ハローハロー『もしもし、聞こえてる？。暁人です。なんだか改めて電話するのは恥ずかしい気がするけど、他に思いつかなくて。
　そっちはどう？　あれからしばらく経ったけど、みんな元気でやってる？　って死んでるんだから元気も何もないだろなんて言わないでよ。まあ、定例的な挨拶だよ。
　こっちは変わらず。エドもデイルもボクも、相変わらず調査と化け物退治と妖怪助けで忙しくしてるよ。
そういえば、KKが書いていた報告書はボクが引き継いだんだ。名前はKKの名前をそのまま借りて書いているけど、最近、書いている人が変わったんじゃないかって言われているらしい。KKのファンがいるみたいでちょっと嬉しいよ。え？　なんでって、KKの調査報告書がネットに出回ってるみたいだよ。妖怪の間でも人気だし、KKはちょっとした有名人だよ。
あぁ、そうそう、新しくチームに二人メンバーが増えたよ。一人は生まれつきエーテル適合者の男の人で、もう一人は女の人なんだけど。エドや凛子さんと同じ研究者って言ったらいいのかな。二人みたいに科学的な知識はないけど、民族学のスペシャリストで本にも載っていない妖怪とか伝承にも詳しくてさ。最近地方にも出向くことが増えたから、その人の知識と分析が大助かり。二人ともいい人だよ。今度みんなにも紹介したいよ。
　えっと、いろいろ話したいことが多くてつい喋っちゃったけど、うん。前置きが長かったね。そろそろ本題が気になってるんだろ？　分かるよ、相棒だから。
　どこから話したらいいか分からないけど、KKに伝えたいことがあるんだ。そんなに畏まらないでよ。緊張してくるから、やめろって。
えっと……うん。多分、あの夜の中で生まれて、そのまま形にならなくて、だから名前も付けらなくて、伝えられなかった気持ち、なんだと思う。え、なんで伝えようと思ったか？　　うーん、そうだなぁ……そろそろまたあの日が来るから、気持ちに整理をつけないとって思って、かな。ごめん。ボクもなんで突然こんなことをしたのか自分でも分からない。
　ただ、どんどんその気持ちが自分の中で育っていくのが怖いのかもしれない。最近はなんだかずっとそのことばかりを考えているから、どうしていいか分からなくて。もう直接KKにぶつけようかなって。
　両親以外ではKKが初めてだったんだ。ちゃんとボクに向き合って、欲しい言葉をくれたのは。自分の気持ちから目を反らしてまた逃げようとした自分を叱って、背中を押してくれた。今まで頑張ってきたことを認められないのが怖かったけど、向き合う勇気をくれた。
一緒にいた時間は一日にも満たなかったけど、今でも全部覚えている。下らない会話が楽しかった。父さんが生きてたら、こんな風に会話したのかなって、ちょっと思ったりもした。でもそうじゃないんだ。KKはもちろん父さんじゃないのは分かってるけど。ええと、ごめん、うまく言えない。
今思うと随分とKKに甘えていたと思う。あの時感じていた気持ちは未だに残っていて、でもなんだか最近は苦しい。こんな気持ちになること自体、初めてで……。支離滅裂でごめん。
悲しいとも、寂しいとも違う。もっと暖かくて、でも重たくてもう動かせない何かが、どっしりと根を張ってどうしようもないんだ。
　素直に言うと、……もっと一緒に居たかった。もっと色々な事を話したかった。声だけじゃなくて、ちゃんと顔を見たかった。もっとKKのことが知りたかったし、ボクを知ってほしかった。ありがとうって直接言いたかった。気配だけじゃなくて直接触れたかった。……手を、握ってほしかった。
　ごめん。KKのことを困らせるのは分かってる。でも、やっぱり。ボクは、多分、KKのことが、』


「何やってるんだろう、オレ」


　ありもしない妄想が弾けた。
　初めから繋がっていない電話。一人分の気配しかない静かな部屋。見上げる星よりも更に遠い、彼岸の彼方に居る彼には届く筈のない想い。
　自覚した想いはどんどん膨らんでいく。伝える相手のいない、行き場のない言葉が、心の底に溜まっていくのをどうしていいか分からなくて持て余している。落としどころは未だに見つけられない。
　零れ出そうな気持ちに無理やり蓋をして、ソファーに向かってスマホを放り投げた。