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    scenaria0420

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    scenaria0420

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    I〇のパロディ小説です。
    これから、アンケートにそって進んで行きます。アンケート結果によって分岐やストーリーの内容が変わる予定なので、アンケートへの協力お願いします。

    I〇 パロディ小説ある日の昼下がり……一組の家族がその街にある小さな美術館に向かって歩みを進めていた。両親らしき人物の後ろを歩く顔や髪色がそっくりな少年と少女はしっかりと手を繋ぎながら楽し気に話している。
    「晴れてホントに良かった~!こんな風に家族でお外を歩くの本当に久しぶりだよ‼昨日は楽しみで全然眠れなかったんだ~」
    「『ゲルテナ作品展』………だったか?サキがよく画集を見ていたから何となく覚えているぞ。展示期間中に退院出来て本当に良かったな、サキ。……だが、楽しみだからと言って睡眠をおろそかにするのは良くないぞ‼万一疲れたらオレでも母さん達でもすぐに報告するんだからな!それと、忘れ物はないか?ハンカチやティッシュはしっかりと鞄に入っているか?」
    「持ってるよ!準備は昨日のうちからバッチリだもん‼………アタシよりお兄ちゃんが心配だよ~。ちゃんとハンカチ持った?」
    「もちろん‼サキが誕生日にくれた刺繍入りのハンカチがしっかりとポケットの中に入っている‼今日のオレに抜かりはない‼」
    「えへへ~!それ、お兄ちゃんの名前入れるの頑張ったんだ~‼使ってくれて嬉しい‼」
    「二人とも、楽しそうなところ悪いけどそろそろ美術館に着くからお口はチャックしてちょうだいね?」
    「「は~い」」
     母親の声に二人は揃って返事を返す。幸せな家族のワンシーン。笑顔の絶えない四人家族は並んで美術館の中へと入っていった。


     ワイズ・ゲルテナ………知る人ぞ知る、見る者を引き付ける魅力的な作品を数多手がけた謎多き芸術家。
    正直なことを語ると、少年―――テンマ・ツカサはこの芸術家について知っていることは少ない。妹のサキは入院時の手持ち無沙汰も相まってゲルテナの作品集や画集をよく見ていたが、ツカサはそれを横から眺めていたぐらいだ。今日ゲルテナの展覧会に来たのも長らく病気で入院していた妹が無事に退院出来たこと祝うためであり、ツカサの気持ちは『サキが楽しめればそれで良い』くらいのものだった。
    (世界的に有名な舞台劇にはこの芸術家の作品にインスピレーションを受けたものもあると聞く……よく分からないがサキも絶賛するほどだし凄いのだろう。未来のスターであるオレにピッタリではないか‼)
     未来へ想いをはせドヤ顔とにやけ顔を混ぜ合わせたような不思議な笑みを浮かべている息子に首を傾げながら、父親は重々しい美術館の扉を開ける。

    ―――……扉の向こうは別セカイだった。

     一歩美術館の中に入れば、その空気の違いをまだ十七になって間もないツカサでも感じ取れた。入り口付近に置かれた小さな作品ですら自然と目を引き付ける。まるで、こちらにおいで、と手招きをされているような感覚……。先ほどまでの笑顔や明るさはどこへやら、美術館特有の厳格な空気とゲルテナという芸術家のセカイに呑まれた兄妹に両親は微笑みを浮かべながら優しく手を引いた。
    「そういえば二人とも美術館は初めてだったわね~。そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ほら、貴方たちより小さい子供も沢山いるでしょ?だから、肩の力を抜いて楽しめばいいのよ」
    「そうだぞ、二人とも。せっかくサキの退院祝いでオオトリさんがこの展覧会の優待券を譲ってくれたんだ。楽しまないと損だぞ!父さんと母さんが受付を済ませておいてあげるから、二人は先に色々見ておいで。絵の他にも彫刻とか色々面白いものもあるし、ゲルテナに興味があるサキだけじゃなくて、ツカサも楽しめると思うぞ」
    「そうね、後でパンフレットも持って行ってあげるから先に行ってらっしゃい。………でも、必ず二人で行動すること。知らない人についていっちゃ駄目よ?………それとツカサ、美術館の中では静かにすること。他の人に迷惑をかけちゃダメだからね」
    「何故オレだけ名指しなんだ………」
    「あら~?忘れちゃったのかしら~…?病院でショ―だスターだって叫んで毎回まいかいサキの病室からお医者さんに摘み出されそうになっていたのはどこのテンマ・ツカサくんだったのかしらね~?」
    「サキ‼一階から順番に見て回ろうか‼」
     母親に痛いところを突かれたツカサはこれ以上言われまいとサキの手を引っ張り作品の方へと小走りに進んで行く。そんな彼らを優しく笑いながら見守ると当時に母親は「変なポーズをとるのは止めなさいよ~」とくぎを刺すのも忘れなかった。


