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    takeke_919

    @takeke_919

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    takeke_919

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    昨晩完成した、初のおホラー。
    ホラー味があるかどうかはちょっと置いておきますが、これも突っ込んどいちゃう。

    #K暁

    「おーい」「おーぃ…」

    宵闇に包まれた参道、その傍から声が聞こえた気がした。思わず立ち止まった暁人は辺りをきょろきょろと見渡すが、自身の歩む石灯籠に照らされた参道以外、夜の闇に呑まれてしまい目を凝らしたとて何も見えはしなかった。……それにあんな暗闇の中に誰某かが居るとも思えない。

    きっと空耳か何かであったのだろう。そう思った彼は再び歩を進めようと足を踏み出したが……。

    「……ぉーい」

    やはり、声がする。

    先程のと比べて、今度は方角が分かる程度には自身の耳へと届いた。……それは恐らく後方から。

    きっと誰かが己に呼び掛けているに違いない。もしかしたら何かトラブルにでも見舞われ困っているのかも。そう思い至った彼が振り返ろうとした瞬間だった。

    「振り向くな」

    自身の数歩前を歩いていた筈のKKが制止の言葉と共に、暁人の腕を掴むと自身の元へとぐっと引き寄せる。
    相棒のとった突然の行動に、驚いた暁人が一体何事かと開きかけたその口をまるで喋るなと言わんばかりに、もう片方の手でKKは塞いでしまう。そうして彼は暁人にだけ聞こえる様な小さな声で囁いた。

    「……いいか。オレが『いい』と言うまで何も話すな、何も聞くな。頭ん中カラッポにして歩く事だけ考えとけ」

    矢継ぎ早に話すKKの声音がやけに真剣味を帯びていることに気付いた暁人は困惑しながらも小さくコクコクと頷き、了承の意を示す。
    そんな彼の様子を見て満足そうに一度頷き返したKKはそっと口から手を離す。

    「……良い子だ」

    小さく溢されたその賛辞は、先の声色と比べて随分と柔らかなものであった。

    「一応目も瞑ってろ、ちゃんと手は引いてやるから」

    再度、コクリと暁人は頷きを返す。

    その様子を見届けたKKは宣言通り、暁人の右手をしかと握り込む。そうして釘を刺す様に、もう一度こう宣った。

    絶対に振り向くな、と。

    KKの忠告を肝に銘じ、暁人はそっと瞼を閉じその双眸を仕舞い込む。途端に広がる深い暗闇に、自身の呼吸音と葉擦れの音。

    生き物は五感のうち何か一つを遮断された場合にはその他の知覚で補おうとするのだとか。例に漏れずそれはヒトにも当てはまる事であった。

    視覚から得られる情報量はおよそ八割。
    残りのニ割は聴覚、嗅覚、味覚、そして触覚だ。自己の意思でとはいえ、視覚が遮断された状態にある暁人が外部の情報を得る手段は相当限られているという訳である。

    「(……分からない、何も)」

    彼が正直に抱いた感想であった。

    突然KKがとった行動の理由も、自らが置かれているこの現況も。

    ただ確かなことは、己が右手を掴む硬い掌の感触と其処から伝わる熱だけ───

    しかし、その事すら考えるなと言わんばかりに、暁人の手を引いてKKは歩き始める。…確かに、彼は先刻こう言っていた。『頭の中をカラッポにして、ただ歩く事だけ考えろ』と。

    何も分からないのであればもう、ただ彼の意に沿うより他ない。きっと彼には自身の預かり知らない何らかの考えがあるのだろう。そう手放しで捉えられる程には、暁人はKKのことを信頼していた。……それは等しく相棒たるKKも。

    コツコツと、参道に敷かれた石畳を靴底が叩く音が響き渡る。
    目を瞑っている分、暁人の耳にその音はいつもより鮮明に届いた。

    時刻は間も無く丙夜の頃合い。当たり前だが、参道を往く存在は自分達以外に在りはしない。だから闇夜に響く足音も、二人分しか聞こえない……筈だった。

    自らの乾いた足音に混じり、何処からか不可思議な音がする。それはどうも湿った様な、湿潤とした音であった。
    この時、何か耳を塞ぐ物でも持ち合わせていればこの奇妙な音に暁人が気付くことは無かったのかもしれない。……しかし、今更それを宣ったとて結局は世迷言だ。

    彼は聴いてしまったのだ。

    この場でするとは到底考えられない、まるで裸足で石畳の上を歩く様な──ペタペタとした音を。
    自身の後方……いや、まるで背後にぴったりと張り付く様な至近距離で鳴るその足音を。『足音』だと。

