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    リキュール

    @liqueur002

    GWT(K暁)
    今のところGWTだけ。基本雑食。

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    リキュール

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    日本ゲーム大賞優秀賞おめでとうございます!(遅刻)
    おめでたいと祝われるK暁です。本編後KK生存if、『黒猫』より少し前。
    愛したくて仕方がないが我慢していたKK×子供扱いされたくない暁人のお話。

    #GWT
    #K暁

    吉事あれば腹の内を晒せ「(おや、ちょうどいいところに)」

    ふわりと浮かぶ猫又が調査帰りの僕たちの元にやってきて尻尾を揺らした。暗い路地裏、夜も遅いこともあって人通りはないため、周囲を気にせずに堂々と触れる。耳元を撫でると、顔を擦り寄せうっとりとした表情でにゃぁんと鳴いた。これを人がいるところでやると虚無を撫でるヤバい人になってしまうので注意しなくてはならない。あれは結構恥ずかしい。

    あの夜が明け、消えていた人たちが帰ってきた。街の活気が戻り再び多くの人が行き交う渋谷になってからというもの、気がついた時には既に猫又たちはコンビニや屋台から姿を消していた。まあ人間がいなくなりこれ幸いと店を乗っ取っていただけなので、人が帰ってきてしまえば返さざるを得ず仕方がないと言えばそれまでで。だからもう会うことは無いのかと寂しく思っていたら、人気のない夜道や路地裏でひょこっと顔を出すようになったのだ。驚いたが、またあの可愛らしい鼻歌が聞けると思うと自然と顔が緩んでしまう。彼らはいつも見つけられるわけではない。気紛れに現れて、たまに撫でさせてくれて、掘り出し物を売買する。この気分屋な感じ、猫はいつだって可愛いのだ。
    ふと視線を感じて顔を上げると、隣でKKが面白くないと言いたげな表情で見ているのに気づき猫又を撫でるのをやめて話の続きを促した。

    「…それで?今日は特に買うものはないぞ」
    「(いえいえ、今日はいつもご贔屓にしてもらっているお礼をと思いましてね)」
    「こっちも助かってるからお礼なんていいのに」
    「(ほんの気持ちですよお、これをお二人に。受け取ってください)」
    「なんのつもりだ?猫又がタダで物を寄越すなんて」

    KKが僕に渡された箱に訝しげな視線を向ける。咄嗟に受け取ったそれは、細長い長方形で強いて言うならばネクタイの箱と似ている。丁寧に小洒落た赤いリボンまでかけられて、正にプレゼントといった様相だ。中身を聞く前に猫又はにゃぁんとひと鳴きしてすぅっと空に消えていった。楽しんでくださいねぇとか聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。

    「碌なもんじゃないのは確かだろうがな、一先ず開けてみるか。ほら、貸せ」

    箱を受け取ったKKがリボンを解いて蓋を開ける。微かに目を見開き、眉根を寄せ、唇を噛み締めた。どうしたのか尋ねようと口を開く前に、突然肩を掴まれてくるりと体を反転させられる。後ろから何かをパサリと掛けられ、KKのあの表情が笑いを堪えていたものなのだと気づかされた。

    「KK」

    夜道に笑い声が響いている。少しでも心配した自分が馬鹿らしく思えて肩から掛けられたそれを皺になるほど握りしめ、振り返って未だ笑い転げる彼を睨みつけた。

    「っくく、あははは!似合ってるぜ『本日の主役』くん!」
    「馬鹿にしてるでしょ、まったく!」

    『本日の主役』とは、よくディスカウントショップなどで売られているパーティーグッズである。主にお誕生日などの祝い事の主役が着用する襷だ。パーティーが好きな人々御用達の必須アイテムと言われているらしい。いやそんな事はどうでもいいのだけど。
    少しカサついた手が乱雑に髪をかき回してくる。宥めすかすように頭を撫でられるのは子供扱いされているようでモヤモヤした気持ちが胸の奥に重く積もっていく。事実、KKは僕の歳の一回りを優に超えているし、お酒が飲めるようになって数年の学生なんて彼からしたら子供以外の何者でもないのだろう。けれど時より向けられる視線や手が、優しすぎて、どうも気になってしまうのだ。今に始まったことでは無いのに、それが少し寂しいと感じてしまうのは自身がまだ子供だという証明なのかもしれない。
    ため息をこぼして襷を外す。

