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    冷や酒🍶

    @hiyazakeumai

    カヲシンとか書いてる

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    冷や酒🍶

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    ヤキモチ妬いたり妬かれたり。

    #2914

    2914バレンタインの話。(『ずっと待っていた』モデルであるカヲルがモテるのは分かりきったことだった。いちファンとして推しの人気があることを嬉しいと思うのは本当だ。
    けれど実際にカヲルがファンからもらったチョコを山ほど家に持って帰ってきたのを見て、やっぱり僕なんかが好きになっちゃいけない人なんだと、改めて思う。焦って渡さなくて正解だった。シンジはキッチンに立ったまま、成り行きで作ることになったチョコ味のカップケーキのことを考えた。
    これは別に初めからカヲルに渡すために作った訳じゃない。同級生の女子が作り方を教えて欲しいって言うので、一緒に作ったものの余り物だ。そうだ。あげるなんて一言も言ってなんだから自分のおやつにすればいいんだ、そう言い訳している自分に嫌気が差す。カヲルにはたくさんのファンがくれた食べきれない量のチョコがあるのだから、これは必要ないだろう。
    ラッピングだけ見ても豪華でお洒落で可愛らしい。それに引き替えて、こんな子供が作った貧相なお菓子なんて。気づかれないうちに隠しておこう、とシンジはいつ渡そうかとキッチンの引き出しに隠しておいたカップケーキをそっと取り出した。
    カヲルはリビングに荷物を置いて自室に着替えに行っている。自分の部屋に隠すなら今しかない。見つかったとしても、まさか自分のために用意したものだなんて思わないだろう。きっと興味なんてないに決まっている。
    カップケーキの入った袋を持ってシンジは急いで自室に向かった。リビングのドアを開けて廊下へ。まだカヲルは着替え中のようで、姿はなくてホッとする。部屋に置いてくるだけだから時間はかからないだろう。足音を立てないように、注意を払いながらシンジは自室のドアを開けた。よし、このままベッドの上に投げ入れてしまおう。行儀悪いけど仕方ない。そう思って袋を握り直した時だった。
    「シンジ君? 何をしているんだい?」
    「ひゃあっ!?」
    びくぅっと肩が跳ねる。シンジが焦りながら振り向くと、背後に着替えを終え自室から出てきたカヲルが立っていた。タイミングが悪すぎる。けれども、こうなる可能性だって考えていた。焦るな。焦れば余計に怪しまれてしまう。
    「かっ、カヲル君、驚かさないでよ」
    「ごめんよ。ドアを開けたら、目の前にシンジ君がいたから」
    「そ、そう。……僕は荷物を取りに来たとこだよ」
    「そうなんだね」
    カヲルの方へと顔を向けながら、さり気なくカップケーキの袋を背後に隠した。見られてないよね? と内心冷や汗をかく。お願いだから早くリビングに行ってよ、と祈るけれどカヲルはその場に佇んだままシンジを見つめていた。
    「……あの、カヲルくん? 向こう行かないの?」
    「シンジ君と一緒に行こうと思って。荷物を取りに入らなくていいのかい?」
    「う、うん……」
    やばい。どうしよう。後ろ手に隠した袋を、どうやったら見られずに部屋の中に入れられるだろうか。いくら考えても何も思いつかない。
    「シンジ君、どうしたんだい?」
    「あ、はは……何でもないよ……」
    カヲルの方を向いたままドアを開けて中に入るしかないが、明らかに不自然な動きになる。ドアに張り付いたまま動かないシンジの異様さにカヲルが気付かないはずもなく。いつもと変わらない笑顔を浮かべて彼が言った。
    「背中に、何を隠しているのかな?」
    「へっ!? な、何にも隠してないよ!?」
    「なら、後ろを向いてくれるかい?」
    「それは、だめ……」
    「どうして? 何も隠していないのなら問題ないだろう?」
    言葉に詰まる。問題がありすぎて。こんなことになるなら、さっさと食べちゃえば良かった。あのチョコの山を見た後ではカヲルに渡すつもりだったなんて言えない。何か言い訳を考えないと。
    「……あ」
