バス停 そのバス停は、緩やかに蛇行を繰り返す山道の途中にぽつんと存在していた。簡素な木枠の四方に波形のトタン板を張り付けただけの頼りない小屋が立っていたが、バス停の標識が無ければそれが停留所だとは気付かないほど荒廃している。バス停の錆びて穴の開いた標柱も欠けたコンクリートの土台も頼りなげだが、一番頼りないのはそこに書かれた時刻表だろう。十時台と十四時台、たった二本の便しか記されていないその時刻表を信じられないといったていでふたりの男がまじまじと見つめていた。
「二時間以上あるな……」
「……そう、ですね」
困惑したふたりの頬で木漏れ日がゆらゆらと揺れている。おかしい。宿で見た時刻表には六本の便が記載されていた。始発の八時台に十分間に合うよう宿を出てきたというのにこれは一体どういうことだろう。時刻表には消されたような跡もなく、裏側を覗いてみても何も案内はない。小屋の中も確認してみたが貼り紙ひとつとて存在しなかった。
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