    「あ、れ?」

    首から上に襷が上がらない。何かに阻まれているかの様に、首元で止まって動かない。サイズが小さくて詰まっているわけでも、どこかに引っかかってしまっているわけでもなく、一定の位置、首から上に動かせない。逆に足から抜こうとしても動かない。つまり、外れない。
    ケラケラ笑っていたKKが僕の慌てた様子に気づいて襷を引く。

    「んぐっとれない、苦し、待って待って…」
    「おっと悪い…いやなんだコレどうなってんだ?」

    KKが手を離して霊視するも、何も映らない。呪いでもあれば解呪すればどうにでもなるが、そういうものではないようだ。一旦外すのを諦めて腕を下ろす。二人して頭を抱えるがどうにも解決策は浮かばない。一先ずアジトに帰って凛子さんたちに見てもらうしかなさそうだ。コレで通りを歩かなくてはならないことを考えると気が重い。

    「あー、なるべく人通りが少ない道を…暁人!」

    KKの焦った様な呼びかけに応える暇もなく急に腹回りに圧迫感を感じ、気づいた時には体が浮いていた。眼下に渋谷のネオンが輝いている。KKが天狗を呼び出し追いかけてきているのを視認し、ジェットコースターの様に目まぐるしく変わる景色に酔いそうになりつつも自分を拐った存在に目をやる。腹に巻きつく布の感触、やはり一反木綿だ。顔や首に巻きつかれないように暴れるが、そのつもりは無いのか布は腹部にあるだけで他に巻きつく様子はない。この布はどう頑張っても解けそうになく、これ以上は無駄に体力を消費してしまうため体の力を抜き身を任せた。
    どこに連れて行くつもりなのかも気になるが、それよりこいつこんなに速かっただろうか。KKがどんどん小さくなっていっている。追いかける者の存在など気にしていないのか、一反木綿は神社、公園、団地、渋谷の上空を猛スピードで巡っていく。これ明日になってフライングヒューマン現るとかネットで騒がれてたらどうしよう。速すぎて高性能なカメラでもないと写真は撮れないだろうけど、早くどうにかしないと。
    この速さで動いているのに祓ってしまうと空中に投げ出されて危険なため、止まったときがチャンスだ、何があってもいいように身構える。
    ややあって、スピードが徐々に下がり木々の隙間を抜けゆっくりと地面に降ろされた。

    「ここ…霧ヶ丘禁足地?」

    一反木綿はニンマリ笑ってふわふわ浮きながらこちらを見下ろしている。目的はさっぱりわからないが、どことなく楽しそうだ。その様子に困惑していると、ガサリと茂みから何かが飛び出し、顔目掛けて飛びかかってくる。なにこれふわふわ!尻もちをついて倒れると、目の前が真っ暗になったのだった。





    暁人が一反木綿に拐われた。
    天狗を呼んであの野郎を追うために渋谷の空を駆ける。こちらを嘲笑う様にあっちへこっちへかなりの速さで飛びまわる姿に殺意が湧いてくる。窒息させる気はないのか、顔に布が回っていないのがまだ救いだったが、それでもいつ落とされるかわからない。暁人なら問題なく着地できるだろうが、心配なものは心配なのだ。奴の目的もわからない今、下手に手出しもできないことが歯痒いというのに、無情にも距離は徐々に引き離されていく。

    「速すぎるだろ…!くそ…!」

    足場を駆けて天狗を呼び出し飛ぶ、何度繰り返しただろうか息も切れ始めた頃、一反木綿が真っ直ぐ飛び始めた。向かう先は団地、いや禁足地だ。奴は暁人に巻きついたまま、森に飛び込んでいく。一旦神社に降りると走りながら霊視して暁人を探す。森の奥にいるのか、なかなか見つからず焦燥感に駆られるままひたすら足を動かした。

    「みつけた!」

    座り込む青く光る人影に、群がる様な複数の影を見て肝が冷えていく。心臓の鼓動が嫌に早く脈打ち、息が上がる。ああ、どうか間に合ってくれ。すぐに攻撃に移れるように構え、そのまま草をかき分け飛び出した。

    「暁人!」

    そこには、妖怪たちに襲われている相棒の姿が…いや襲われてないな?群がられてはいるが襲われていない暁人の姿があった。なぜか周りが物で溢れかえっている。きゅうり、吉備団子、煎餅、や提灯に傘、薬壺など多種多様の品揃え、商店でも始める気かと言わんばかりの量だ。