    彼は理解してしまったのだ。

    それに気付いた瞬間、激しい戦慄が全身を駆け巡る。……しかし彼を恐怖に突き落としたのはそれだけではなかった。

    「おーい」

    先刻何処からともなく聞こえたあの声が、突然自らのすぐ傍らで聞こえる。

    「おーい」

    それは背後からのようでいて、すぐ隣から聞こえるような──

    「おーい」

    耳元のようでいて、顔を覗き込まれながらのような──

    「おーい」「おーい」「おーい」

    複数のようで、ただ一つから放たれたような──

    ただただ不快で、不可解で、単調な呼び声であった。

    目を瞑っていて良かったと、暁人は思わざるを得なかった。でないと確実に"目を合わせて"しまっていただろうから。そうなれば自分がどうなってしまうのか、想像もしたくなかった。
    それでも、執拗に自身に纏わりつくこの声は着々と恐怖心を植え付けていた。視覚を遮断している所為もあるだろうが得体の知れないモノと対峙して平然としていられる人の方が恐らく少ないだろう。
    先程から背筋に走る悪寒も、額に流れる冷や汗も止まることを知らない。

    「おーい」

    そうして、件のあの声も。

    「(……マズい、呑まれる…っ)」

    知らぬ間に、自身の双脚が、双肩が重くておもくて仕方が無い。足には鉛でも括り付けられ、肩には誰かが圧し掛かっているような。気の所為では済ませられない確かな重圧を暁人は感じ取っていた。

    歩みは徐々に減速し、自身の浅い呼吸音がいやに耳に付く。渇いた口の中が酷く不快だ。

    自己の意思に反して、思わず立ち止まりそうになる。そんな暁人を戒めたのは他でもない、彼の右手を引くKKだった。

    彼は何も言葉を発しはしなかったが、強張り冷えゆく暁人の手を決して離しはしなかった。固く、キツく、いっそ痛みさえ感じる程に。強く握り締められたその右手が彼を繋ぎ止める。

    確と伝わるその痛みが、凍えた指先に滲む相棒の熱が、雄弁に物語っていた。決して己が片割れを、連れて行かせはしないと───

    長い沈黙、二人の靴音ともう一つの足音。己に掛けられる幾重の呼び声、そうして圧し掛かる重み。
    一体どれだけの間、ソレらに耐えていたのだろうか。実際には数分にも満たないのかもしれないが、体感ではまるで数時間のように思える程だった。

    暫時の後、前を歩くKKが突然立ち止まった。彼に倣って暁人も慌ててその場で佇む。未だ状況の読めない彼は何事かと警戒を強めたが、対して相棒はふぅ、と一息溢した後に遂にこの沈黙を破った。

    「流石に此処までは入って来られねぇだろ。……よし、暁人。もう『いい』ぞ」

    これは『合図』だ。

    もう目を開けても、喋っても問題は無い筈。そう、頭では理解していても先の出来事の影響から思わず暁人は尻込みしてしまう。

    「(……どうしよう)」

    もし目を開けた瞬間、あのナニカに覗き込まれていたら?まだ後ろにアレがいたら?イヤな想像ばかりが頭の中でぐるぐると巡り行く。そんな暁人の躊躇を余さず感じ取ったKKは、ガラじゃあ無いんだがな、と前置きした後行動にでる。

    握ったその手で彼の事を引き寄せると、そのまま自らの腕の中へと囲い込む。強張る背へと腕を回し、閑やかにその背を、肩を無骨な手が撫で摩る。

    「あー…ほら、もう大丈夫だから」

    驚いたよな。そう掛けられた言葉自体は有り触れたものであったが、その声音は普段の彼からかけ離れた随分と柔らかなものだった。

    KKのその声音が、触れる掌から伝わる熱が強張った暁人の身も心も、ゆっくりと解き放していく。

    「けぇ…けぇ…」

    ポツリと、肩口から溢された聲は彼の者の存在を確かめるような、か細い呼び掛け。

    「……おう。もう何もいねぇ」
    「…う、ん」
    「此処にはオレとオマエしかいねぇよ」
    「……うん」

    暁人の懸念を一つ一つ拭い去るように、ゆうるりとその背を撫で続けながらKKは繰り返す。大丈夫だと、アレらはもう此処には居ないのだと。落ち着いた声色で、彼の耳元で静かに囁き続けた。
    いっそ甲斐甲斐しく見える程の彼の対応により、硬直していた暁人の身体からは徐々に力が抜けていく。

    「……落ち着いたか?」

    腕は回したまま、少し身を離したKKは暁人の顔を覗き込みながら訊ねた。その問いに、瞼を閉じたままの暁人は小さくコクコクと首肯を返す。

    「だったらほら、目ぇ開けてみな」

    彼に促された暁人は、まさに恐る恐るといった体でゆっくりと双眸を露わにする。そうして自身の眼界に広がっていたのは、本殿脇に設けられた石灯籠の放つ淡い灯色に照らされた相棒の相貌であった。

    「な?大丈夫だって言ったろ?」

    満足げにそう宣いながら柔らかく笑んだKKの表情を見たその瞬間。張り詰めていた糸がプツリと切れたように、暁人はずるずるとその場に膝から崩れ落ちてしまった。彼の不意の行動に、共に蹲み込んだKKも流石に驚きの声を上げていたが気に掛けてなどいられなかった。

