池守とあたしの夏 盛夏の生ぬるい風が、ぶ厚い舌で頬を撫でてった。のっぺりと青い空には真っ白い雲のかたまりがのらりくらり牛の歩み。アスファルトの道の果ては陽炎で歪み、飛び込めば時空のはざまに入れるんじゃないかしらと錯覚させてくれるけど、逃げ水なものだからいつまでたっても追いつけやしない。街路樹で黙っていた蝉がとつぜん喚きだす……うるさいことこの上ないわ。
あなたとの待ち合わせはいつもこうだ。あたしは早めにたどり着くのに、あなたはぜんぜん現れない。夏ばかり過ぎて、あたしの腋はぐっしょり濡れる。うなじに垂れる汗の重力運動の無駄。あなたがいればなまめかしく消費してくれるのにね。
映画一本終わるくらい待った気がしたけど、ようやく来たあなたは腕時計を見せて「15分しか遅れなかった」とのたまう。だけどあたしは許してしまう、あなたの、その、サテンの白いワンピース。ネットで噂の妖怪みたい。けれどとっても似合ってるから、あたしは全然許しちゃう。
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