    そうだ、これ。貰ったことにすればいいんだ。バレンタインだって言うのに、一つもチョコを貰えなかったせいで忘れていた。貰うより、作る方に夢中になっていたからだ。昔だったら、貰えるかどうかの方を気にしていたのに。
    「シンジ君?」
    名前を呼ばれてシンジが顔を上げると、目の前にカヲルの顔があった。思わず後ずさろうとしてドアに阻まれる。顔の横に白い腕。それが咄嗟に開こうとしたドアを押さえていた。
    「隠し事をされるのは寂しいな」
    逞しい腕に挟まれるように包囲されて身動き出来なくなる。真正面から見つめられてしまったら正気を保つのは難しかった。だって、この世界一格好良い顔が大好きだから。「か、隠し事なんて、ないよ……」
    「……本当かな。自分の目で確認した方が良さそうだ」
    「う、んっ、カヲル君!?」
    ドアに付いていたカヲルの手が移動して、シンジを閉じ込めたスペースが狭くなる。カヲルの両腕に抱かれた上半身が密着して、シンジの心臓は急速に鳴り始めた。
    首筋に熱い吐息を感じて、それに反応するかのように肌がざわめく。カヲルの手がシンジの細い腕を撫でるように移動して、ついに指先に辿り着いてしまった。
    カヲルの指先が袋を握り込んだシンジの指に絡みゆっくりと外されていく。力の差は歴然で有無を言わさずにシンジの手からカップケーキの袋を奪い取った。
    「…………これは、何だい?」
    それをシンジの眼前に差し出して問いかける。一瞬だけ視界に映った赤い瞳に違和感があって、シンジは慌てて目を逸らした。普段と同じように微笑みを浮かべたカヲルの顔が何故か見れなかった。
    「……っ、えと……それは、もらったんだ。……学校でっ……今日、バレンタインだし」
    カップケーキを視界に入れたくなくて、シンジはますます俯いた。頭の中に豪華なチョコが過ぎる。一緒に作った女子はプレゼント用に工夫して可愛くラッピングしていたが、シンジの作ったものは恥ずかしさもあり袋に詰めてリボンで留めただけの簡素なものだ。比べられるなんて耐えられない。なんであげようなんて思ったんだろう。
    「……僕がもらったものだから、返してよ」
    つっかえながら用意していた言い訳を口にする。普段なら「そうなんだね」とすぐに納得して返してくれそうな気がするのだがカヲルは動かなかった。ただシンジの耳に、カヲルが手にした袋が立てるカサッという音だけが聞こえる。
    「もらった、ねぇ……」
    俯いている為、カヲルがどんな顔をしているのか分からない。ただ声色やトーンの低さに違和感があり、何となく棘を感じて責められているように思えた。カヲルに嘘をついたからそう思うのだろうか。スリッパを履いた足が四本並んでいる廊下を見つめながらシンジは身を小さくする。
    「シンジ君はモテるんだね。どんな子から貰ったのか教えて欲しいな。クラスメイトかい? 可愛い子なのかな」
    「……っ」
    耳元に吹き込まれる声の低さに、全身にぶわっと鳥肌が広がった。悪寒なのか、廊下の空気が一気に冷たくなったような気がする。
    「どんな子だい? 名前はなんて言うの? 何年生?」
    「……あ……その……」
    そんなことを根掘り葉掘り聞かれるとは思っていなかった。咄嗟に言葉が出てこない。いくら保護者でもあるからと言って、普通ならばそこまでは踏み込んで来ないものだ。もっと簡単に終わる話だと思っていたシンジにとって、カヲルの反応は予想外過ぎて頭の中はぐしゃぐしゃになっていた。
    「答えられないのかい?」
    何でもいいから言わないと。名前を借りるだけだからクラスメイトでも良い。一緒にカップケーキを作った女子の名前…………何だっけ。苗字はわかるが名前が出てこない。知っているはずなのだが、意識がカヲルに集中しているせいで他のことが考えられなくなっているようだった。
    「カヲルく、ん……どうしてそんなこと聞くの……? どうでもいいでしょ、そんなお菓子のことなんて……」
    「どうでもいい……? いい訳ないだろう。僕はシンジ君のことなら何でも知りたいんだよ。君が持っていた小さなお菓子のことでもね」
    「……そんなの、変だよ……」
    カヲルの掌がシンジの首筋を撫で、指先が顎を捉える。元々抵抗するつもりはなかったので軽い力で持ち上げられて簡単に上を向いた。カヲルの赤い瞳に見つめられると緊張と高揚とで心臓が震える。ドキドキと鼓動が早くなり体温が急速に上昇していくのが自分でもわかった。シンジが愛してやまない見目麗しい容貌は、どれほど至近距離で見つめても欠点など見当たらない。
