儚い季節(それはあなた) 狡噛はある種の事件が終わると、センチメンタルになることがある。そう、少女が絡んだ事件だ。ハッピーエンドに終われば彼はご機嫌で俺に酒を奢り、そうでなければ俺が彼を抱きしめ慰める。狡噛は優しい男だった。きっと紛争地でも多くの少女を看取ったのだろう。今回の事件は後味の良くない、少女たちが搾取され死ぬ物語だった。彼が耐えられるかどうかは分からないが、なるべく側にいようと俺は思う。
「狡噛、水は?」
彼は首を振る。
「栄養バーでも食べたらどうだ?」
やはり彼は首を振る。俺は見ていられなくて、狡噛が寝転ぶソファに座って、癖のある髪を撫でてやった。嫌だとは言われなかった。彼は彼で弱っているのかもしれない。
「お前は嫌がるかもしれないけど、最後に優しくしてもらって女の子たちは喜んでいると思う」
すると、やはり狡噛は何が分かるんだみたいな、嫌そうな顔をした。でもそうなんだよ、狡噛。優しくされたら嬉しいんだ。どんな打算があっても、優しくされたら嬉しいんだよ。俺が狡噛に手を差し伸べられた時の気持ちを、お前は知っているだろうか? 世界が変わったんだ、本当に芯から世界は変わってしまったんだよ。あそこで俺たちの関係が終わってしまったとしても、俺の世界はあの時変わったんだ。
「お前は優しいから、そんなふうに思うんだろうな。打算で愛されても、それはそれで嬉しいものなのに」
俺は狡噛にキスをする。彼はまだぼうっとしていて、俺は彼が傷付かなければいいのに、と思った。狡噛は優しい。事件で出会った少女たちに肩入れをして、傷付かなくていいところにまで傷を負うのだ。お前も充分悲しんだだろうに、そんなんじゃあ捜査官として持たないだろうに。けれど、俺は狡噛のそんなところを気に入っていた。儚くて、感情を上手くやりくりできないところを。どこまでも。
「今日はお前の言うことはなんでも聞いてやるよ」
俺はそう言って狡噛にまたキスをする。狡噛は辛そうに、俺に助けを求める。こんな日があってもいい、お前がこんな日があってもいいじゃないか。俺はそう思うのだ。