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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    7/23ワンライ
    お題【ボードゲーム・海】
    出島のマーケットでバックギャモンを買ってきた狡噛さんが宜野座さんに映画の話をしたり、ビールを飲んだり、一緒に水風呂に入ったりするお話です。先日アップしたナイトプールのお話と少し続いています。

    #PSYCHO-PASS
    ##狡宜版深夜の創作60分勝負

    海に沈む彗星 狡噛は出島のマーケットでなんでも買ってくる。それは彼の趣味である古書から始まり、珍しい皿であったり(大概が貧しさ所以に金持ちが手放した品だった)、持ち主が死んでしまった小さな祈りの像であったりしたが、今回は古びたボードゲームだった。見慣れないそれに俺が一体何だと興味を惹かれていると、狡噛は「バックギャモンだよ」とどこかニヒリスティックに休日の昼間から笑った。
     赤と黒の駒がある、サイコロとダブリングキューブ、ダイスキャップがついた四角いボード。それが世界最古にして、今も最も難しいと言われるゲームらしい。彼は将棋や囲碁、チェスなどにも親しんでいたから、嬉々として披露されても大した驚きはなかった。ただ、それに自分がつき合わされるのだとしたら、どうか御免願いたかったが。
     けれど狡噛はそれを広げただけでゲームを始めようとはせず、じっと盤面を見つめた。どうやら、誰かとゲームをするのが目的ではないらしい。祈りの像を買った時のような仕草に、俺は少しばかり安心して、どうしてこれを買ったのかと問い詰めたくなった。問い詰めなくても、彼は語り始めたのだが。
    「……昔見た映画に出て来てな。共産党時代のブルガリアからドイツへと移住した家族が交通事故に遭い、両親は死亡、一人息子が記憶喪失で生き残るんだ。それを心配したおせっかいな祖父がやって来て、タンデム自転車でヨーロッパ縦断の旅に出る。その道中でバックギャモンを習うんだ。日本じゃそう流通しているゲームじゃないから、見つけた時には驚いたよ」
     狡噛のその台詞に、俺はまた映画か、と思った。彼は本を好んで読む男だったが、映画も同じくらいよく見ていた。カラーから白黒、無声映画まで、選り好みをせず見る男だった。ジャンルも様々で、恋愛映画からカーチェイス、アクションものから文芸映画まで幅広かったのを覚えている。
    「日本は安定してるが、やっぱり自分が属する国が体制を転換すると、ルーツに対する思いが揺らぐだろう? どこの国でもそうさ。とっつぁんがそうだったように。今も開国政策をとっているから、みんな揺らいでるように見えるし」
     突然出てきた父親の愛称に、俺はどきりとした。日本がシビュラシステムに大きく方向転換した時に青春時代を過ごした父は、そんなことを思っていたのだろうか? だったら母は? 彼女を産み育てた祖母は? 俺は物心ついた時からシビュラシステムに生かされて来た。それを恨んだ時もあったが、盲信していた時期もあったのは事実だ。俺は父とそんな話をしなかった。今思えば、もう少し話せばよかった。あんなに近くにいたのだから、あんなに近くにいて、俺の幸福を願ってくれていた人だったのだから。
    「親父も、迷ったんだろうか……」
     俺は少しセンチメンタルになってぽつりと言った。すると狡噛は笑って、「じゃあゲームでもするか?」と言った。けれどどうせ勝てやしないと遠慮すると、「これはサイコロの目に左右されるゲームだから、最後の最後まで逆転があり得るんだぜ」と付け加える。そう言われてはやらないわけにはいかないだろう。
     まぁそういうわけで、人生のようなそれに、俺たちはのめり込むことになったわけなのだが。
     
