「海だ~!」
「わ~い!」
女性陣が砂浜でキャッキャしている。特に麻里と絵梨佳は凛子よりもはしゃいで波打ち際で追いかけっこしていた。そんな光景を微笑ましく眺めながら、俺もパラソルを立てて荷物を置いた。だが
「麻人~!」
麻人がどこぞのホラー映画のキャラクターのように踞った状態で一歩も動かず、暁人に押されようが引っ張られようが、全く動じなかった。
「せっかくの海なんだから楽しもう!」
海パン一丁で踞る麻人に対し、暁人は水着の上にシャツを着ているだけだった。
「麻人!」
「・・・やだ」
「何てこと言うの!お母さん傷つきました!」
「きもちわるい」
「ぶ~しょんな~」
麻人に対して女口調になることが癖になっている暁人だったが、その様子に苦笑いしていた。麻人と話すときは自然に母と子の会話になることが多い。
「俺が見とくから麻里のところに行ったらどうだ?」
「じゃあそうしとく」
麻人を一人残して、暁人は麻里の方へ行った。麻里は白いワンピース型の水着を着ていて、とてもよく似合っていた。
「行かなくていいのか?」
「べつに」
体育座りの状態の麻人を覗き込むように話しかけると、プイッと顔を背けられた。拗ねたわけではないだろう。
「ほれ」
俺はクーラーから棒アイスを取り出して差し出した。
「さんきゅう」
素直に受け取った麻人は、パクリとかぶりついた。余程暑かったのか一気に食べ終えてゴミを捨てに行く。戻ってくるなり麻人の視線はある場所に集中していた。
「あれって・・・」
「ん?ああ、凛子だろ?」
「うん」
そこにはビーチボールで遊ぶ凛子と絵梨佳の姿があった。暁人と麻里が審判に回っている。
「・・・パパ」
えっ今パパって言ったのか?普段お父さん呼びなのに。
「あのさ・・・」
「なんだ」
「パパってぼくのことすき?」
唐突すぎて言葉が出てこなかった。まさかこの歳でこんな質問をされるとは思わなかった。だがこれは真剣な話なのだと感じ取り、茶化さずに答えることにした。
「もちろん好きだ」
「でもママのほうがもっとすき?」
「うーんどうだろうなぁ・・・」
「だってママとよるにさかってるし」
「お前それどこで覚えた!?」
麻人の口からあり得ない言葉が出てきて焦りまくってしまった。
「へやかえてもふとんのなかでパパとママがコソコソしてるのはわかってんだかんな」
麻人は子供にしては頭が回る方だと思う。だからと言って夜中に何をしているのかバレてしまうとは。
「まあ・・・そうだな」
「それはおいといて、おねえちゃんにはなされたくなかったらアイスもういっぽんちょうだい」
「はいはい」
仕方ないのでもう一本取り出して渡した。
「ごちそーさま」
あっという間に平らげてしまった麻人は、暁人のへと向かっていった。俺もその後を追っていく。
「麻人~!」
「やだ、あつくるしい」
暁人は麻人に抱きつこうとするが、それを嫌がられてしょんぼりした表情を浮かべている。
「見ないうちに子供らしくなってきてるね」
「前に僕のことママって言ってくれたし!」
「さっき俺のこともパパって言ってたけどな」
「ぱぱ」
「どうした?」
「おなかすいた」
「おう分かった、海の家で何か食うか?」
「やった!」
暁人はすぐに元気を取り戻して俺の手を握った。
****
おまけ
「お前らは行かないのか?」
《暑いのが苦手だからね、君を見ているだけで今は汗をかきそうな気分だよ》
「今さら体毛を剃ろうと思ってもな」
《狐だから仕方ないと思うが》
「・・・」
《どうしたんだい?》
「いや、昔のことを思い出しただけだ」
《そうか。ところでデイル、そのアイスは何本目なんだ?》