ホームワークが終わらない(誰もいない教室) 狡噛の宿題が終わらないことは、本当に滅多にないことだった。いつもはホームルーム中にさっさと終わらせてしまうのに、今日は何故かそれをしなかったらしい。クラスの役員か何かを引き受けさせられたのだろうか? 俺はそんなことを聞いていないから想像なんだけれど、何かあるような気がした。だから俺は狡噛のクラスで一緒に居残りをして、同じように違う宿題をした。するとどうしてかクラスメイトになった気分になって、他に誰もいない、もう皆帰ってしまった教室でタブレットを操作した。
「すまないな、忘れる前にやっときたくってさ。ギノは遊んでくれてていいんだぜ」
狡噛はそう言った。でもそう言われて遊ぶほど俺は怠惰じゃない。友人が勉強しているんなら俺も勉強するさ。
「別に、俺も課題が出てたから。厄介な先生なんだ。宿題で点数をつけるから……」
とんとん、と俺はタブレットの画面を叩く。正直行き詰まっていたのだが、そうとは言えない。俺にとって狡噛は友人だがライバルで、それからまぁ恋人なのだけれども、そう簡単に白旗を上げては男が廃るというものだ。
「終わるのが早い方がシェイクを奢るってのはどうだ? 俺はバニラ。ギノはストロベリー?」
狡噛がニヤリと笑う。これはもう終わりが見えてるなって顔だ。もしかしたら、狡噛はこれがやりたかったのかもしれない。無邪気な賭け、たった数百円の賭け。いつも最後には交換して飲むから、ほとんど意味がない賭けなのだけれども、それでも俺はそういうことをしたがる狡噛が結構好きだった。
「いいぜ。じゃあ俺は……」
視線をタブレットに落としていると、狡噛の視線を感じた。彼はじっとこちらを見ていた。
「なぁ、ギノ。それとももっと違う賭けにするか?」
指先が唇に触れる。賭けって、どんな賭け? 俺は何も言えない。狡噛が言わんとすることが分かった気がして何も言えない。
「新しい賭けは……」
――新しい賭けは、一体何?