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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    日本に帰って来た狡噛さんと、父親と和解した宜野座さん。
    800文字チャレンジ43日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    長い旅(終わりに) 長い旅の末にお前がいた。日本に帰って来たらお前がいた。その時運命だと思った。こんなに巡り巡ってお前に会うなんて、それこそ運命だと思った。同じ仕事につき、同じものを追いかけて、また以前のように寝るようになったら、それこそ運命じゃないか。なぁギノ。お前はそうじゃないのか。お前は違うのか。お前は俺とは違った旅をしたのか。
     
     長い旅と言っても、俺の旅は血生臭いものだ。手足がちぎれた子供、息の代わりに血を吐き出す男、自爆テロの身代わりにされる女。そんな中を歩いて来た。でも俺はギノの旅を知らない。彼は自分の旅について語らなかった。どうやって父親との確執にケリをつけたのかなんて、俺の一番知りたいことを話してくれなかった。彼は俺とは違って旅を大切な秘密にしていた。俺のように軽い口をしていなかった。どれだけ酔っても喋らず、セックスの最中にねだっても許してくれなかった。けれど今日はどういうわけか、彼は自分の旅について語り始めていた。そして俺は知った。今日は彼の父親の命日なのだと。
     
    「父さんが息をしなくなった時、俺はなんだか置いていかれた気がして、怒りが込み上げてきてな。子どもだったんだろう。あの麦畑に増援がやって来るまでずっと泣いていたよ。お前が人生にケリをつけている時に、俺はただ泣いていたんだ」
     ギノはグラスにウィスキーを注ぎながら言った。辛そうだが、後悔はしていないという目だった。
    「後でカウンセラーに怒りも大事だって言われたよ。怒らなきゃ許せないって。ずっと怒ってたつもりだったのに、俺は泣いてたんだな、ずっと」
     俺は何も言わない。彼が飲んでいるのと同じものを飲み続ける。ギノの部屋で、あの人が残した酒を飲む。
    「だからお前のことはもう許してるよ、狡噛。SEAUnで殴らせてもらったからな。やっぱりあれは必要なことだったんだろう。お前は痛かったかもしれないが」
     ギノは笑って俺の頬をさする。俺たちはキスをする。怒りが人を許すなら、ギノは許されたのだろうか。でも誰に? 俺はそんなことを考えて、ソファにのめり込んだ。もう言葉は必要なかった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    TRAINING征陸さんとお母さんのオルゴールと狡噛さんと宜野座さんのオルゴール。
    学生時代から外務省時代まで続いた二人のお話です。
    800文字チャレンジ15日目。
    オルゴール(あなたを思うということ) 父が母に贈ったプレゼントの中に、木箱を薔薇模様を彫ったオルゴールがある。母はもう意識を失ってしまったが、まだ薬を打ちつつ俺の世話をしてくれていた頃に、夜中そのオルゴールを鳴らしていたことがあった。エリーゼのために。ベートベンが愛した女のために書いた曲。父は音楽知識も豊富だったから、それを贈ることに何か意味があったのかもしれない。母と示し合わせた何かがあったのかもしれない。けれど俺はそれが分からないで、悲しい曲を夜中、空を見ながら聴く母を、家に帰って来ない父を、そしてそんな両親と暮らしていかねばならない自分を不安に思ったのだった。
     だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。
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