【藍思追の心配】魏無羨が弟子数人に集まれと言ったくせに、本人が遅刻する時がある。
そんな時、静室にいる魏無羨を呼ぶのはいつも藍思追の役目となっていた。『魏先輩、迎えにきました』と声を出そうとしたその時だ。
「ああ、悪かった藍湛!もうしない、しないったら許せ!」
「いつも口ばかり。全く反省がない」
今日もやっている、と藍思追は片手で顔を覆った。
「ほらほらそんなに怒るな、藍思追がそこまで来てるんだ。今日の所はひとまず許してくれ、頼むよ」
気配だけで自分の居場所を察知したのかと藍思追は驚く。
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弟子達が待つ場所へと魏無羨を連れていく際、今度は何を含光君にしでかしたのかを聞いてみた。
すると、魏無羨はいつものようにヘラリと笑って「大人の秘密だ」と言ってごまかすのだ。藍思追はそこまで大人の事情に詳しくはなかった。
実際は卑猥な事を藍忘機にしでかし、それで怒られている事が多い。
実情を知らない藍思追は魏無羨の事が心配だった。
魏無羨のためを思い、助言する。
「私のような若輩者が魏無羨先輩に意見するなんて差し出がましいとは思うのですが」
「なんだ改まって」
「相手の怒りを抑えるには、謝るだけでなく…共感をすると良いと思うのです」
「それは使える技だな。女の子を怒らせたら共感してみるよ」
ですから…と藍思追が口を開こうとする前に、魏無羨が遮る。藍思追の意図はわかっていたのだ。
「含光君には使わないけどな」
「なぜです?」
女性にではなく含光君を怒らせた時にその技を使え、と藍思追は言いたいのだ。
「なぜだって?当たり前だろう。アイツの怒った顔を見たことあるか?すごく美人なんだ」
藍思追は絶句した。
「‥‥‥‥‥‥まさか、わざと含光君を怒らせているんですか?」
「そうだとも。含光君を怒らせるのは骨が折れるんだ。あいつは無表情な上、何をしても俺を許すから」
魏無羨がよく怒られているのは、自業自得というか、わざとだった。
もし自分が含光君に叱られでもしたら魂がきっと抜け落ちてしまう。
魏無羨は含光君と一緒にいる時間が長い分、怒られる事もきっと多く可哀そうだと藍思追は心配していた。
「杞憂でしたね…」
「心配してくれてたのか?優しい奴だ」
ぐりぐりと力強く撫でられ、髪が乱れる。
どうしてか、藍思追は大きく口を開けて笑いたくなった。
fin.