「僕は通りすがりのトニーです、では」
「誤魔化せると思ったら大間違いだ」
「バレたか」
知らない空間で般若のお面を着けた黒づくめの知らないおじさんに肩を掴まれたよ。ウワータスケテー。
「何処から入ってきたんだ?」
「んなもん知らねぇよ、つか何処だここ?」
「君口悪いな」
だって素性を知らない人間だし、なに言われても関係ないし
「なんもねぇなここ、一人ぼっちで寂しくないの?」
「一旦黙っててくれないか?殺意が今にも沸きそうなんだが」
「僕はお家に帰りたい欲が湧いてるよ」
「さっきから口を開けば帰りたいだとかここはどこだとか、君は何なんだ!」
そんなこと言われても困る、僕が一番状況わかってないし
「いや本当にわからないよ、気づいたらここにいたし」
「嘘をつくんじゃない!いい加減にしなさい!」
「そんなにガミガミしてたら白髪増えるよ?」
「うるさい!!君は誰なんだ!!」
「だから通りすがりのトニーです」
「もうそれはいいんだよ!!本名を言え本名を!!」
えーめんどくさいなぁ・・・でもこの人怖いし、どうしようかな・・・あ、でもKKと似た力を感じるし絵梨佳ちゃんと似た匂いがするから父親の辺り・・・そう言えば今日は食パン一斤しか食べてないからお腹空いたな~今にも空腹で野生に帰りそうな気がする。あ、最近麻里にもっと食べろって言われてるからいっそのこと熊丸々1匹仕留めて
「話を聞けぇ!!」
「だからなんだジジイ!お前が何処の誰だか知らねぇが!!テメェこそ人の話を聞く耳を持てよ!!」
「くっ・・・なんて生意気な子供なんだ!」
「うるせぇ!僕は200✕年9月8日生まれの伊月暁人22だ!!」
「さりげなく分かりやすく自己紹介するな!!しかもなんで誕生日まで言うんだ!?」
「ちなみに身長は17■cm体重■■kg足のサイズ■■cm血液型は■型!家族構成は両親が他界して今は妹と二人暮らし!好きなものは食べること!嫌いなものは孤独!今は記憶喪失で後は知りません!」
「しれっととんでもないこと言ってないか!?」
****
彼は一体なんだ?突然ここにやって来た事を問い詰めた途端、ベラベラと自分の素性を喋ったぞ。まぁ一応情報は得られたが、しかしここで一つ疑問が生まれた。
「一ついいか?」
「何?今喋りすぎて水分が欲しいところ」
「さっき記憶喪失と言っていたが本当の事なのか?」
「本当だよ、妹にあれこれ聞いたり自分で調べたりして分かったことだからね」
「それなら何故ここにいるのか分かるはずだが?」
「それが全然分からないの、気付いたらここにいたからさ」
「本当に何も覚えていないのか?」
「うん、だから早く帰りたいんだけど出口無いみたいだし、誰かいないか探していたらおじさん見つけたから声かけただけ、なんか絵梨佳ちゃんと似た匂いがする」
「絵梨佳は私の娘だが・・・あっこら触るな!」
仮面を外そうと腕を伸ばして掴んでくる。それを阻止しようと彼を押さえつけるが、意外にも強い力で抵抗してくる
「顔見せろ~こちとら視力0.1くらいなんだよ~」
「関係ないことを言うな!」
「それよりも絵梨佳ちゃんのお父さんでしたっけ?」
「そうだが」
「KKから聞いたんだけど、あんたって愚か者?絵梨佳ちゃんから聞いた話奥さん亡くなったんだって?まあ、そんなことあればトチ狂うもんね。いや異常者は異常な自覚を持たないんだった。何て言うの?被害者面?男寡?サイコパス?とにかく自分を不幸にする奴は親であろうと殺すみたいな思考持ってそうだけど実際はどうよ?」
「な、何を言っているんだ?」
「だからさぁ!最愛の妻を失ったことで精神崩壊して!挙げ句の果てに娘のことも考えずに周りに迷惑吹っ掛けながらのうのうと生きてるわけじゃん?自分さえ良ければそれでいいとか思ってるんだろうけど!自分が楽したいために他人巻き込むんじゃねえよ!あんた最低だよ!!」
「貴様に何がわかる!!」
「分かんないよ!!僕はそういう経験ないし!!」
「なら黙っていろ!!」
「黙ってられるか!こっち記憶喪失なんだ!知らないうちに大事なもの失ってんだよ!!家族の思いでも何もかも!!お前には人気持ちがわかんねぇだろうが!!だから簡単に踏みにじれるんだよ!!ふざけんなよクソ野郎!!」
「な・・・」
あまりの迫力に言葉が出なかった。彼は私のことを睨み付けているのだろうか、仮面越しでは表情を伺えない。すると彼は俯き始めた。
「・・・?」
「お腹空いた」
予想外の発言にガクッと肩を落とした。
「もうすぐ夕方だからお腹空いても仕方ないよね・・・あ、でも僕まだ食べ盛りの時期だわ、でもこんな場所じゃあ食べ物なんてないよなぁ・・・歩くのめんどくさいから運んで」
「自分で歩け!!」
彼がのし掛かってくるが想像以上に軽くて驚いた。
「やだよ~もう~あ、これ住所ね」
住所が書かれた紙を渡され、自分では動きたくないと駄々を捏ねる彼に呆れながらも家まで送り届けることにした。
「ここ・・・か?」
着いた先はマンションで、見た目からしてかなり古い建物だ。階段の手すりは錆びており、塗装の剥がれが目立つ。2階へ上がり一番端の部屋の前で立ち止まる
「この部屋か?」
「うん、たぶん」
インターホンを押し、暫く待っていると扉が開かれた。
「どちら様で・・・あ」
「あ」
「ぐぅー」
一悶着あったと言っておこう。