Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    kakiisoishii

    花卉(かき)です。夢腐の文字練習置き場
    今の所刀のみ 三池と鬼丸中心になる予定

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    kakiisoishii

    ☆quiet follow

    典ソハ

    #典ソハ
    formerSovietUnion
    ##腐

    足の爪を切る姿は色っぽい ぱちん。 ぱちん。
     不規則なリズムで小さな音が鳴る。大きな体を丸くして、やはり大きな手で以て足先の小さな爪を整えているのだ。
     鋼であった時分には髪や爪が伸びる、という感覚は無かったが、人の身というのはこまめな調整が必要であり些か不便でもある。しかしまあ、刀身の手入れと同じようなものか。

     ぱち、ぱちん。
     狙いが外れたのか、今度は音の間隔が狭かった。新聞紙を広げた上に座り込み、燦々と差す日の中で真下を覗き込む姿はくたりと頭を垂れる向日葵のようにも見える。
     弧を描く背中には骨に沿った溝がまっすぐに一本通っており、ぴたりと身体の線が出るTシャツ越しにも存在が分かりやすい。わずかに身体が動く度に表情の変わる背中を何とはなしに眺めていると、むくむくと悪戯心が湧いてくる。

     ぱちん。とんとん。
    「……兄弟、」
    「そのまま、そのまま」
    「危ないだろ……」
     爪切りを床に打ち付け屑を払う隙をついて背中の中央に右手の人差し指を這わせれば、上がる非難の声。下から上へ、上から下へ。ゆっくり一往復した所で満足して手を離す。いや、離そうとしたがぬっと出て来た兄弟の手に捕まった。
    「終わったら構ってやるから大人しく待ってろ」
    「あー、そう言ってまたやすりかけるのサボるつもりだろ。面倒くさがるなよなぁ」
    「……うるさい」
     視線がつい、と逸らされたあたり図星であろう。良く言えば豪快、悪く言えば大雑把な所のある兄弟だ、爪切りだけでは角が取り切れていない事は想像に難くない。
    「なぁ、やすり、俺がやってやろうか?」
    「……いいのか?」
    「おー。ただ待ってるのも暇だしな」
     だから離せ、と言わんばかりに未だ捕らわれたままの右手を揺らせばすんなりと解放された。どうやら俺の提案はお気に召したらしい。

     ぱちん。  ぱちん。
     再び始まる軽い音を背に引出しから細身のやすりを取り出す。やれやれ、爪切りと一緒に持ち出していないあたりにもやる気の無さが感じられる。
     今度は正面から、投げ出された足先に目をやれば案の定斜めになっている切り口に出迎えられた。思わず口の端から苦笑いが零れてしまい、じとりと睨みつけられる。
    「なんだよ。言わんこっちゃないだろ」
    「うるさい」

     ぱちん。
     間もなく兄弟の軽快な演奏も終わりを迎える事だろう。長い脚を失礼して、あぐらをかいた自身の足の上にそっと乗せて親指から順番にやすりをかけていく。
     そういえば、少し前に五虎退が読んでいた絵本でお姫さまに硝子の靴を履かせる王子さま、というようなものがあった。……この足に合わせて作るとなると随分どっしりとした靴になりそうだが。
     つい特大サイズの硝子の靴を想像してしまい、容易に持ち主が見付かりそうな忘れ物に肩を震わせれば再び怪訝な視線が飛んでくる。
    「……まだ何か、小言でも?」
    「いーや、こっちの話」

     しゃりしゃり。
     固く弾けるスタッカートはすっかり止み、俺がやすりを動かした際の摩擦音だけが静かな空間に溶けてゆく。
     手持ち無沙汰であるのか、役目を終えた爪切りのテコの部分をくるりくるりと回転させながら俺の手元を覗いてくる兄弟。大きな手には少々扱いづらそうな気もするが器用なものだ。
    「ほい終わり」
    「ああ、助かった……おい、」
    「んー?おまじないみたいなもんだよ」
     仕上げに均等に整った爪先に口付けをひとつ。人の身を得、こうして触れ合える時間が長く続けば良い。そんな願いとともに。
     しかし、足の指先へのキスは崇拝の証だと人は言う。相手のためなら己の全てを擲っても構わない、と。

    「足だけで、いいのか?」
    「え?」
    「俺は……足りない」
    「っ、」
    いつの間にか脚は引かれており、代わりにずいと顔を近付けてきた兄弟に耳を噛まれた。キスと呼ぶには随分と荒々しいが、俺の爪先へのキスに対する返答のつもりなのだろう。
     そちらがその気なら受けて立ってやろうじゃないか。至近距離で視線を交わし、額を合わせて挑発的に笑いかければもう世界には俺たちふたりだけ。

     ああ、どちらも後から理由をつけた所で所詮は狂気の沙汰でしか無いのだから。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😍💞🙏👏💘💒💝👏💞💖😍💯💕💗☺💞💖💘😍❤💕💒💗💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works