    「KK!来てくれたんだ、ありがとう。でもあの…何て言えばいいんだろう…えっと」
    「はぁ…、無事か、怪我は」
    「大丈夫、何ともなってないよ」

    木霊に乗っかられ、たぬきを膝に乗せて撫でている暁人が心配そうにこちらを見上げてくる。彼に怪我が無いとわかり、体の力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。安堵したせいかどっと疲れが押し寄せ、項垂れる。ふと、視界の隅で動くものが目に入り視線を上げた。一反木綿がゆらゆらニンマリ揶揄うように揺れている。腹が立つな。状況を見る限り、こいつが妖怪たちを呼び回ったのだろう。あのときあっちやこっちと飛び回ったのはそういう事だったのだと理解する。いやでもオレを揶揄う目的もあったな絶対。積み重なる食べ物やガラクタは妖怪たちが寄越した物で間違いなさそうだ。理由はわからないが暁人に貢いだものだろう。
    こんな長距離全力疾走したのはいつぶりだろうか、呼吸を整えるために大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

    「KK…大丈夫?」
    「オレは問題ねえよ。それよりなんでオマエそんなに貢がれてんだ…」
    「ああ、それはこれのせいみたい」

    指さされたそれは、面白がって下げさせた襷だ。『本日の主役』のゴシック体の文字が強く主張している。暁人の膝を堪能していたたぬきが、その文字を掴むように襷を支えにして体をひっくり返し腹を上に向け寝転んだ。確かへそ天とかいうやつだ。前に暁人が動画を見ていたのを憶えている。お腹が可愛いだの、こういうときの動物の気持ちが知りたいとか言ってへにゃへにゃ笑っていたんだったか。随分と可愛い顔をするもんだから、彼をへそ天させたのもいい思い出である。
    暁人が顔を輝かせ、すかさず霊視を試みたので倣って霊視を行った。

    「(おめでとう、めでたいね!めでたいからもっと撫でていいよ!)」
    「よしよし…めでたいっておめでたい?何が?」
    「(あ、そこそこ…めでたいのはね、それをつけてるからだよ!みんなにお祝いされるんだよ!ほら、ぼくからのプレゼントは葉っぱ!一回だけ好きなものに変化できるよ!)」
    「えっと…ありがとうで良いのかな。よく分からないけど」

    首を傾げる暁人はそれでも手は止めず、たぬきを撫で続けている。たぬきはでろでろだ。もはや溶けている。猫又の寄越してきたこの襷、ただのパーティーグッズではないのはわかっていたがまさかこんなことになるとは。悪戯心で軽率に暁人に身につけさせた自身に苛立ちがつのる。衝動のまま自身の後頭部の髪をかき混ぜ、暁人の手を引いて立ち上がり両手を打った。パシンと乾いた音が暗い森に反響し、そして静かに消えていく。
    最初に動き出したのは河童だった。こちらに手を振って池に帰っていく。それに続くように、ろくろ首や座敷童子、木霊たちが去り。一反木綿はオレたちの周りをぐるりと一周すると、空を飛んでどこかに消え。最後にたぬきが名残惜しいそうに暁人の手のひらに頭を擦り付け、駆けていった。ああ一か八かだったが上手くいって良かった。ため息が漏れる。

    「え、解散した?なにしたの?」
    「宴もたけなわ、お手を拝借って言うだろ?」
    「手締めってやつ?ゼミの飲み会とかで教授がやってた。もっと長かった気がするけど」
    「宴会の締めでやるやつだな。今のは一丁締め、一番楽なやつだよ。まさかこれで上手くいくとは思わなかったけどな」
    「妖怪もやるんだね…」

    賑やかだった森が静寂を取り戻す。宴は終わった。つまり撤収の時間だ。暁人は何気なく襷を持ち上げると、あれだけしても外れなかったことがまるで嘘だったかのようにするりと抜ける。暁人自身も一反木綿ジェットコースターには疲弊したのかそれを荒んだ目で見つめると、鞄にぐいぐい押し込んで勢いよくジッパーを閉めた。エドに渡せば喜んで調べるだろう。
    次に、妖怪たちからの贈り物をまとめる。暁人に言われて持たされていたエコバッグが思いもよらないところで役に立った。きゅうり、吉備団子など、二人がかりで無心で詰めていく。もう袋は今にもはち切れんばかりだがまだ小山が残っているため、残りは服のポケットや鞄の隙間にぎゅうぎゅうと押し込んでいく。