    「変? そうかな。大切な人のことならば全て知りたいと思うのは当然のことだよ」
    いつの間にかカヲルの額がシンジのものにぶつかった。身長差があり過ぎるためか、上から覆い被さるようになっている。顔が熱くて、呼吸をするのも躊躇ってしまう距離だ。
    少しでも身動ぎしようものなら唇が触れてしまう。首を振って避けるか、下を向けばいいのかもしれないが、カヲルの手に顎を捉えられていてそれは叶わなかった。
    「カヲル、くん……近いよぉ……」
    「シンジ君がちゃんと話してくれないから」
    話すと呼気が唇にかかる。生温かく湿気を含んだ吐息に背筋がゾクッとした。触れそうで触れないギリギリの距離。焦れったくて、本題を忘れてついその先を求めてしまいたくなった。何を考えているのかと自分を叱咤する。
    「どうしても教えてくれないつもりなのかな?」
    真実を聞き出すまで解放されないだろうということは容易に想像がついた。粘れば根負けすると思っているのだろう。それはその通りで、ずっとこの体勢のままではシンジの心臓は確実にもたなかった。催促するように唇をなぞる指先をシンジはそっと掴んだ。
    「わかった、から」
    「話してくれる気になったのかい?」
    「うん……」
    流石に『女子にもらった』は無駄に見栄を張ってしまったのかもしれない。自分なんかが女子からチョコをもらうなんて有り得なさ過ぎて余計に変に思われたのだと思った。失敗してしまった。素直に『自分で作った』と言っておけばここまで執拗な追求をされずに済んだのだろうか。
    「…………これ……自分で、作ったんだよ」
    「シンジ君が?」
    「う、うん。クラスの女子が作り方教えて欲しいって言うから……」
    家庭科の授業でシンジが料理上手であることは周囲に知られていた。過去に何度か誘われて家庭科部の調理実習に参加したりもしていたのだ。今はカヲルのことに集中したいので、誘われても断っていたが今回は特別だった。
    この時期に掛ける女子の切実な願いを無下には出来ない。普段は弱気なシンジだが、頼られると断れないし、断った後が恐ろしくて、結局一緒になってカップケーキを作った訳だ。
    「それで、これは誰に渡すつもりだったんだい?」
    「……へっ!?」
    「これはプレゼントだろう、どう見ても」
    再度目の前にカップケーキを突きつけられる。一応結んでおいたリボンを見て、プレゼント用であると判断したようだ。二つ入ったチョコ色のカップケーキは袋の中で動いたらしく、少しばかり上の部分が凹んでいる。こんなの今さら渡せる訳ない。
    「あっ、あげる人なんていないよっ! これは自分で食べる用なんだからっ!」
    カヲルの手からカップケーキを取り返そうと手を伸ばしたが、それに気付かれて避けられた。そしてシンジの手の届かない上方に掲げられる。身長差があり過ぎてシンジがどんなに手を伸ばしても届かない位置だ。
    「カヲル君っ! もう、意地悪しないで返してよ……っ」
    「意地悪なんてしていないよ。あげる人がいないなら、僕が貰ってもいいだろう?」
    「なん、でっ……カヲル君にあげないといけないの。それに、こんなぐしゃぐしゃなの、人にあげられる訳ないよ!」
    「シンジ君の作るものならなんだって美味しいよ。僕の好物がシンジ君の手料理だってことは知っているだろう?」
    「でも……それはダメだよ……っ」
    確かにカヲルはシンジの手料理を喜んで食べているけれども。だとしてもこんな見栄えの悪いものをカヲルに渡すなんてシンジのプライドが許さなかった。手を伸ばしぴょんぴょんと飛び跳ねても、遥か頭上のカップケーキには全く手が届かない。
    「カヲル君はファンの人からたくさんチョコ貰ったでしょ?」
    「でも、僕はシンジ君が作ったものしか食べたくないんだ。どうしても……ダメなのかい?」
    飛び跳ねるシンジの身体を抱き寄せながらの、その台詞は卑怯なのではないか。眩いばかりの美貌の人に眉を下げながら懇願されたら断れる訳がない。少なくともシンジには。
    「ダメっ……じゃ、ないけど……」
    「けど?」
    「これは凹んでるし、また新しく作るから……そっちに」
    「いいや、今はこれが良いんだ」
    大概のことならシンジの意志を尊重してくれるはずのカヲルが今回は全く譲ってくれなかった。カヲルに腰を抱かれ、しがみつくような体勢でシンジはその顔を覗き込むように見る。
    「そんなの、見た目も悪いし美味しくないよ……」
