本気①東京都立呪術高等専門学校四年・五条悟が、担任の夜蛾正道に連れてこられたのは、一面に護符が貼られた小さな部屋だった。
部屋の真ん中には、薄茶色の髪の少年が注連縄で椅子に拘束され、気絶をしている。
「あれが特級呪物・両面宿儺の器、虎杖悠仁だ」
ふーん、と興味のなさそうに五条は返事をするが夜蛾は話を続ける。
「彼は、これからここに編入する事になる。そうしたら、悟。お前が彼を導いてやるんだ」
五条は耳の穴から指を抜き、気だるく答えた。
「導くって、要は監視だろ。俺に、拒否権無いだろ。だりぃー」
特級呪物・両面宿儺は呪いの王として呪術界に知らぬ者はいない。そんな強力な呪いと対峙できるのは、現在の呪術界では五条悟しかいないのである。五条もそれを理解していた。
「…ん」
虎杖がようやく目を覚ますと、五条は彼の前に立ち、こう告げる。
「うわっ、本当に混じってるわ。これからよろしくな、虎杖悠仁」
虎杖の頭をガシガシと掻く五条に、虎杖は状況が読めないでいた。
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数週間後
「五条先輩!!」
背中の方で名前を呼ばれて振り返ると、悠仁が手を振りながら笑顔で駆けてくる。
「任務お疲れ様!」
「おー悠仁じゃん」
「このあと稽古しね?」
「ああ」
悠仁は俺に懐いている。
両面宿儺の器の監視なんて面倒だが、上からの命令で世話をしていたら、気に入られたらしい。
家族を亡くして天涯孤独。そんな時に誰かに手を差し伸べられたら、まあ懐くだろう。
俺を見つけるといつも走ってくるところを見ると犬みたいだ。
薄茶色の髪がふわっと風に揺れると、思わず手が彼の頭に乗っていた。
「ん?どったの、先輩?」
「ああー、なんか撫でやすいよな」
「そう?俺、先輩に頭撫でられるの好き!」
満面の笑みを向けられると、不思議な気分ななる。こいつは何故そんなにも、俺に懐くのだろうか。そんな事を考えたこともあったが、気分は悪く無かった。次第に気にしなくなっていた。
「あ、そういえば、来月お前と任務あるって聞いたわ」
「そうなん?!先輩と任務とか初めてじゃん!」
両手の拳を胸前で握り、目を輝かせる悠仁は忠犬そのものだ。見えない尻尾が大きく横に振られている。
こういう悠仁を見るなは、正直嫌じゃなかったりする。
「箱根の山奥だったわ、確か」
「へぇ!やっぱ山は呪霊出やすいん?」
「昔から、山は魂が帰る場所だしな。呪いも集まりやすいんだろ」
「なるほど…その任務に備えて、稽古おなしゃす!」
悠仁に引っ張られ、稽古場へ向かった。
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稽古場
稽古を終えてると、辺りはすっかり暗くなっていた。
床に座って一息ついていると、悠仁が思い出したかのように言う。
「この間さ、先輩のこと街中で見たよ!」
「あん?いつの話だよ」
「先週の日曜。てか、その前の週も見たわ。」
「ふーん、日曜か…」
何してたか思い返すと、確かその両日とも女といたことを思い出した。
「どっちの日も違う女の人といたけど、どっちかは先輩の彼女だったりして!」
「あー、ちげー」
「じゃあ、ただの友達か〜2人ともすげぇ可愛かったからさ。先輩の彼女なのかと思ったわ」
「友達でもねーよ。ヤッただけ」
悠仁は一瞬止また。
するとすぐに、何かを思いついたかのように、左手の掌に右手の拳を乗せて、勢いよく
「それ、"セックスフレンド"っていうやつだ!」
と言い放った声が、稽古場に木霊する。
「うるせーよ!」
「五条先輩って、やっぱモテんだね。"セックスフレンド"沢山いるって、夏油先輩が言ってたけど本当だったんだ」
「傑のやつ……てか、セックス"フレンド"って言うほどじゃねーよ。誰相手でも一回しか寝ないって決めてんの。惚れられたら困るんだよね」
悠仁は、呆れた顔でこちらを見てくる。
「うわー…誰か一人にしなよ」
「誰か一人とか面倒くせえ。誰かに所要物にされんの嫌いなんだよね。相手は俺とヤりたい。俺もヤレればいい。お互いwin-winじゃね」
「そういうもんなんかな。俺は誰か一人を大切にしたいなー」
「そういうもん。別に、俺のこと軽蔑してくれて構わねーから」
すると悠仁は、キョトンとした。
「なんで?しねーよ。そういうとこも先輩なんだろ。俺、五条先輩のこと好きだから、そんなんで軽蔑とか嫌いになったりしねーよ!」
そう、屈託のない笑顔で言われると、うまく言葉が出てこなかった。