    「何だったんだよ……アレ…」

    酷く疲労感の滲んだ暁人の言立てに苦笑を浮かべるKK。再度彼の背を摩りながら、投げられた疑問に返答する。

    「アレはな、所謂『一声呼び』ってヤツだ」
    「……一声…呼び?」
    「随分とあやふやなモンでな、『妖怪』とも『悪霊』だとも謂れてる。まぁ、人の数だけ謂れのあるようなタイプだな。……聞いたことないか?山の中とか夜に一声で呼び掛けられた時、ソレに返事しちゃならねぇって話」
    「あるかも知れないけど、正直分からないよ……。もしも返事したらどうなるの?」
    「憑かれるか、連れて行かれるか。詳細は分からんが碌なことにならないのは確かだろうな。元来、物の怪の類は同じ言葉を繰り返すことが出来ないと謂れてる。だからさっきみたいに『おーい』とか『もし』とか、一声で人の事を呼ぶんだと」
    「何でこんな所に居るんだよ、神社の敷地内だぞ……」

    彼等が先程歩いていたのは参道だった。穢れのない神聖な筈のこの場所に悪意ある存在が易々と侵入し居座られるとは些か考え難いだろうと。そんな暁人の主張をKKは静かに否定した。

    「……普段ならな。でも今晩は間の悪いことに新月だった」
    「新月……」
    「深まる闇に乗じて魑魅魍魎が跋扈する怪夜だ。だからアレも、領域が広がって彼処に居やがった。それで、通り掛かったオマエに目を付けたんだろうよ」
    「……でも、どうして僕だったんだろう」
    「単純に聞き流さなかったってのもあるだろうが…。どうせ、オマエの優しさにつけ込んだって所だろう。声が聞こえた時、初めは相手がただの人間だと思ったんじゃないか?」
    「う、うん。何か困ってるのかな…って」
    「それだ、ソレ」

    未だ地べたにへたり込む暁人に視線を寄越しながら、KKは肩を竦めて見せる。

    「自分を認識したり、気に掛ける存在ってのは随分と居心地が良いモンだからな。ま、お人好しも大概にしろってこった。
    ……それがオマエの美点であり性分だってのも、分かっちゃいるがな」

    言い終わるや否や、KKは暁人の腕を掴んで立ち上がらせると本殿の傍らに設けられた社務所を指差す。窓口の灯りは消えているが、奥の一室からは僅かな光が漏れ出ていた。

    「悪いんだが、オマエは先に社務所行って宮司から形代受け取っといてくれ。たぶん奥に居るから」

    KKと暁人がこの神社を訪れた理由はただ一つ、依頼していた形代を受け取る為だった。本来なら日の高い時分に引き取る予定であったのだが色々と立て込んでしまった結果、この時間帯となってしまった訳である。
    勿論、日を改めるべきだと考えその旨を連絡した二人であったが、顔馴染みであるこの神社の宮司は夜分遅くなろうとも構わないと快く引き渡しを了承してくれたのであった。

    突然 腕を引かれたことにより思わず蹌踉けてしまった暁人であったが、KKの支えもあり危なげなく立ち上がる。

    「え、KKは?一緒には行かないの?」

    そんな彼が投げた問い掛けは至極自然なものであった。

    「……ちょっと野暮用が出来ちまってな。直ぐに合流するから」
    「野暮用……?」

    何やら考える素振りを見せた後『野暮用が出来た』と突然言い始めたKKに困惑を隠せずにいる暁人。そんな彼に対し、揶揄いの混じった声音でKKは言葉を投げた。

    「おーおー、どした?何だったら社務所まで送り届けてやろうか?…目と鼻の先だけどな」
    「べ、別に一人で行けるよ!」
    「はは、そうムキになるなって」
    「もう…KKが揶揄うからだろ」

    目前に配置された社務所を示しながら、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるKKは暁人の反応を見て楽しんでいるようだった。

    しかしそれは暁人が纏う空気感を、いつものモノへと戻す為の采配───

    社務所の扉を潜る相棒の背を見届けてから、KKは踵を返す。
    今し方歩いて来た道を辿りながら、右手に纏うは風の霊力。石灯籠の灯火以外に、翠緑の淡い光が深い闇夜を照らし出す。

    そうしてKKはあるモノに向かって、言の葉を投げ付ける。その声色は先刻自らの相棒に向けたモノとは打って変わり、随分と刺々しく、鋭いモノであったのだとか。勿論、其れを知る者は該当者以外在りはしないのだが。

    「オマエらが何にもしてこなかったなら、オレだって別に構いやしなかったんだが……。
    ウチの相棒殿にちょっかい掛けられて黙っていられる程、オレはお優しくないんでな。

    さて、お喋りは此処までだ。ブッ飛ばされる準備は出来てるか?化け物ども…!」

    翠緑の閃光が走る。

    それは、闇を照らす眩い煌めき。
    寸刻とて、片割れを蝕まれた男の憤怒の光だ。

    言うまでも無く、其の耀きを目の当たりにした存在も既に在りはしないのであった。


     ─終─

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