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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    二人きりに通じる言葉。
    800文字チャレンジ78日目。

    #PSYCHO-PASS
    ##800文字チャレンジ

    サイン(二人きりの言葉) 二人きりのサインがある。二人きりしか分からないサインがある。俺たちはそれを使ってやりとりをする。暗号のようなものだ。といっても、その内容は簡単なもので、今日の夜は外で食べようとか、今日部屋を訪ねていいかとか、そんな他愛のないものだった。でも俺はそのやりとりが好きだった。狡噛と俺だけに分かる言葉のようで、二人だけの言語のようで。今日もサインをもらって俺の部屋に狡噛が訪ねてくることになっていた。とびっきりの酒を持って、そのあとは俺の部屋に泊まることに。けれど、それに少し陰りが入ったのは、仕事を終えそうになった夕方のころのことだった。
     
    「ねぇ、狡噛。仕事が終わりそうで悪いんだけどちょっと一緒に来てくれないかしら。この状況を説明するのにはやっぱり海外を放浪してたあなたがいる方が相手方を説得しやすいと思うのよ」
     そう、花城が狡噛を引き止めたのだった。しかも内容からして時間がかかりそうな話だ。でも、狡噛はそれに「あぁ」と答えながらも、指でとんとんと机を叩いて、俺にサインを送った。それは遅れてでも行くということを意味していた。俺はそれに嬉しくなり、彼の代わりに酒やつまみを用意しようかと腰をあげる。もう仕事も終わりだ。こんな日があってもいい。
    「じゃあ俺はこれで失礼させてもらう」
    「分かったわ、宜野座。須郷もありがとう。また明日お礼をさせてね」
     そのお礼が何かは意味が分からなかったが、多分俺たちが示し合わせているのは課長にはバレていて、そのせいであんな言葉が出たのだろう。俺は自分たちの関係を隠していないから、まぁ、こういうのも仕方がない。ただ彼女はからかいはしないので感謝はしている。
    「それじゃあギノ、行ってくる」
     まるで朝仕事に送り出す時みたいだと思いながら、俺は狡噛に背を向けた。
     
     狡噛が帰ってきたのは、いや、この表現は正しくないな、狡噛が俺の部屋にやって来たのは、日が変わろうとする頃だった。彼によれば外務省の上官に気に入られて飲まされていたのだという。彼はテーブルの上のウィスキーを見てすまないと言い、俺はそれに笑って「いいさ」と言った。別に飲むだけが酒じゃない。酒を摂取する方法は他にもある。
    「狡噛……」
     俺は狡噛の肩に手をかけて、そして唇を重ねた。すっとするが深い酒の味がして、なるほど、これは高い酒だと俺はしみじみと思った。
    「いい酒じゃないか。俺が用意したのには負けるがな」
    「分かってるよ、許してくれ、ギノ……」
     二人してキスをして、バスルームにもつれ込む。今夜はシャワーだけで充分だろう。明日の朝にたっぷり時間をかけて風呂に入ればいい。俺はそうサインを送って、狡噛の唇に噛み付いたのだった。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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