    「あのね、ゲルテナさんの作品は凄いんだけどマイナ―な芸術家さんで、小さな美術館でしか個展が開けなかったし、ほとんどの作品は予算の都合で置けなかったんだって」
     美術館一階、『ある丘から見た空』という作品を眺めながらサキがツカサに説明する。
    「そうなのか?」
    「うん、ここにある作品もほんの一部なんだって。画集に載ってた作品もほとんどないし………ちょっと残念かな……。あ!でも、画集の一番最初にあの作品は載ってたよ‼ほら、お兄ちゃんあれ‼」
    「分かったから、そんなに急がなくても作品は動かないぞ」
     サキの後に続き、ツカサは床に描かれた不思議な絵を見る。深海がモチーフにされているのか、おどろおどろしい深海魚がじっとこちらを見つめているのが何とも印象的な絵画だ。………果たして、これを絵画と呼んでいいのかは賛否両論あるだろうけれど。
    「『ヒトが立ち入ることは許されないそのセカイを堪能するために私はキャンバスの中にそのセカイを作った』……か。不思議な価値観を持った芸術家だったんだな」
    「そう?アタシは素敵だと思うけどな~、絵画のセカイってちょっと興味ない?」
    「………まあ、実際にあるなら興味はなくないが………」
     妹の言葉にツカサは言葉を濁す。確かにここに展示されている作品は妹の言う通りどれも素晴らしいものだがしかし、どことなく不気味な感じがするのもまた事実だった。………まるで、誰かにじっと見られているような………そんな気分にさせられる。居心地の悪さをかき消すように、ツカサは他の作品に視界を向けた。
    (『精神の具現化』…………ちょっと触れれば茎のところから折れてしまいそうだな。それに、『健全な肉体にしか咲くことが出来ない』とは一体どういうことだろう………?うむ、全く分からん‼)
     作品の一つ、黄色い薔薇の彫刻を見てツカサはそう結論付ける。………興味のない不気味な芸術品への反応など皆このようなものだろう。そんなツカサに反して楽しそうなサキはキラキラと目を輝かせながらあっちへこっちへと視界を動かしていた。
    「あ、お兄ちゃん‼二階の作品も凄いのが沢山あるよ‼早くはやく~‼」
    「サキ、周りをよく見て歩かないと危ないぞ‼」
    「へ………っきゃ‼」
    「………おっと」
     いくら元気になったといえど、彼女はつい数週間前までベッドの上の生活を余儀なくされていたのだ。急にはしゃいだ足は見事に縺れ、男が吊るされているような絵画を眺めていた青年にぶつかってしまう。青年はそのまま床に尻餅をつきそうになったサキを片手で優しく支え、ゆっくりと体制を整えさせた。
    「あ、ありがとうございます……!」
    「こちらこそすまなかったね。怪我はないかい、お嬢さん。ゲルテナの作品は素晴らしいけど、それでキミが怪我をしたら作品たちも悲しむと思うな。………だから、自分のペースでゆっくりと楽しむことをお勧めするよ。閉館時間までまだ時間は沢山あるし、残念なことにこの美術館に置いてある作品はそこまで多くはないからね。一つの作品を十分見ていてもディナーを楽しむ時間が残るくらいさ」
    「サキ、大丈夫か⁉………妹がすまない!貴方こそ怪我はないか?」
    「可憐なお嬢さん一人受け止められないほど木偶の棒ではないよ。……それじゃあね、素敵な兄妹くんたち。互いにこの不思議な空間を楽しもう」
     紫色の髪に水色のメッシュ、右耳に光るメッシュと同じ色をしたピアス、大人びた空気の青年はそう言って二人に微笑みかけると手を振りながら別の作品の方へと消えてしまった。謝罪する相手が早々にいなくなってしまったことで少しの間呆然としていたツカサだったが、ハッとしたように同じく呆然としたサキの方へと振り返る。
    「サキ、本当に大丈夫か?………あの青年の言った通りまだまだ時間は沢山ある。少し休みながら見てもいいんだぞ?」
    「うん………ごめんなさい、少しはしゃぎすぎちゃったみたい………。あの人にも申し訳ないことしちゃったな………まだこの作品を見てる途中だったらどうしよう………」
    「………まあ、気になる作品だったら時間をおいてまた見に来るだろう。ほら、あっちにベンチがあるから座った方がいい。足は捻ってないか?母さんたちを呼んで来た方がいいか?」
    「少し疲れちゃっただけだから座ってるだけで平気だよ‼………折角来たんだから、お兄ちゃんは他の作品も見てきなよ‼」
    「いや、サキを一人にするわけには………」
    「もう!他に沢山人がいるからだいじょ―ぶ‼それに、このベンチからでも作品は見えるし……アタシの我儘で連れてきてもらったんだから、お兄ちゃんも少しで良いから楽しんで‼」
     愛しい妹にここまで言われて断れる兄などこのセカイにいるものか。サキに押し切られたツカサは後ろ髪を引かれる思いで数歩ごとに妹の方を振り返りながらまだ見ていない二階の作品を見て回る。

