Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    時緒🍴自家通販実施中

    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
    無断転載禁止。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😻
    POIPOI 192

    7/9ワンライ
    お題【七夕・ファッション】
    雨の日の七夕と、そんな七夕についての朝鮮の伝承について喋る狡噛さんのお話。再会した日のことも考えたり、征陸さんのことを考えたりする宜野座さんがいます。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    星祭りの日の涙 今日は七夕だというのに、明朝から雨が降っていた。今年は珍しく梅雨が早く開けた分戻り梅雨があり、織姫と彦星は不幸にもそれに見舞われてしまったのだ。
     正直なところ、別にもう歳だから昔話の二人が会えなくたって残念にも思わない。それに一年間会えないからといって、心が変わらないことを俺は知っているからというのもある。狡噛と離れていたのは何年間だっただろうか? 彼が執行官になってからも心は離れていたから、海外を放浪していた最中に感じた孤独を長いこと俺は痛みも感じずに抱えていた気がする。けれど当時感じなかっただけで痛みはあり、再会した今でも、長い間会っていなかった気がするのだった。
    「どうしたんだ、浮かない顔をして」
     気圧のせいで頭痛でも抱えてるのか? そう狡噛はキッチンテーブルに置いてある、コーヒーをすすりながら言った。
     俺たちは今日はオフで、彼は俺が手ずから焙煎した豆を使ってコーヒーを淹れ、休日をのんびりと楽しんでいたのだ。俺はソファに座ってぼんやりと窓の外を見ていた。そんな午後だった。まだまどろみの中にあるような、そんな日だった。
     俺が見つめている窓には雨粒どころか、長い長い線が伸びている。それは幾度も交わり、別れ、サッシの向こう側に消えてゆく。窓に叩きつけられた水は跳ね、ベランダの緑色の紫陽花に飛び散った。あれも中に入れた方がいいだろうか? 根腐れしないだろうか? それとももう少し様子見した方がいいだろうか? そんなことを考えて、俺はぼんやりと口を開いた。
    「いや、織姫と彦星が会えないな、なんてことを考えてな。柄にもないだろ。子どもみたいだ」
     狡噛が目を丸くする。俺はふと言ってしまった台詞が幼かった気がして、眠気覚ましに狡噛から差し出されたコーヒーに口をつけた。それは文句のつけようのない出来だった。狡噛は何でも覚えがいいから、俺が得意なことを上を行って全てさらっていってしまう。学生時代や監視官時代はそれを不幸なことだと思っていたが、今は便利でいいじゃないかと思うようになった。彼が出来ることが増えたら、俺が楽になるという横着をしているのだ。図太くなったものだ。
    「日本じゃそう言うが、朝鮮じゃあ違うんだぜ、ギノ」
     狡噛はそう言ってコーヒーをすすった。また出島のマーケットで移民と関わり、余計な知識を仕入れて来たのかもしれない。出島には東南アジア系の人間が多いが、もちろん朝鮮や中国、台湾の人間も多い。彼らは普段から好む赤い糸の飾りだけでなく、七色の糸を使って七夕を喜び祝う。そこまでは知っている。日本のように捧げ物をして手仕事が上手くなるように織姫に祈ることも、星座を描いて勉学が上達するように彦星に祈ることも、近しい国々だから風習が重なっていることも。
    「朝鮮だと、それどころか七夕には絶対雨が降るって信じられてるんだ。織姫が一年ぶりに彦星に会えて、嬉し涙を流すからって。雨が二日間続いたら、別れがたくて泣いてるんだってさ。いじらしいだろう?」
    「へぇ……いじらしい、ね」
     ずいぶん泣き虫な女なんだな、朝鮮人の女はステレオタイプだと気が強くて、そして涙もろいというから、そこから来た伝承かもしれない。今の彼女らがどんな人間なのかは、悲しいかな俺は知らないが。
    「ギノも俺と再会した時泣いたじゃないか。もう忘れたか?」
     絶対言われる、と思った台詞が彼の口から出て、俺は思わず左手で殴りそうになった。狡噛は悪い男ではないが、時折デリカシーがない時がある。やわらかくて触れたらすぐ傷ついてしまうようなデリケートな部分を、彼は遠慮なく触れて今のようにささやくのだ。ギノも寂しかったんだろうと。
    「忘れたね。だってお前がいない間もずっと仕事で忙しかったんだ。お前のことを考えてる暇もなかったよ、狡噛」
    「じゃああの時の涙は?」
    「しつこいぞ狡噛!」
     俺はソファに置いてあったクッションを、意地の悪い恋人に投げつける。狡噛はそれを華麗にかわすと、次のように言った。
    「だって嬉しかったんだよ、ギノ。お前は髪型もファッションも変わって、俺が知ってるお前じゃない気がした。お前が俺のいない間に変わってしまった気がした。でもお前が昔みたいに泣くから、あぁ、日本に帰って来たんだ、お前は芯は変わってなかったんだって思ったんだ」
     湯気の立つコーヒーをテーブルの上に置いて狡噛が言う。俺はその言葉に何も言えなくなって、そういえば俺はずいぶん外見が変わってしまったのだと思い返した。思えばがむしゃらな日々だった。父のようにならねばと思った。でも彼が帰って来て、これまでの自分を許せた気がした。今も父を喪ったのは、自分のせいだと思っているけれど、狡噛がそれを包んでくれている気がしていた。
    「……俺もお前が帰ってきて嫌じゃなかったよ、狡噛。お前が帰って来てくれて嬉しかった。こんなの、初めて言うけど」
     恥ずかしい。こんな台詞を口にするなんて、頭がおかしくなりそうだ。でも、言わなきゃいけない気がした。彼に伝えなきゃいけない気がした。
     一年ぶりに一日だけ愛しい人と会う織姫と彦星は、どんなふうにお互いを思って残りの日々を過ごしているのだろう。心変わりは心配しないのだろうか? それとも、俺が想像する以上に、彼らの愛は誰にも邪魔出来ない、固いものなのだろうか? 俺はそんなことを想像して、自分は織姫たちより恵まれていると思った。彼らより長い間恋人と離れていたが、今はもう離れることはないから。
    「そんなこと言われるなんて思わなかったな」
     狡噛がまたコーヒーをすすって、ばつが悪そうに頭をかく。そんなこと言われるなんて思わなかった? 俺はずっと思ってたさ、言わなかっただけで。自分が重い男と思われたくなかったから、ただ言わなかっただけで。俺はお前が想像するよりもずっと、お前を愛しているのだから。
    「それじゃあせっかくだし、朝鮮人街にでも行こうか。美味しいミルクッスっていううどんを出す店を知ってるんだ。せんべいも美味いぜ。臭くない鯉の刺身に焼き魚、きゅうりのキムチなんかもある。甘い飲み物ももちろんあるから安心しろ」
     狡噛が早口で言う。それからも、彼が照れていることが分かる。少し赤くなった耳たぶからも。俺はそれについて可愛らしい男だと思って、じっくりと考えるふりをして彼を焦らしてから、うんと頷いた。
     雨はまだ降っている。俺は明日も雨であることを祈って、別れを惜しむ織姫が流す涙を拭う彦星を思って、重い腰を上げ、彼が探し出した美味い店とやらに行くことにしたのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏☺☺☺☺😍💕💕💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
    1852

