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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    しょしょドロライ18回目
    恋煩い
    無自覚な魈の話。

    #鍾魈
    Zhongxiao

    恋煩い 頭痛、吐き気、眩暈、身体の痛み、それらは常のことであるからにして、今更この不調をどうにかしようとは思わない。それは己の責務からの逃げとなるからだ。
    「鍾離様……」
     モラクスとの契約は終わったが、それ以外の生きる術を知らない魈にとって、近頃なんとなく鍾離のことを考える時間が増えていた。鍾離とゆっくり茶を飲み、話を聞き、共に璃月を散策する穏やかな時間は、己の心を落ち着かせ、穏やかな気分にさせてくれる。それは一過性のものではあるものの、ふとした時に思い出しては、心の支えにしていた。今もそうだ。降魔を終え、ほっと息を吐き、昨日お会いした時の鍾離の笑顔を思い出して気を保っていた。すると、特に休息を得なくても身体が軽くなって、次の戦闘へと身を投じることができていた。食欲もいつにも増してなくなっていたが、気にする程ではなかった。しかし、近頃は鍾離のことを思い浮かべると、それ以上に胸が苦しくなってくるので不思議であった。思わず木の幹に手をつき、胸を押さえた。呼吸が乱れる。心臓の音がうるさい。
     申し訳程度に鍾離に貰った薬を噛み砕いて、最低限身体が動くように整える。けれども、ここ最近は薬が効かなくなっている気がする。いよいよ己の業障が薬で抑えられなくなったのかと、それならばもう薬を届けて貰う必要もないことを告げに、鍾離の元へと訪れた。
    「ふむ。では、もっと強い薬を作って欲しいと?」
    「そうではありません。もう不要だと言ったのですが……」
     そう言った瞬間、鍾離の鋭い眼光に射抜かれて萎縮してしまった。そう言うのは許さない。とでも言いたげである。
    「身体が辛いのならば、もう少し休みを取ってはどうだ」
    「しかし……」
    「休息の取り方がわからないのであれば、俺も付き合おう」
    「鍾離様の手を煩わせる訳には……それに、業障の影響が鍾離様へ及ぶかもしれないと思うと、お傍にいるのは得策とは言えません」
    「そうは言うが、俺から見れば業障はそれ程酷くはないように見える」
    「え……?」
    「そうだな……」
     探るようにじっと鍾離に頭のてっぺんからつま先まで見つめられている。すると、どんどん心臓の音が早くなってきて動悸がしてきた。何もしていないのに段々と息が荒くなり、身体が熱くなってくるのだ。
    「今もあまり体調は良くないか?」
    「……そう、です……」
    「ふむ。どんな時に今のような症状になるか、俺に伝えられるか?」
    「それは……降魔を終えた後、一時の休息を得ようとしている時になるような……そんな気がいたします」
    「なるほど」
    「ぅあっ」
     うっかり声をあげて、肩を震わせてしまった。なぜなら鍾離が鼻先が触れ合う距離まで顔を近付けてきたからだ。
    「あ、の……鍾離、様……」
     声を漏らすと、吐息が鍾離まで届いてしまう。見聞するような石珀色の瞳は、魈の瞳との距離が近過ぎて、いっそ目が合っていない。身動きも取れず妙な緊張感が漂い、その場に膝をつきそうになってしまう。
    「すまない。ちょっと確かめたかっただけだ。しかし……これは別の病かもしれないな」
    「我は……病を患っていたのですね……」
    「そうだ。これの特効薬はない。しかし、慣れればそのような症状は出なくなるはずだ」
     薬のない病とは、厄介なものを患ってしまったものだ。痛みに慣れることは、今までもずっとそうであった為、問題はない。
    「わかりました。理由を知れて良かったです。では、戻ります」
     業障と更に病まで患ってしまうとは、いよいよ自分の終わりが近くなってきたのかと自嘲してしまう。これ以上鍾離に迷惑を掛ける訳にはいかないので、そそくさと鍾離の前から立ち去ろうとした。
    「待て。慣れることが大事と言ったはずだが」
    「はい。なので病のことは気にせず見回りへ戻ろうと思いました」
     なぜか鍾離が引き留めてくる。なぜなのだろうか。
    「……魈。突然聞いてすまないが、お前は俺のことをどう思っている?」
    「なっ、え、あ、あの」
     尚も質問されたが鍾離の真意がわからない。それを聞いてどうするのか、病と関係があるのかも全くわからない。鍾離のことを考えると、途端にぶわりと体温があがり、胸が苦しくなる。
    「お、お慕いしております……」
    「俺もお前のことは好ましく思っている」
    「なっ」
     鍾離に言われた事に驚くと同時に腰が抜けてしまい、その場に尻もちをついた。何もしていないのにぜぇぜぇと息を切らし、頭が真っ白になって鍾離の顔をただ見ることしかできなかった。
    「これは、重病だな」
     鍾離が腰を降ろして、魈の隣に座り込み、ふむ。とやはり何かを考えている。
    「ずっとこのような状態のお前も可愛らしくて良いと思うが、いつまでもそれではお前が辛いだろう」
    「な、なにを……」
     鍾離が何を言っているのか、何一つ理解できていなかった。かわいい? 我が?
    「まずは……そうだな。共に食事でもどうだ。それとも今日はもう解散した方が良いか……お前はどちらが良いだろうか?」
     選択肢を与えられているが、どう回答して良いかわからない。一体病と何の関係あるのだろうか。本当に何もわからないのに、鍾離は何一つ説明をしてくれない。尚もじっと鍾離に見つめられ、呼吸をすることすら忘れてしまい、あまつさえ目を回してその場に倒れ込んでしまう、魈であった。
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