    「…暁人くん?」
    「KKのフード、結構入るよね」
    「おい、そこに詰めるなよ」
    「ごめん、あとお煎餅数枚だけだから」

    よし、と満足げに頷いた暁人は提灯数張り、傘数本、薬壺を抱えてエコバッグにまで手を伸ばそうとするので直前で取り上げた。こういったときに一人でどうにかしようとするところがコイツの悪い癖だ。頼れと言ってもその場しのぎの返事だけして聞きやしない。家族間での立ち位置や性格上仕方のないことだというのは理解しているが、無理をせず頼ってほしいと願うのが恋人心というわけで。仕置きに形の良い額を弾くと、良い音がした。

    「痛っ何するんだよ」
    「オマエなあ、この量一人で持つつもりか?」
    「これくらい持てるけど」
    「馬鹿言え、どんだけ詰まってると思ってんだ。持てたとしてもバランスがとれずに転ぶのが関の山だぞ。こういう時はオレを頼れ」

    自分でも無謀だと思っていたのか、何も言い返さず不満げに眉を顰めて視線を下げる。思わずあやす様に頭を撫で髪をすいていた。贈り物を抱える手に力が入っているのか、指先が白く染まっていく。

    「…また子供扱い」

    小さく呟かれた声は今にも消え入りそうだった。彼の耳から頬が赤く色づいている。

    「僕のことを気づかってくれてるのはわかってる。嬉しいよ。でも僕もう大人だし一人で何でもできるから、子供扱いしないで」

    それだけ言うと暁人は口をつぐんだ。視線が泳いだと思えば、覚悟した様な表情をし、おずおずとこちらを見上げてくる。
    子供扱いしているつもりは無かった。確かに暁人はだいぶ歳下だ。しかしこう撫でるのは子供にするようなものではなく、自分なりの愛情表情だったが、良かれと思ってやったことが彼を傷つけてしまうとは思ってもみなかった。
    教えたことを素直に実践してものにする素直さも、だらしない所があるオレになにかと世話を焼きたがる面倒見の良さも、揶揄うとコロコロ変わる表情も、どれも愛しい。慈しみたい気持ちもあるが、それよりも可愛い、触れたいと言う気持ちが強い。けれど良い歳したおっさんが事あるごとに言葉にしてべたべた触れるのは抵抗があるうえ、嫌がられるかもしれないと思ったのだ。だから普段は頭を撫でる程度にしておくのだが、それが裏目に出てしまったようだ。自身の不器用さに自嘲めいた笑いを浮かべる。暁人は思っていた以上に欲しがりだった。ならばもう遠慮はいらないのかもしれない。
    こちらを見つめる潤んだ瞳をよく見ていたくて頬を包むように顔を上げさせ、視線を合わせる。

    「悪かったな、子供扱いしてたつもりはねえよ」
    「子供を相手するみたいな目をしてたよ」
    「そりゃあアレだ、オマエを甘やかしたい気持ちもあるからな。この際だから白状するが、オレは夜以外でもいつだってオマエに触れたいんだよ。でも良い歳したおっさんにべたべたされても困るだろ?」
    「困らない!僕だって触れていたい…」

    恥ずかしいのか時折目を泳がせながらも、こちらを見つめる様子に愛おしさが募る。熱を持った頬を親指の腹で撫でると、少し強張っていた肩の力を抜けていく。握り締めていた邪魔な荷物を抜き取り地面に転がし、それに気を取られ伸ばされる手を捕まえる。

    「…いいんだな、オマエが可愛い表情でもしようもんなら人前でも所構わずキスするぞ」
    「えっ…人前は、ちょっと」
    「冗談だよ。そのへんの節度は保つ、多分な」

    多分と言う言葉に苦笑いを浮かべ、目尻を下げた暁人の鼻筋に唇を寄せた。くすぐったそうに笑うその漏れる吐息ごと喰らう様に口を塞ぐ。唇の柔らかな感触を堪能し、暁人の息が乱れ始めた頃。名残惜しさに下唇を食み、リップ音を残した。
    熱が離れていく寂しさに、暁人は自らもう一度擦り合わせるように触れる。

    「…ごめん、拗ねて、我儘で。これじゃあ本当に子供だ」

    視線を落とす彼の髪に口付け、抱き寄せる。
    暁人は自身を我儘だと言う。そしてそれは悪いことなのだと。恋人にもっと触れて欲しいと、触れたいと願われて嬉しくないわけがないというのに。