     
     ゲームは珍しく引き分けに終わった。最初は狡噛が勝ち、次は俺が勝った。彼の言った通りサイコロの目が重要なポイントとなるゲームだったから、負けっぱなしの俺でも勝てたのだろう。狡噛は冷蔵庫からハイネケンのロングネックを取り出すと、蓋をキッチンの端で開け、俺に緑色の瓶を差し出した。
    「バックギャモンに乾杯」
    「まさか、引き分けになったゲームに?」
     俺がそう言うと、狡噛は「人生みたいに分からないゲームだったろう?」と楽しそうに笑った。確かにそうだったが、こんなに機嫌のいい彼は久しぶりだった。ボードゲームを手に入れた時、何か気分が浮かぶことがあったのだろうか? それとも青春時代に見た映画の画面が蘇って嬉しかった? その映画を、彼は誰と見たのだろう。それは俺じゃあないことは確かだ。だって彼と薄暗い部屋で見た映画は、全て覚えているから。手が触れそうになるくらい心臓がどきどきして、呼吸が苦しくなって、そんな中で見た映画はどれも印象的だったから。
    「こんな日は海に行きたくなるな……」
     エアコンの効いた部屋で狡噛は言った。今はうだるような夏で、夕暮れ時で、海に映る太陽はさぞ美しいだろうと思えた。けれど高濃度汚染水に満たされた海は、側を通るだけで危ないと一般的にはされている。まさかおっこちたりはしないだろうが、それでもあえて危険を犯すことはないだろう。
    「そこはプールで我慢しておけよ」
     俺は笑って瓶ビールに口をつける。ホップの味が効いていて美味い。個人的には缶よりも瓶の方が香り高いような気がする。
    「花城に頼んでまたナイトプールに行くか?」
     狡噛がいたずらっぽく笑う。俺が醜態を晒した先日の事件を、どうやら彼は気に入っているようだった。俺としては忘れたいことだったし、忘れて欲しいことだったのだけれど。
    「外務省のプールで我慢しておけ。なんなら水風呂でも浴びて来いよ」
     俺がそう言うと、そうだな、と彼は言って空になった瓶をテーブルの上に置き、俺の腕を引いた。俺は慌ててビールを飲み干すが、狡噛は冷蔵庫を開けてまた同じビールを日本取り出し、そうしてキャップを開けただけだった。
     かくして、俺たちは酒を片手にバスルームで水に浸かる羽目になったのだが、またそれは別の話だ。そこで起こったなんやかや、例えばセックスなんかは先日のナイトプールのそれよりずっと素面だから恥ずかしかったのだけれど、やっぱりそれは別の話だ。ここで話すことじゃない。
     狡噛の部屋にはバックギャモンの盤面と、俺たちが飲み干したハイネケンのビール瓶が残されていた。それは彼がリビングの明かりを消したことで、沈む太陽の灯りに光って、流れる色がまるで彗星のようだったのを覚えている。バスルームは明かりが煌々と照って、そんな印象はまるでなかったのだけれど。
     俺はまた彼に振り回されてしまった。休日はこうやって終わるのがいつものことで、それはそれでよかったのだけれど、やっぱり彼の思惑通りに進む時間は少し癪だった。でもそれでも、口づけや身体の触れ合い、そんなものに俺は翻弄されつつも彼を愛した。冷たい水の中でキスをして、ビールを飲んで、最後に映画をまた見ようと約束して。そうして今度海外に行くことになったら、海に沈む夕陽を見ながら歩こうと約束をして。
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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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     狡噛が読んでいた本にも海を賛美するものは多かった。詮索はしなかったけれど、事実彼は泳げもしない海を眺めに行っているようだった。誰かに影響されやすい、可愛らしい恋人。
     俺は今、母の遺体を引き取りに沖縄に来ていた。そして何かに導かれるように、全てを終わらせると海に行った。多分、学生時代に俺の母の出身が沖縄と聞いた狡噛が、きっと色なんて全然違うんだろうなななんて、そんな馬鹿げたことを言ったからだった。その頃は俺は監視官で狡噛は執行官だったから、俺は意固地になって言わなかったが、彼の言葉はいつだって俺の中にあった。
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     だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。
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