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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

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    狡噛さんが熱を出して仕事を休む話。
    令和なので感染するようなことは(ほとんど)しません。
    鬼の霍乱です。
    800文字チャレンジ7日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    熱(高熱) 狡噛が高熱を出した。
     それは普段から不摂生をしている彼にとっては当然のことのようにも思えたし、彼のあまりにも強い生命力を知っている身からすると、鬼の霍乱ではないかとも思った。今彼は俺とは離れて自室のベッドで養生している。すぐにでも訪ねたい気分だったが、二人も倒れられては困るから、見舞いには行くなとの花城に命令された。だったら俺はじっとしているしかない。彼の分のデスクワークが回って来たから、そんなに日まではなかったのだけれども。
     狡噛の熱は三日ほど続いた。その間も連絡は取らなかった。デバイスを使えば接触せずとも語り合えるというのに、彼の体力が削られることを恐れて見舞いの言葉は送らなかった。なんて不誠実な恋人なのだろうか。そうは思ったものの、見舞いの言葉なんて限られている。いくらか身体を気遣って、最後はお大事に、だ。花城が面会を止めるくらいの高熱なのだから苦しいに決まっている。そんな中で定型文を読ませたくない。
     狡噛が出勤したのは四日後のことだった。それは俺すら知らないことだったので、正直隣の席に座った彼には驚いた。聞けば煙草の味が分かるようになったから戻ってきたのだそうだ。ということは彼にはまだ熱がある。高熱とは言わなくても苦しいんじゃないか。そう思って額を触ると、とても熱かった。これじゃあまた官舎送りだ。
    「せっかくお前に会えると思ったのに」
    「風邪が移ったら困るだろう」
    「大丈夫、少し関節が痛くて歩けなくなるくらいだ。死にはしないさ」
     狡噛が物騒なことを言うと、全てを聞きつけた花城がまた自室待機を命じた。そして彼と接触した俺にも、念のため自室待機を命じた。散々である。だが、狡噛から送られたメッセージに俺はそれを飲み込んでしまった。部屋で会おう。そんなそっけないメッセージに。

     狡噛の部屋は散らかっていたが、洗濯はなされているようで汗臭くはなかった。むしろ石鹸の匂いが強いくらいだ。俺は狡噛のために食事を用意しながら、テレビのニュースを見た。悪い風邪が流行っているらしい。彼もこれにかかったのだろう。

    「お前がメッセージすら寄越さないから捨てられたと思ったよ」
     狡噛に卵粥を持ってゆくと、ベッドに寝転んで本を読む彼はそんなことを言った。俺は負担になると思ったんだと言い訳をして、けれどこう見えて寂しがり屋な彼にひどいことをしたのかもなと思った。いつもより少し高い熱。いつもより鈍い動き。俺はそれが愛おしくて、卵粥をサイドテーブルに置き、彼の手のひらをにぎる。それは本を読んでいたせいか少しひんやりとしていて、けれど動きはのろのろとしてやはり彼は風邪なのだと思った。
    「お前が治ったら、俺も風邪を引くんだろうか?」
    「そうしたらキスで治してやるよ」
     狡噛が笑って俺の額に額をぶつける。俺はそれに、どうせ風邪になるのなら、今キスをしてくれればいいのに、と思った。今すぐ目を閉じて、深く深く。俺は手のひらに指を絡める。狡噛はもう何も言わない。俺たちはキスをしない。ただそれよりももっと深く、お互いの感情に触れる。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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