    「オマエのそれは我儘なうちに入んねえよ。もっと欲張れ、『恋人の』我儘くらい叶えさせろ。オレを甲斐性なしにしてくれるな。…帰ったら満足いくまで大人扱いしてやる」

    耳元でそう囁くと、小さく頷いた暁人の頸まで赤く染まっていくのが見えた。首に手を添え顔を上げさせる。薄らと開かれた唇にもう一度顔を近づけたとき、ぽつりと雫が頬を打った。その冷たさに正気に戻ったのか、サッと距離を取られ残念に思いながらも木々の隙間から空を見上げる。ぱらぱらと雨が葉を打つ音が聞こえ始めた。しかし微かに星が瞬いており雨雲は見当たらない。

    「狐の嫁入りだな」
    「晴れてるのに雨が降るってやつだよね」
    「化かされたのかと思うほど嘘みたいな状態になることからそう呼ぶらしいが、実際狐が嫁取り行列を組んで練り歩いてるんだ、結構壮観だぞ」
    「そうなんだ、ちょっと見てみたいな…」

    先程のことが尾を引いているのか、暁人は照れくさそうに自身の唇に触れて言う。この時折垣間見る初心さが堪らなくさせるのだ。遠慮はせずもう一度その唇を軽く食み、転がる荷物を抱えると暁人の手を引いて歩き出す。傘と提灯など長ものを受け取った暁人が隣に並ぶと、繋がれた手を見て、嬉しそうに笑った。

    小雨が降る木々の合間を僅な灯りを頼りに歩く。神社に出た時にはもう嫁入り行列は去っていた。水たまりとも言えない僅な雨水に、街灯の灯りが反射して帰路を明るく照らしている。

    「あ、そうだKK」
    「あ?どうした」
    「おめでとう」
    「…何がだ?」

    暁人が思い出した様に笑い、鞄に視線を落とす。そこには妖怪たちの贈り物と猫又から寄越された襷が入っている。今夜振り回されたことを考えると少しもめでたくない、と思ったが楽しそうに話す暁人を見て口を噤む。

    「猫又がさ、お二人にって言ってたの思い出したんだ。それってつまり『本日の主役』は僕だけじゃなくてKKもってことだろ?」
    「そんな事言ってたか?」
    「言ってたよ。だからKKもおめでとう」
    「…じゃあオレも贈り物を貰うとするか」

    贈り物…と呟きキョトンとした顔でこちらを見るも、すぐに言葉の意味を察して一歩分身を寄せ繋がれた手の指の間に指先を滑らせた。それは所謂恋人繋ぎというやつで、外ではあまりこういう事をしない暁人にしては思いきったことをしたなと微笑ましくなり笑みをこぼす。

    「ちょっと、なんで笑うの」
    「いや可愛いなと思ってな」
    「、可愛くないから」

    不貞腐れるように唇を尖らせているが、耳が赤くなっていて照れているのがわかりやすい。コイツの中で、可愛いという言葉も撫でる行為も子供扱いでしているわけじゃないと認識が変わったことがありありと伝わってくる。そんな様子を時折視界に入れつつ歩いていく。どこか遠くから聞こえる喧騒はさっきまでの出来事を夢だったのではと思わせた。まぁ正直夢であれと願いたい出来事ではあったわけだが。
    繁華街に近づくにつれてちらほら人通りが多くなる。帰宅か飲み会帰りかはたまた仕事に行くのか、行き交う人々はそれぞれの目的のため歩いていく。稀に視線を寄越してくる奴がいるが、この手が離される事はない。

    「KK、ありがとう」

    アジト部屋に行く階段を上っていると後ろから軽く裾を引かれる。その囁く様な小さな声に応えたくて、段差によって自分より低い位置にある頭に手を添え、髪に唇を寄せた。
    猫又の贈り物を碌でもないと言ったことは訂正しよう。振り回されはしたが、暁人もオレも腹を割って話すきっかけになったのだから、ある意味今日はめでたい日だ。次に会ったときは礼くらいしてやるか、そう思えたのだった。
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    リキュール

