真夜中の内緒話真夜中の内緒話
何十年ぶりだろう、この景色と楽しい空気を感じたのは。
《あるじ、あるじ~今夜はここで寝るの?》
満天の星空の下で焚き火に使う小枝を拾っている主の 魏無羨にご機嫌な声で話しかけた。
「ああそうだぞ、随便は野宿久しぶりだもんな。あんま騒ぐなよって言っても俺達以外お前らの声は聞こえないけどな」
そう言って主は嬉しそうな顔で鼻歌まで歌っているからオレもつられて真似してみたんだけど上手く歌えなかった。
随便は大好きな主魏無羨にもう一度歌ってと口にしようとしたのだが・・・。
「魏嬰」
「藍湛、このくらいで平気かな」
「問題ない」
集めた小枝に火が灯って夜空に煙がゆらゆらと延びていくのを随便は嬉しそうに見上げてころりとその場に大の字に転がった。
《随便随分とご機嫌に楽しんでるな》
随便が見上げている夜空とお月様と星々が陳情が重なる。
《陳情すごく絵になるな、かっこいいぞ》
《な・・何を恥ずかしい言葉を言ってるんだ・・ほら起きろ》
ほんのり顔を赤くしながら陳情の手をとり起き上がって主の元へ飛んでいく。
《なぁ陳情後で教えてほしいことあるんだけど》
《オレに教えられることか?》
《うん陳情が適任だと思う》
パチパチと火の粉が舞う、焚き火の炎を魏嬰が懐かしそうに眼を細めてみつめている横にいる藍湛も同じようだった。
「こうしてると玄武洞の時思い出すよな藍湛」
「うん」
藍湛に寄り添うにもたれかかって幸せそうに話している。
《あっ、そのお話また聞きたい》
随便が魏嬰の頬に擦り寄り目をキラキラさせておねだりを始めた。
《あるじ、ワタシ達も聞きたいです》
避塵が手を挙げてその隣の忘機琴もこくこくと頷き陳情は魏嬰の頭に乗り、
《オレも聞きたいぞ》
魏嬰と藍湛はお互いの顔を見て静かに頷いた。
「今夜は特別な夜だしな」
《とくべつ?》
魏嬰が、手のひらを随便にさしだしその手に嬉しそうに乗っかった。
「俺達の数十年ぶりの野営だ、そしてみんなが揃ってる最高の夜でもある」
《あるじ~あるじ~ぃ》
大好きな主の笑顔が見れ、随便はうれし涙をボロボロとこぼして周りが慌てだした。
「えっまた俺泣かせちゃった?」
魏嬰がオロオロして隣にいる藍湛に助け船を求めた。
「魏嬰この涙は違う、嬉しくて泣いている」
「そっか・・随便は泣き虫さんだなぁ」
魏嬰は優しい顔をしながら随便の頭を撫でた後涙を拭った。
《あるじ、ありがとう~だいすき》
魏嬰と藍湛の話は亥の刻前で話をしてくれた、主に魏嬰が嬉々として話をし嘘や虚言や捏造があると藍湛が「嘘はいけない」と釘をさしている。
「ははっ、別にいいじゃんかよ」
「教育上良くない」
《あるじたちが楽しいとオレたちも楽しいね》
にこにこ顔の随便と主達を交互に見た三人はうんうんと頷く。
「さて今夜はここまでだ。俺の藍湛が寝る時間みたいだからな」
魏嬰がしーと人差し指を口元に寄せて片目を閉じた。
「亥の刻」
大きな木にもたれかかる体勢になって藍湛が両手を広げた。
「はいはい、俺はあんたの腕の中じゃないと安眠できないからな・・お前らもちゃんと寝る・・静かにしてるんだぞ」
大好きな主達が眠りについたのを確認すると三人は小さな声でおしゃべりの時間が始まる。
《忘機琴なんで寝るのー》
忘機琴の傍に随便がちょこんと座って声をかける。
《・・・・亥の刻だから》
ぷくっと頬を膨らませゆさゆさと揺り動かせ始めた。
《随便、さっきオレに教えてもらいたいことあったんだろ》
あっと声をあげたあと忘機琴の手を引いて陳情と避塵の傍まで飛んでいく。
《あるじ達がたまに奏でているあの曲教えて、オレ上手く歌えないんだ》
こんな曲と随便は鼻歌で歌ってみせ、ここが上手く出来ないと舌をぺろりと出した。
《ああ、その曲は・・》
言葉を止めるかのように避塵が、くいと陳情の袖を引っ張り小声で耳打ちをすると、ちらりと忘機琴の方に目をやり、にやりと微笑んだ。
《随便、オレよりすぐれた適任者がいるみたいだぞ》
《陳情より適任者がいるのか?》
避塵が慌てて逃げようとしていた忘機琴を引っ張り戻してくると。
《忘機琴に教えてもらうといい》
随便は忘機琴の手を取って期待の眼差しで見つめて来た。
《あの曲あるじと歌いたい、みんなと歌いたいから教えて》
《・・・わかった》
小さきもの達の真夜中の可愛い内緒話を藍湛の腕の中で魏嬰はこっそりと聞いていた。
《陳情もこの曲歌えるはずなのだが》
随便に期待の眼差しの洗礼を受けている忘機琴が耳を赤くしながら陳情に話し、それに答えた陳情は頷き歌おうとした時避塵に手で口を塞がれた。
《駄目だ・・ワタシ以外に歌ってはいけない》
避塵がそう言った時魏嬰が口を押さえて笑いを堪えながら震えそれに気づいた藍湛が小声で聞いてきた。
「どうした?」
「あっ悪い起こしたか、いややっぱり主人に似るんだなって・・・」
聞き耳を立てて随便達の会話を聞いてみる。
《どうした避塵いつもはみんなに聞かせているだろ》
《避塵以外に歌っちゃダメなの?》
陳情忘機琴の袖を握りしめたまま、首をかしげた。
《なるべく・・ワタシ以外に歌って欲しくない・・・》
《避塵は陳情の声が好きなんだねーオレも好きだよ》
忘機琴も頷き、陳情は照れくさそうに頭をかいた。
《分かった、なるべくは歌わないようにするよ。それでいい?避塵》
こくりと満足そうに頷き陳情の手を握った。
「あいつら本当に仲が良くてほほえましいな・・って寝ちゃったか」
あの曲が静かに聞こえてくる中魏嬰も眠りについた、明日目覚める事を楽しみにしながら。
翌朝徹夜明けの4人の「忘羨」を披露され藍湛と魏嬰は満足そうに澄み渡る青空の下で耳を傾けた。
《あるじーどうだったオレたち上手く歌えた?》
「もちろん上手かったぞ!藍湛の評価は?」
魏嬰は、肘で藍湛の肘を小突いて笑顔で顔を下から覗き込む。
「とても良かった」
四人は円を描くように手を繋ぎ飛び跳ねていた。
「俺より褒められてるんだけど」
苦笑いしながらも嬉しそうな魏嬰は「さて目的地に向かいますか」
《そうだ、あるじオレ達どこへ向かってるの?》
随便が魏嬰肩に乗っかって聞いてきた。
「蓮花塢だ」