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    結構温存していた記憶喪失ネタ

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    あの日から兄は変わってしまった。スクランブル交差点で交通事故にあった。バイクを運転中に車と衝突した。一応命を取り留めて、意識を取り戻したけど、私の知っている兄じゃなくなっていた。
    「あの、どちら様ですか?」
    記憶を無くしていたのだ。私は泣いた。兄の身を案じて泣くんじゃない。家族の思い出が消えてしまったから悲しくて泣いているんだ。自分のことを何一つ覚えておらず、自分がどういう人間かも分からない兄に毎日会いに行った。最初は怯えていたけれど、次第に打ち解けていって、退院する頃には私のことを妹だと認識してくれていた。けど、時々不安になることがある。このまま記憶を取り戻さなかったらどうしようかと。そう考えるだけで胸の奥が苦しくなる。兄には幸せになってほしい。でもその願いは叶わないかもしれない。だから今日も祈るように願う。
    (どうかお兄ちゃんの記憶を取り戻してください・・・)
    そんなことを考えていると、いつの間にか駅に到着していた。電車を降りて改札を出るとそこには兄がいた。
    「お兄ちゃん!?」
    「麻里・・・」
    「どうしてここに!?」
    「行ったことがある場所に行けば何か分かるかなって。それにここならお前がいると思ったからさ」
    「そっか・・・。嬉しいよ」
    嬉しかった。まさか私に会いに来てくれるなんて思ってなかったから。
    「それで?これからどこに行くの?」
    「そうだなぁ・・・とりあえず僕が記憶を失う前に行ったことがある場所で」
    そう言う兄はどこかふわふわとしている感じで、まるで夢の中にいるみたいだった。私は兄の手を握って、引っ張った。
    「ちょっ!急に手を握るなよ!」
    「だってこうしないと迷子になっちゃいそうなんだもん」
    「確かに一理ある・・・」
    私たちは手を繋ぎながら歩いていった。
    「ねぇ、お兄ちゃん。今度一緒に映画見に行こうね」
    「いいよ。でもホラーだけは勘弁して、あの時チビりそうになったから」
    「うん、分かってる」
    兄と一緒に過ごす時間は本当に楽しかった。例えそれが偽物であっても。
    「お兄ちゃんそっち左!」
    「ごめん」
    道端に落ちていた石ころを蹴飛ばしたりしながら歩いていると、突然兄が立ち止まった。そして一言呟く。
    「ここは・・・」
    そこはスクランブル交差点だった。信号が変わるまでの間、私たちは横断歩道の前で立っていた。すると、兄が口を開く。
    「僕はここで事故に遭ったんだよね?」
    「うん。なにかわかる?」
    「分からない・・・」
    雲を掴むような感じで、何もわからないらしい。だけど兄はこんなことを言った。
    「この景色を見てると頭が痛くなる。これはきっと僕の記憶だ」
    「えっ?」
    「多分僕はこの景色を見たことがあるんだと思う。でも思い出せない」
    その時歩行者用の信号機が青に変わった。私たちも歩き始める。
    「お兄ちゃん大丈夫?」
    「あぁ、なんとかね。ちょっと頭痛いだけだから」
    「無理しないでね?」
    「分かった。心配してくれてありがとう」
    兄は笑っていた。少しだけ頬が引きつっていて、痛みに耐えているように見えるけどそれでも笑顔を浮かべてくれた。
    「で、家どこだったけ?」
    自宅の住所を言って、スマホのナビを頼りに歩く。そしてようやく家に辿り着いた。時刻はもうすぐ午後六時になるところだった。
    「ただいまー」
    玄関を開けて誰もいない家に挨拶をする。両親が死んだことを伝えたときは記憶がない状態でもショックを受けていたけど、今はもう平気そうだった。リビングに入ってソファに座る。兄にも隣に座ってもらう。そして私は兄の手を握った。
    「お兄ちゃん、これからどうするの?」
    「分からない。でも記憶を取り戻すことは最優先事項だと思う。だから麻里は気にしなくて良い」
    「でも出掛けるときはちゃんと家の住所とか覚えてどこ行くかを伝えてから行ってね」
    「わかった。約束するよ」
    それから二人でテレビを見ていたらいつの間にか夜になっていた。ご飯を食べようと思って冷蔵庫の中を見ると食材が何一つ入っていなかった。そこで近くのスーパーに行って買い物をすることにした。必要なものを買ってから家に戻る。料理は兄に任せるとして、その間に私は風呂掃除や洗濯物を畳んでおくことにした。
    「麻里、できたぞ」
    「ありがと」
    テーブルの上に並べられた料理はどれも美味しそうだ。早速食べようとしたら、兄が私の腕を掴んだ。
    「あのさ、麻里」
    「ん?なに」
    「もし僕が記憶を取り戻したとして今までの関係が壊れたら嫌なんだ」
    「そんなことで嫌いになったりなんかしないよ」
    「うん。でも不安で仕方ないんだ。だから・・・お願いがあるんだけど」
    「なんでも聞くよ」
    「僕のこと、忘れないでくれる?」
    「もちろんだよ」
    「良かった・・・。じゃあさっそく食べるか」
    「うん」
    私たちは食事を済ませて、お皿を片付けてからベッドに入った。電気を消して目を瞑る。いつか兄が記憶を取り戻しますように・・・そう願いながら瞳を閉じた。
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