    赤い服の女性の絵
    頭部のないマネキンたち
    ツカサには家に置いてあるものとの違いが分からないソファーの作品

     読めない漢字を飛ばしとばしで流し見する作品の説明欄。不可思議で、難解で、それでいて人の視線を惹きつけ………そしてどこかこちらを見つめているような気がする作品たち………。
    「………あれ?」
     何気なく通路を歩いていたツカサはふと、誰一人として見ている者がいない大きな絵の前へと辿り着く。美術館に展示してある絵画のなかでもかなり大きい部類に入り、誰も見ていないのが不思議なほどだ。そんなに酷い作品なのか………ツカサはそっと絵画に近付いて行く。

    通路に忘れられたように飾られていたのは………黒を基調とした、油絵具を乱雑に塗ったような、規則性も何もない、他の作品に比べ何もかもがぐちゃぐちゃな絵画だった。

     絵画のなかには先ほど見た赤い服の女性の絵画や謎の青い人形のイラストなどが描かれており、それらの作品たちは壁に縛られておらず自由に動き回っているようだった。………例えるならそう……そこに描かれているのは、まるで美術館の裏側のセカイのような―――………。
     ジジッ………ジッ………ジジッ………という不協和音。頭上の照明が点滅し、ツカサはハッと顔を上げる。その瞬間感じる異様な空気。
    「…………そ、そうだ。サキの様子を見に行かないと………!」
     肌を刺す不穏な気配を誤魔化す様に声を上げながら、ツカサは来た道を足早に戻って行く。少し長めの通路に響く一つだけの足音。………警鐘を鳴らしている脳味噌の感覚が間違いではないとツカサが理解したのは、通路を抜けてすぐのことだった。
    「………⁉さ……さっきまでたくさん人が作品を見てたのに…………」
     確かについ数分前まで作品を見ていた人たち全員が、最初からいなかったかのように姿を消してしまっていた。ツカサは思わずその場に立ち尽くしてしまう。………大体一つの作品の前に二・三人立っていたのだ………それほどまでの人数の人間が、ツカサがあの絵を見ていたたったあの僅かな間で全員いなくなった。
    「…………サキ‼‼」
     こんなときでもツカサの頭を埋め尽くしたのはセカイで一番大切な妹のこと。……それと同時に他の人は兎も角、妹は自分をおいてどこかへ行くというただ心配をかけるだけの不謹慎ないたずらをしないという自信があった。………こんな現実離れした状況でも妹の姿があれば安心できる……そんな思いでツカサは妹が座っているはずのベンチまで走る。あれだけ母親に言われた『美術館を走らない』という言葉も、今の彼には守れそうにない。………いっそのこと、誰でもいいからそんな自分を注意して欲しかった。
    「……………ッ‼」
     ………そんなツカサの想いを嘲笑うかのように、妹が座っているはずのベンチには空虚な風が流れていた。たまらず、ツカサは転げ落ちるように階段を降りる。優し気な老齢の受付番も、楽し気にはしゃいでいた子供も、一階で展示品を見ているはずの両親も………この美術館には最初から誰もいなかったかのように、生きているモノはツカサだけだった。ジジッ………ジッ………ジジッ………再び聞こえる不協和音。そんな重苦しい美術館に耐えきれなくなったのか、照明がバチンッと音をたてて退場する。暗転する美術館。涙が零れそうになる瞳を擦りながら、ツカサは手探りに歩いて行く。
    (……………あの絵を見てから美術館がおかしくなった………。きっとあの絵に何か元通りになる手がかりがあるはずだ)
     暗い美術館を歩いているのは自分だけのはずなのに、何処からか重たい足音が聞こえてくる。暗い通路では走ることも出来ない。震える足を叱咤し階段を登り、ツカサは再び大きな絵の前へとたどり着く。ようやく暗闇にも慣れてきたツカサの目の前に広がるのは先ほどと変わらない意味の分からない絵画………ただ一つ異なっていたのは、絵画の端から青色の絵の具が零れていることだった。
    「何で……絵の具が…………?」
     不思議に思い手を伸ばせば、それはツカサが触れる前に流れ落ち文字が浮き出てくる。

