどこか気の抜けたようなぼんやりとゆったりとした様子の巡と語り合う。



     この家は、巡の実家、のそのまた親戚の、いわゆる本家が所有している邸宅だ。
     世間一般より少し遅れるが警察でも夏季休暇はもらえる。巡が休みを合わせてこの地方の屋敷に泊まりに行こうと言い出したので二つ返事で了承して必死で休みを調整したわけだ。
     ここには、相棒時代にも一度だけ来たことがある。

     巡の家系は時折超能力者が生まれる血筋らしい。どうにも不透明なところの多い超能力者というものであるから、世の中の平均よりはるかに多く超能力者が生まれる因果関係は分かっていないが、巡の先祖は現代より超能力への偏見が良きにしれ悪しきにしれ多かった時代を、その力を利用するよりも隠して守ろうとした、らしい。
     座敷牢が冗談ではなく防護シェルターだった時代の話などは、巡が飛び飛びに話す上に中途半端に切り上げられるので詳細は俺も知らないことにしているのだが。

     土地の歴史に反して現代的なこの家は、今代の超能力者の巡の為だけの避難所だ。
     都会から遠く離れた集落からも更に離れた、隔絶された、人付き合いを完全に拒絶するための、害意を完璧に排除するための、土地と家。



     巡の超能力が発覚した時に建て直された家。手入れの行き届いた車。洗濯されたばかりと分かる肌触りの寝具と衣服。掃除どころかワックスかけまでされたと分かる、磨き上げられた室内。巡の好みで揃えられた未開封の食材と惣菜。カードの他は、おそらくプラモ等の娯楽類も。
     テラスから望める庭は、つい最近植え替えられただろう記憶と種類が違う全てが花の盛りの草花。

     相棒時代の記憶では巡が何年に一度程度しか訪れないこの家に、管理の人員と金を掛けられる程にあの本家はありとあらゆる余裕がある。

     巡に超能力があると分かった時点で、人生のどの時でも、今からだって、巡はこの隔絶された家で一生微睡んでいられる。
     誰とも関わらず、誰にも傷つけられず、与えられた物だけを受け取って死んだように生きていける。
     絶望で取り返しがつかないほど自らを傷つける人間が絶えない以上、社会の明確な異端である超能力者の巡にこんな環境を用意すること自体は全面的には責められない。けれど、どうしようもなく、真綿で窒息させるような慈愛だけで構築されたこの家が俺は好きになれなかった。

     巡自身、箱庭で息をしているだけの生き方を受け入れられないから、ああして場末とはいえ警察官として勤務している。
     管理を任せられている親戚に顔も合わせないのは、親族への拒絶感と本当に稀ではあってもその恩恵を享受している現状への葛藤だ。「本家、というか親戚連中とは…、なんていうかな、」と、相棒時代に迷うように、躊躇うように口籠った末の台詞は、『反りが合わない』か『居心地が悪い』か。それらを口に出したくもないほどに、二者の関係と感情は捻れている。

     別に、巡の親族は強硬に巡を隠居させようとしている訳ではない。
     自由意志の尊重の上で、常に逃げ場所を提供し続けているだけだ。それが、癒やしやゆとりになる時もあれば、毒になる時も当然あるというだけで。


     何年か振りの、二度目の訪問。
     以前来た時には無かった、俺の好みの白地の浴衣。未開封のアールグレイの紅茶缶。
     庭には薔薇が植えられている。昨日今日ではない、地植えのそれなりに育った数種類の色とりどりな薔薇。相棒時代に来た時にはこちらも無かった。
     何年も前に、実家の庭に薔薇があったのだと巡に話した。祖母のこだわりの薔薇はそれは見事だったのだが、祖母の四十九日が終わった翌日には全て枝を切られて母の手で燃やされていた。植木屋を待つでもなく、ゴミ収集に出すでもなく庭の空き場所で自らの手で燃やす執念は、自分の知らなかった嫁と姑の確執を表していた。
     あんまり笑えない笑い話として何の気なしに話したそれ。無知で幼く、無条件の愛と幸福と世界の優しさを信じていた象徴の花。

     巡の為だけの家に俺の影響を見る度に、あまり良い印象の無かった巡の親族に、痛ましさのような形容しがたい感情がよぎる。心の読める巡ならば、コレを言語化出来るだろうか。

     この家に詰められたのは『愛』だ。愛だけが、執拗に詰められている。身動きが取れなくて窒息するほどの慈愛。
     あらゆる感情は、人を殺せるとまざまざと思い知らされる。哀しさすら感じるおぞましい箱庭。



     明日の昼には此処を出て、俺たちは珍宿に帰る。
     この家で巡が睡る時は、『俺の巡』が死んだときだろう。
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