伊月暁人。俺はこの名前に聞き覚えが合った。彼は1ヶ月以上前に殺されていた、俺が担当している事件の被害者なのだ。まさか幽霊としてこの世に彷徨い続けているという真実に驚いた。だが、生前の記憶がなく、誰に殺されたかもわからない状況では成仏することもできず、彷徨っていたということなのだろうか。一応犯人の目星はついていたが、証拠が中々掴めず難航していた。凛子は彼に会い、その上パーカーを貸してあげたと。
「彼、結構律儀な幽霊だったわ」
「そうか、そういやどんな服装してたんだ?」
「帽子を被ってて、ネクタイをして、裾の長い上着を着て、あとはタイツとハイヒールだった」
「字面からしたら少しアウトな感じだが、そんな格好する奴なのか?」
「さあ、私は知らないけど」
「ふーん、まあいいか」
「あと彼は『リスト』に載っている人間を殺してるって言ってたわ。まるで死神みたいに」
「死神?」
もしかして今までの変死事件はあいつがやっているのだろうか?幽霊の殺人事件なんて裁きのしようがないか。
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「誰、警察?僕のこと見えてるの?」
壁や天井に血や肉片が飛んだ部屋の中で金庫を開けようとした人物がいた。凛子が言ってた通りの服装だ。
「幽霊か?」
「そうだけど」
「ここにいた人物は?」
「全員殺した」
「なぜ殺した?」
「『リスト』に載っていたから」
ダイヤルを回しながら質問に答えていく。こいつが連続変死の元凶である可能性が出てきた。
「この『死人A』の紙はお前なのか?」
「そうだけど」
幽霊が犯人だったのか。
「じゃあお前はなんのために人を殺すんだ?」
「わからない。ただ『リスト』に載っている人を殺すのが僕の仕事かもしれないから」
「仕事だと?ふざけたこと言いやがって!」
思わず胸ぐらを掴む。
「僕に触れられるなんてすごいね。これで二人目だよ」
「1人目は?」
「八雲凛子、知り合い?」
「知り合いもなにもあいつとは別の仕事で付き合いがある」
「そう、じゃあ後でよろしく言っといてよ」
「お、おい!待て!」
あいつは逃げるように消えていった。まだ聞きたいことが山ほどあったのだが仕方ない。とりあえず凛子に報告しに行くことにした。
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「お兄ちゃん?」
目を擦ると涙が出ていた。どうしてだろう、こんな夢を見たのは初めてだった。ベッドから出てカーテンを開けると眩しくて思わず目を細めた。あれ、なんの夢を見てたんだろう。お兄ちゃんが私のそばに寄り添っているような感覚があったんだけど。もしかしたら本当に幽霊になって会いに来てくれたんじゃないかと思ったけどそれはないかと思い直した。お兄ちゃん・・・どうして、どうして殺されちゃったの?お兄ちゃんが何かいけないことでもしたの?私を置いて先に行っちゃうことなんてあるはずがないもん!事件に巻き込まれたに違いない。私がしっかりしていなかったせいだ。お兄ちゃんがいない世界なんか考えられない、考えたくもない。ねえ、幽霊でもいいから傍にいてよ。一人ぼっちは嫌だよ・・・
「・・・」
着替えをして朝食を作る。テレビをつけて朝のニュースを眺めながらトーストを食べる。内容は暴力団の人間が殺されたというもの。
「怖いな・・・」
そう呟いて朝食を食べ終えて学校に行く準備をする。
「誰?」
カーテンの向こうに黒い影が見えたが、何かの見間違いだろうと気にしなかった。
「自分の兄があんなことをしているって知ったらショックを受けるだろうな」
麻里の背中を眺めながら呟いた。