    『したのかいに おいでよ ツカサくん ひみつのばしょ おしえてあげる☆』

     その瞬間、バシュッと何か打ち付けられたような音が響く。肩を震わせ後ろを振り返れば床にはなかったはずの赤い文字………それはいくら勉強があまり得意ではないツカサでも理解できる簡単な平仮名……『おいでよ つかさくん』のたった9文字。それだけでも、ツカサの恐怖を煽るのには十分だった。
    「………ッヒ‼」
     声にならない悲鳴を上げ逃げるように絵画から離れるが、他に手がかりがないのもまた事実………ツカサはもう一度青い文字に視線を向ける。
    「………したのかい……下の階……その秘密の場所とやらに行けば、オレを家族の下へ帰してくれるのか………?」
     ツカサの問いに答えはない。息をのむ。………ツカサは一度大きく深呼吸すると、三度階段を降りる。ペタペタとついてくる足音に気付かないフリをして下の階へ進めば、青色の足跡がどこかへと続いていた。まるで何かに導かれるように(実際謎の言葉に従っている時点で導かれるようなものだけれど)ツカサはその足跡を追う。
    「…………アレは……サキと最初に見た床に描かれていた絵画だ……」
     妹と見たときには確かに作品に触れられないように柵があったはずなのに、その柵が人同様消え去り足跡は深海の中へと消えている。………もしかしなくても、こちらへ来い、ということであり、あの文字のいう所の『秘密の場所』というのはこの深海の先なのだろう。ツカサは足跡の前で立ち止まる。
    (………本当にあの文字に従っていいのか………?このまま先に進んでも、サキの場所に戻れる保証なんてどこにもないし、帰って来れないかもしれない………)
     ……でも、とツカサは両手を拳に握りしめる。
    「………手がかりはこれしかないのだから………行くしかないのだろうな」
     覚悟を決めて、ツカサは歩みを進める。ただの絵のはずなのに、触れた青色の絵の具は波紋を広げた………本物の水のようにー――……。
    「うわあ⁉」
     踏み出した足は一気に絵画の中へと吸い込まれる。ありえない浮遊感………一階のはずなのに、地下などこの美術館にはないはずなのに………声に出した悲鳴ごと、ツカサは深海の世へと沈んでいった。
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    scenaria0420

    DONEI/bパロディ小説(2)
    注意書きは前回を参照してください。
    I/bパロディ(2)例えるなら、プールで泳いでいるとき唐突に足がつってしまったかのような……或いは、海を漂っているとき徐に浮輪を取られてしまったかのような……そんな息苦しく、浮遊感に対する恐怖と目の前に広がった暗晦たる風景の絶望………。上へと手を伸ばし、藻掻き、何とか地上へ戻ろうとしてもズシリと重たい絵の具のような水はツカサを下へ下へと引きずり込む。ゴポリッと必死に呼吸をする度に、数個の泡が哀れに足掻きそれでも沈みゆく自分を嘲笑うかのように水面へと上って行った。
    (………何とかこの深海の中から抜けなければ………そろそろ息が続かなくなってしまう……!)
     すり抜けていく数多の魚(魚……と形容してもいいものか微妙な謎の生物も多々いるのだけれど)を横目に、ツカサは必死に手足を動かす。傍から見ればそれは随分と滑稽に映ったことだろう。……しかしながら、絶体絶命な状況に遭遇してしまったときこそ諦めず行動し続ければ案外道は開けるものだ。乱雑に動かしていた足に、何か当たる感覚が脳に伝わってくる。その感覚を頼りにそのまま足を進めて行けば、足に当たった何かは下へと続いているようだった。
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