触れた指先(それはあなた) ギノの身体はどこもかしこも美しい。頭のてっぺんからつま先まで、どこまでも美しい。それは誰もが知るところだろうが、それに触れられるのは俺だけだということは、この強い独占欲を満足させた。彼のうなじ、唇、人が望むところ全てに俺は触れることが出来る。ギノは俺の欲望を満たしてくれる。決して拒否なんてしない。俺はそれに満足していて、そしてこれからもそうであってくれと願っている。
「狡噛、その……」
コーヒーを片手にサーバー近くでのんびりしていると、ギノが言いづらそうに俺に切り出した。一体何なんだろう。俺は何かしでかしたか? そんなことを思いながら自分の手を見ると、彼の髪をくすぐっていることに気づく。もしかしてこれだろうか? いつもの癖でやってしまったが、さすがに職場ではまずかっただろうか。
「こういうのは、部屋で……」
やっぱり、そう思って俺はうなだれる。またバカをやってしまったって、そんなふうに思う。心配しないでも触れられるのは俺だけなのだから、こんな場所で確認しなくてもいいっていうのに、俺はどうしても彼に触れたくなってしまうのだった。
「あぁ、すまない」
俺はギノから距離を取って、またコーヒーに口をつける。甘ったるいそれは頭を覚醒させるが、虫歯になりそうだった。早く煙草を吸いたい。さすがにここは換気扇がないから吸わないが。
「いや、気にしすぎなのは俺なんだ。狡噛に触られてると意識してしまって……」
顔を赤くしたギノがうつむく。今、何て言った? 俺を意識してしまうって? 触れられただけで? 俺はガッツポーズを取りそうになる。子どものように。美しい恋人が俺を意識してしまうだなんて、そんなの嬉しい以外ないじゃないか。
「俺はずっと意識してるよ、ギノ」
耳元でささやく。部屋にいる時も、仕事をしている時も、ずっと。そう言うと、彼は調子に乗るなと俺の手の甲をひねった。さすがに怒ったのだろうか?
「そういうのは部屋でしてくれ」
ギノはそう言って一度だけ微笑んで去ってゆく。俺はその破壊力に頭を抱えながら、早く触れたいと、そればかり思っていた。