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
    3531

    related works

    recommended works

    時緒🍴自家通販実施中

    TRAINING美佳ちゃんが煙草の香りに思うこと。
    宜野座さんと狡噛さんはちょろっと出演で気持ち常霜です。
    800文字チャレンジ18日目。
    見かえしてやるんだわ(煙草の香り) 私が公安局に勤め出した時、歳は二十にもならなかった。桜霜学園の教育方針に半ばか逆らうようにして公安局入りした私を守ってくれる人などは誰もいなかった。伝説の事件を解決した先輩とはソリが合わず、かといって移動するわけにもいかず、私は自分が埋もれてゆく気がした。でもそれよりも私を揺さぶったのは、一人の男の存在だった。
     彼の名前は宜野座伸元という。以前は私と同じ監視官をして、先輩が解決した事件で執行官堕ちした人間。ずいぶん優秀だったのよ、とは二係の青柳監視官の言だが、彼女は宜野座さんと同期というから信用はならない。ただ、多くの猟犬を一人でコントロールして、一人も死なせなかったというのは、私の興味を引いた。私はその頃の宜野座伸元の日誌を読むことにした。別に先輩に言う話でもないし、宜野座さんに許可を取るものでもないから、無断で読んだ。そこにはいつもより厳しい、私の前でいつも笑っている彼とは違う、苛烈な男の人生が描かれていた。
    977