最近の流行ってやつは「最近聞かないが、もうあいつらのブームは終わったのか」
「へ?」
KKへ放った意外な一言に、思わず間抜けな声が漏れた。
「だから――」
聞き取れなかったと思ったのだろう。KKがもう一度先ほどの言葉を繰り返そうとするのを遮る。
「ごめん、その前」
「えっほえっほ」
「ふっ、ぶはっ……!」
間違いなく聞き取れていた台詞に、耐えられずに吹き出す。
どうやら自分の耳がおかしくなったわけではなかったようだ。まさかKKの口からネットミームが出てくるとは。アジトの平均年齢を下げている高校生二人が、じゃれ合いで可愛く口にするものとは全く異なる、無表情で呟かれるその言葉の衝撃はものすごい。
「あはは」
「何笑ってんだ」
「だって……、ふっ、あはは…、KKの口から、聞けると思って、なくて……ふふっ、」
流行ったのは少し前だったか。元は梟の雛が走っている写真だったのだが、その姿がまるで走っている人間の姿に見えるというところから始まったのだったと記憶している。気づけば「えっほえっほ」というセリフが付き、その内歌もできていたはずだ。自分のSNS上でも良く見ていたから、そのくらいは知っている。アジトでも絵梨佳と麻里が事あるごとに「えっほえっほ」と口にしていたから、確かにKKが聞いていてもおかしくはない。ただ、KKの口からその言葉が聞こえてくるとは。
KKは少し呆れたような顔で、笑いを堪えて震えるボクを眺めている。元のミームを知らないから、そもそも何が面白いのかもピンと来ないのだろう。
「もうそのミームは、終わったんじゃないかな」
一通り笑いの波が過ぎ、はーと大きく息を吐く。思い出したらしばらくは笑えそうで困る。
「なら、どすこいわっしょいなんたらかんたらってのも終わったのか」
「ぶふっ!」
KK、意外と知ってるじゃん…! そう口にしようと思った言葉は結局口から出ず、咽こんでしまった。
それもあの二人がよく笑いながら動画のまねをしていたヤツだ。もしかして、ボクよりもアジトに居る時間が長いKKの方が、二人のじゃれ合いを聞いているのかもしれない。同年代で同じ適合者という事もあり、二人は最近一緒に居ることも多い。
「もうそれも古いと思うよ。ねえ、それ今度絵梨佳と麻里に聞いてみてよ」ボクより詳しいと思うし。
麻里や絵梨佳に聞いたら、二人は喜んで一日中KKにミームを教えようとするだろう。二人に挟まれて辟易とするKKの姿が容易に想像できて、ふと口元が緩んだ。
KKがボクの思考を呼んだのか、「面倒事は御免だ」という顔をするので、今度こそ声を出して笑った。