    DONE #毎月25日はK暁デー
    7月お題【宿題】を書かせていただきました。またも大大大遅刻。
    可愛いこと言い出すあきとくんとそんな可愛いやつを甘やかしちゃうけけの話。
    美味しいもの食べるあきとくん。
    生姜の辛味は何にでも合う気がする。
    甘やかしには辛味を足して七月、それはある者にとっては書き入れ時、またある者にとってはただの平日、そして僕らの様な学生にとっては長い夏休みの始まりである。

    休みに何しようかと楽しそうに予定を立てる友人たちを横目に僕は頭を抱えていた。
    夏は夜に肝試しをする若者が増える季節ということもあってか、禁足地や事故物件が騒がしくなり毎夜KKと共にパトロールに精を出していたのだが、そんなこんなで忙しくしていたので、すっかり忘れていたのだ。
    前期の試験やレポートは問題ないが、引き続き後期でも受講する選択科目の講義には宿題が存在することを…!
    普通ならば夏休み中にやればいいんだから焦らなくても、なんて思うだろうがこれは資料集めが厄介で、どれも大学の図書館にしか無いようなものばかり。休みに入る前に資料の検討をつけてコピーしなくてはならないのである。ただでさえ難しい科目で前期レポートもギリギリだったのだ、生半可なレポートは出せまい。夏休み中も図書館に来ることはできるが休みには遠出の依頼があるため資料を求めて毎回行くわけにはいかず、できるだけ必要な資料は今のうちにまとめておきたい。それにあわよくばKKとの時間ももっと確保できれば…大丈夫僕ならやれる。
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    32honeymoon

    TRAINING・先日アップした画像版に修正を加えて、今までとおなじ横書きにしました。前回読みにくかった皆様はよければこちらで。
    ・修正したのは暁人くんの心情描写が主です。まだKのことを好きになりかけてきたところで、信じる心と無くしてしまう不安の板挟みになっている雰囲気がちょっと出てないかなと感じたので、台詞回しを少し変えてみました。まあ内容は同じなので、再読頂かなくとも問題ないと思います…単なる自己満足。
    【明時の約束】「ねえ、KK。たとえば今、僕がこの右手を切り落としたとして、ーあんたの宿っているこの魂は、何処に宿るのかな」

    ー突然。自らの右手に在る、そのあたたかな光と靄のかかる手のひらに向かって、突拍子もないことを言い出したその体の持ち主に、KKは呆れたように何いってんだ、と返した。

    『ーオレの魂が宿る場所は、ココ、だろ。手を失ったとて、消えるわけがねえ。ああ、ただー大切なものが欠けちまったって言う事実に対して、クソみてえな後悔だけは、一生残るだろうな』

    気を抜いたままで容易に操れるその右手。ぶわりと深くなった靄を握り込むようにぐっと力を込めると、とんとん、と胸を軽くたたく。

    「後悔、?」
    『ああ、後悔だ』
    「どうして?これは、僕の体だ。例え使えなくなったとしても、あんたには何の影響も無い筈だよね。それとも、使い心地が悪くなったとでも文句を言う気?ーああごめん、言い過ぎたかも。…でも、そうだろ」
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    32honeymoon

    DONE◇#毎月25日はK暁デー ◇お題:匂い
    ・久しぶりのあまいちゃ糖度120ぱーせんとなので苦手な方は要注意!
    ・KKと暁人くんが同棲してる世界のおはなし
    ・相変わらずKKが暁人くん大好きマン

    長編をあげた後だったので、今回は短くさらっと。
    豪雨つづくここ最近、太陽が恋しくなって書いた作品です。
    台風の余波で大変な思いをしている皆さまの地域に、
    はやく気持ちいい秋晴れが届きますように。
    おひさまのにおいはしあわせの匂い。ーそれは秋晴れがさわやかな、とても良い天気のとある一日のおはなし。


    「KKー、布団下ろすの手伝ってー」
    「お?ああ、分かった」

    ソファでくつろいでいた休日のとある夕方。ベランダから聞こえてきた柔らかな声に、KKはよっこらせ、と立ち上がる。

    「布団、干してたのか。いつの間に・・・」
    「そうだよ。気づかなかった?」
    「・・・気づかなかった」

    少しだけばつが悪そうに目をそらす姿にはにかみながら、
    「だって今日はお日様の機嫌が良い一日だったからね。あやからなきゃ」と暁人が言う。

    「お日様の機嫌ねえ・・・また随分と可愛い事言うじゃねえか、」
    オレにしてみりゃただの暑い日って感じだったがな、と続けようとしたのを、KKが済んでの所で飲み込む。
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