    ただの手作りのお菓子、しかも凹んでるのにどうしてそこまで執着するんだろうか。料理の腕をいつも褒められるので、気に入られている自覚はある。けれど理由はそれだけではない気がするのは気のせいだろうか。
    「見た目なんて気にならないよ。シンジ君が作ったお菓子は、全て僕が食べたい。他の誰にも渡したくないんだ」
    「う、ううぅ……」
    その言葉の意味を本当に理解しているのだろうか。耳朶まで赤くするシンジの顔を見つめたカヲルは至って普通だった。今日がバレンタインデーだと言うことを忘れてないよね? と心配になる。流石にファンから贈られた大量のチョコを持って帰ってきたばかりなので、それはないと思うが。
    勘違いしてしまいそうになる。カヲルにそんな意図はなかったとしてもここまで熱烈に「欲しい」と言われると違うと分かっていても嬉しくなるのは当然のことだ。カヲルのためなら立派なチョコケーキだって作ってもいいと思えるけれど、本人には言える訳がない。
    「……カヲル君、僕が男の子でよかったね」
    「ん? どうしてだい?」
    「僕が女の子だったら……バレンタインにチョコが欲しいって言われたら絶対に誤解すると思うし。……芸能人なんだから、気をつけた方がいいよ」
    本人はあまり気にしていないようだが、彼は世界的に有名なモデルなのだ。いつもの調子で女性に接していたら、本気にする人が山ほど出てくるはず。今の所大丈夫そうだけれどシンジは気が気でなかった。
    一応は遠縁の親戚らしいが、シンジにとってカヲルが雲の上の存在なのは一緒に暮らすようになっても変わらない。本当は一緒に暮らしているのも奇跡のような出来事なのに、この生活がいつまでも続けばいいのにと思ってしまう。
    けれどもしカヲルに恋人が出来たら、シンジはこの家から出ていかなくてはいけなくなるだろう。恋人と仲睦まじくしているカヲルを側で見ながら暮らすなんて、そんなのきっと耐えられない。だから夢のような生活が泡沫の如く消えてしまわないようにと願わずにはいられなかった。
    (どうか、カヲル君に恋人が出来ませんように……。僕以外に『チョコが欲しい』だなんて言わないで)
    酷い奴だって思われたくないけれどバレなければいいのだと思う。願うくらいしか出来ないのだから許して欲しい。カップケーキを取り返すことを諦めたシンジはカヲルのシャツから手を離して改めてカヲルの顔を見た。
    「……そうだね。これからはシンジ君だけにしか言わない事にするよ」「……うん」
    「それで、このお菓子は僕が貰うと言うことで良かったかな?」
    「……何回もダメって言っても聞いてくれないじゃないか。……いいよ、カヲル君にあげ、るっ、う!?」
    「ありがとう! シンジ君。君のおかげで、人生で一番幸福なバレンタインデーになったよ」
    言い終わる前に両腕で抱き締められてしまった。ぎゅぅっと抱き締められてシンジの足が宙に浮く。急な浮遊感に驚いてカヲルの首にしがみつくと、彼はさらに腕の力を強めてシンジの身体を抱き上げた。
    「もう、カヲル君。 こんなケーキくらいで……大げさだよ」
    「ごめんよ。すごく嬉しくてね。さあ、早くシンジ君のケーキを食べなくては」
    そう言ってシンジを抱えてリビングへ向かう。輝きを増す笑顔を見るに、相当嬉しかったのだろうということはシンジにも伝わった。抱き締められると、胸がじんと温かくなる。沸き起こる嬉しさに、はしゃぎたくなる気持ちを堪えるのが大変だった。
    「……あ、ダメだよ。カヲル君。先に晩御飯食べなきゃ」
    「ふふっ、もちろんだよ。シンジ君のご飯はいつもとても美味しいから、残さずに食べないとね」
    「……たくさん作ったから、いっぱい食べてね」
    カヲルの胃袋を満たすのは至難の業だった。どれだけ食べても、満腹になったことがないのだと言う。それなのに体型は全く変わらず、腹筋は綺麗に割れている。謎だ。
    「まずはシンジ君のご飯でお腹を満たそう。……お楽しみは最後に取っておくことにするよ」
    特別な時にしか見られないはずの魅惑的な笑みを向けるのと同時に、カヲルは無防備な顔で自分を見上げていたシンジの唇に柔らかなキスを落とした。
    小さな唇は甘い味がする。それは、これから食べるチョコレート菓子よりも、甘く濃厚で、癖になるほどに刺激的な味だった。






    おわり。






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