星空デート(プラネタリウム) 出島では星が見えない。それは夜も煌々と明かりを灯すイルミネーションのせいだったりするのだが、俺はそれが別に嫌いではなかった。東京も似たようなものだったし、防犯のためには明かりは多い方がいい。それでもふと裏路地に入る時、空に見える星が俺は好きだった。かつて紛争国で見た星々のようで、とても美しくて。
ギノとは学生時代に何度か旅行に行ったことがある。彼は唯一コンタクトを取れる肉親である祖母とは別居していたから、ギノを縛る者は誰もいなくて、俺は気まぐれに恋人を誘っては放棄された土地にキャンプを張ってひと夜を過ごすことが多かった。もちろん移動はバイク、と行きたかったのだが、彼の愛犬がいることでそれは却下になった。ダイムは珍しい自然の匂いに興奮して喜んでいて、いつもいろんなところを走り回っていたように思う。俺たちはそんな中で肉を焼き、秘密だとビールを空け、酔っ払って何度もキスをした。セックスもした。でも、最後に見るのは、いつだって星空だった。まんてんの星空。びっしりと宝石で埋め尽くされたような星空。俺たちはそんなところでいつも好きだとか愛しているとか、そんな切実な言葉を交わしたのだった。
今日の仕事はプラネタリウムの警備だった。警備というか、爆破予告があったのを行動課が引き受けたのだが、何もなしに終わってしまった。俺は無線機をつけながら天井を眺めて、こんな空を見たことがあるなと思った。空から降ってくるような星の数。空は全部を見ていて、それは畏敬の念にも繋がった。
「やられたな。何もなくて良かったってことでもあるが」
ぼんやりと天井を見ている俺の横にギノが座る。もうダイムはいないが、それはかつての星空の下でのデートのようだった。これは人工の星空だけれど。
「お前とこんなふうに星が見られるんならそれでもいいさ。たまには息抜きも必要だ」
そう言うと、ギノは笑って俺を見た。そして指だけ絡めて、「昔もこうだったな」と笑う。いたずらっぽく、俺をからかうように。だから俺もからかうようにこう言ったのだった。
「あの頃よりずっと気持ちは深くなってるけどな」そんな映画みたいな台詞を吐いて、キスはしないで指を強く絡めて。星空は今も俺たちの上にある。星はまた降り続ける。どれだけ俺たちが変わっても、星はそこにあり続ける。