長い旅(終わりに) 長い旅の末にお前がいた。日本に帰って来たらお前がいた。その時運命だと思った。こんなに巡り巡ってお前に会うなんて、それこそ運命だと思った。同じ仕事につき、同じものを追いかけて、また以前のように寝るようになったら、それこそ運命じゃないか。なぁギノ。お前はそうじゃないのか。お前は違うのか。お前は俺とは違った旅をしたのか。
長い旅と言っても、俺の旅は血生臭いものだ。手足がちぎれた子供、息の代わりに血を吐き出す男、自爆テロの身代わりにされる女。そんな中を歩いて来た。でも俺はギノの旅を知らない。彼は自分の旅について語らなかった。どうやって父親との確執にケリをつけたのかなんて、俺の一番知りたいことを話してくれなかった。彼は俺とは違って旅を大切な秘密にしていた。俺のように軽い口をしていなかった。どれだけ酔っても喋らず、セックスの最中にねだっても許してくれなかった。けれど今日はどういうわけか、彼は自分の旅について語り始めていた。そして俺は知った。今日は彼の父親の命日なのだと。
「父さんが息をしなくなった時、俺はなんだか置いていかれた気がして、怒りが込み上げてきてな。子どもだったんだろう。あの麦畑に増援がやって来るまでずっと泣いていたよ。お前が人生にケリをつけている時に、俺はただ泣いていたんだ」
ギノはグラスにウィスキーを注ぎながら言った。辛そうだが、後悔はしていないという目だった。
「後でカウンセラーに怒りも大事だって言われたよ。怒らなきゃ許せないって。ずっと怒ってたつもりだったのに、俺は泣いてたんだな、ずっと」
俺は何も言わない。彼が飲んでいるのと同じものを飲み続ける。ギノの部屋で、あの人が残した酒を飲む。
「だからお前のことはもう許してるよ、狡噛。SEAUnで殴らせてもらったからな。やっぱりあれは必要なことだったんだろう。お前は痛かったかもしれないが」
ギノは笑って俺の頬をさする。俺たちはキスをする。怒りが人を許すなら、ギノは許されたのだろうか。でも誰に? 俺はそんなことを考えて、ソファにのめり込んだ。もう言葉は必要なかった。