「い、いきなりなんですか!?お、俺が!?」
KKの突然の発言に困惑した。
「俺?」
「あ、いや、僕が『女狐』だというので」
驚きで一人称がブレブレになってしまった。KKはニヤニヤと笑いながら話を続ける。
「俺に技をかけた時の力の入り方、まずクモガラミをかけたときには慣れていない感覚がした。次にストラングルホールドγは割と良い踏ん張りができていた。そして、動きも良かったな。『女狐』の試合を何度か見たことはあるが・・・」
「KK見つけたわよ!!」
「なっ!」
凛子さんが最悪のタイミングであるものを持ってきた。
「聞きますけどそれどこで見つけました?」
「伊月くんのロッカーから」
「だと思った畜生!!」
凛子さんが持ってきたのは僕が『女狐』として活躍するときの衣装だ。
「それとだな」
「もういいです!」
KKの考察を最後まで聞くこともなく、僕はストップをかけた。これ以上、自分の恥を晒すわけにはいかない。
「それよりロッカーには隠し場所も作ってあるし、鍵もかけているのにどうやって見つけたんですか?」
「凛子がお前の鞄から鍵をスッた」
「凛子さん」
「あら、私がなにか?」
「凛子さんは僕の味方だって信じてました」
「なら、もっと感謝してもいいんじゃない?」
このクソアマ覚えてろよ、と一瞬思ってしまった。とりあえず、ロッカーの隠し場所も鍵も変えておこう。
「で、世間に公開するんですか?だとしたら僕を殺す気ですか!?」
「いや、そういう訳じゃなくて」
「どうせ乱暴するんだろ!!エロ同人みたいに!!」
「お、落ち着いて伊月くん!KKが言いたいのは・・・」
泣きながら絶叫し、凛子さんが慌てて取り繕うと、KKは笑い出した。
「俺は誰が相手だろうと手加減はしないし、お前を辱める気もない。お前の話も聞いてやるよ」
「・・・本当ですか?」
「あぁ、俺は『女狐』に興味は無いが、お前がどれだけの覚悟を持って戦っているかは知っているつもりだ」
KKは僕に向かって親指を立てた。僕はKKの言葉に噓がないと思い、一旦落ち着くことにした。
「さてと、落ち着いたところで。伊月、お前がプロレスラーになった理由を教えてくれ」
「・・・わかりました」
僕はKKと凛子さんに自分の過去を話した。両親を亡くして妹と二人で暮らしてきたこと。そんな時、スカウトが来て僕にプロレスラーにならないかと提案してきたこと。そして、僕がその提案に乗った理由。
「僕はただ妹を幸せにしたいだけなんです。他のことはどうでもいいんです」
KKは納得したように何度か頷いた。そしてKKはこう言ったのだ。
「俺がお前を強くしてやる」
僕はKKの言葉に呆然とした。KKは僕の頭を撫でてきた。やっぱり子供扱いされているようで少し腹が立ったが、今は感謝しておくことにした。
****
「・・・なんというか・・・さすがというか・・・」
「・・・まさかここまで似合うとは・・・」
凛子さんから衣装をひったくり、急いで着込む。着替え終わった後には凛子さんとKKが茫然としていた。
「にしても男でこれはアウトじゃねぇか?」KKがレオタードの部分を指差す。腰には申し訳程度の赤いスカートかあるだけだ。
「試作を見せられたときにはもうこれでした」
「会議どうなってんだよ」
「んなもの知りません」
「断ろうとしたか?」
「半ば強制的に承諾されました」
「あー、これは流石に断れんわ」
「私は結構アリだと思うけどね」
「凛子さんが言わないでください。まぁ、いいや。さ、やりましょ!」
「・・・お前って結構タフだな・・・」
「そうですか?ま、早くやりましょうよ!」
僕は『女狐』としてKKとスパーリングを始める。KKはプロレスの技術に長けていて動きに無駄がない。それに比べて僕は未熟だと感じさせられる。
「伊月くん、あの動きは?」
凛子さんは僕の動きに違和感を覚えたらしく質問してきた。
「今のは『女狐』の戦い方です」
僕は凛子さんとKKに説明した。『女狐』とは相手を翻弄し、掌の上で転がすような動きで戦うプロレスラーである。相手を魅了し、その一瞬の隙をついて仕留めるのが『女狐』である。
「なるほど・・・」
「ま、言うほど簡単じゃねぇけどな」
KKは構え直した。僕もそれに応える。凛子さんが見守る中、僕は動き出した。
「ぐはっ!!」
KKの鋭いチョップが僕の顎を捉えた。『女狐』の動きにはフェイントを混ぜ込んだ動きも時にはある。KKにそれを仕掛けてみたのだが見事に見破られたのだ。
「おい、伊月。そのフェイントは中々よかったぜ」
「ならなんで・・・!?」
僕はKKに文句を言おうとしたが、KKは僕の頭を掴んできた。そして、そのままヘッドロックをかけてきた。
「・・・まさか僕にまでヘッドロックをかけるとは思いませんでしたよ」
「ああ、お前の動きには違和感を感じたんでな」
「違和感?」
「お前の戦い方には癖がある。それだと相手に動きを読まれやすくなるぞ」
KKはそう言って僕をヘッドロックから解放した。
「癖?」
「ああ、例えば・・・」
KKは僕の動きを真似て構える。そして、同じタイミングで動き出すと僕はKKの攻撃をかわすことができた。
「こんな感じでな」
「・・・なるほど」
僕は納得した。そして、理解した。KKは僕の戦い方に癖があることを見抜き、それを教えたのだ。
「お前はただ相手を翻弄するだけじゃない、自分の戦い方をもっと磨け」
「わかりました!」
「それとだな」
KKは僕に近づくと、いきなり股間を蹴り上げた。
「んにょぉ!!」
「こっちにも気を付けろよ」
「ぅゃんで蹴ってからいうのぉぉ!!」
僕はKKに怒りながら股間を必死に押さえていた。その様子を凛子さんは呆れた表情で見ていた。