Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    p19691110e

    @p19691110e

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 13

    p19691110e

    ☆quiet follow

    キースとヴィクター
    2部1章冒頭付近
    フォロワー様の絵を拝見してSSかかせていただきました

    #キスヴィク
    kithvic
    #ヴィクター・ヴァレンタイン
    victorValentine
    #エリオ腐R
    elioRotR.

    秋の空午前中パトロールに行き、遭遇したサブスタンスを確保するというひと仕事を終えたオレは、缶ビールを片手に一服をしようとタワーの屋上に向かった。屋上への入口を開けると降り注ぐ太陽の眩しさに眉を顰める。二日酔いとまではいかないが寝不足気味の目には刺激が強い。まだ日が昇って半日経つか経たないかの空は明るく、きれいな青が広がっていた。ランチタイムやティータイムには賑わう屋上も、昼食にはまだ早いこの時間は人の気配もなく、これ幸いとポケットからタバコを取り出してジッポで火をつける。ふぅ、とひと息吐き出すと、紅葉の始まった小さな木が目に留まった。その下に備え付けられているベンチを見つけて、片手でプルタブを引っ張りながら歩き出した。






    「うお、びっくりした……」

    腰を下ろそうとベンチの前に回ると、そこにはヴィクターが座っていた。普段、存在感がないワケではない人物がいた事に、気を抜いていたとはいえ全く気付かなかった。思わず驚きの声を上げてしまったが、ヴィクターはオレを見ることなく、ただ空を見つめていた。その目元にはうっすらとクマができていた。



    『ヴィクターは今、ヒーローや研究者としての立場を剥奪されている。長年研究していた薬が一応の完成を迎えた今も、その処遇については保留となっている』

    先日のメンター会議でメンターリーダーから説明があったことを思い出す。だからやることがなくてこうして過ごしているのかもしれないけど、それにしては覇気も元気も何も無い。前はもう少し血色のある顔だった気がする。人付き合いが苦手だとか言われているが実はそうでも無い、というか人とは話すし興味のあることには積極的に会話に入ってくし、会話が成り立たないタイプではない、という印象はあるけど、実際はどうなのかあまり知らない。同じく13期ルーキーたちのメンターという立場だが、深い付き合いをしたことはない。なんなら、二人きりになるのも今が初めてだった。他に移動するのも避けてるような気がして、何となくはばかられてとりあえず隣のベンチに腰を下ろす。背もたれに体を預け、一口ビールをあおり飲む。どこであろうとこの一口目が至福の一杯であることに変わりはなかった。缶を片手に持ったまま、深く息を吸い込むと、青白く光る空を見上げて溜息と共に紫煙を吐き出した。











    静かなタワーの屋上に、風が通り抜ける。この季節はいつもより強い風が吹き、少し肌寒く感じる。ビールで火照る体には心地良いその風にオレの前髪も揺れ動く。風が吹く度にそれに添うほど長い白銀髪の持ち主は寒くないのかと、前髪の間から盗み見たが、隣に座ってから30分ほど経った今も微動だにしていない。一体、いつからここにいて、いつまでここにいるつもりなのだろう。問いかければ答えるのかもしれないが、オレにはその義理がない。普段から仲良くしているワケじゃない、飲み仲間でもない、あくまで仕事場の同僚、なんなら先輩だ。それに、人には触れられたくないことの1つや2つや3つ4つあるだろう。オレにだって放っておいてほしい時くらいある。だから、ヴィクターがここで何をしていようが、どうしていようが、したいように過ごしているのなら、それでいいと思った。







    2本目のタバコに火をつけた時、オレのスマホが鳴った。他のメンバーの午後の予定を報せるものだった。午後からオフの自分には関係ないと返事もせず画面を閉じてポケットに仕舞う。目に入った時計は、昼の12時を告げる手前だった。人が来る前に今の1本を吸い終わったら戻るかと、背もたれに腕を乗せて空を見上げる。来た時から変わらない眩しさに眉を寄せて、空から顔を逸らした。




    「……貴方は何も言わないのですね」

    聞こえた声に最後のひと口になるであろうタバコを咥えようとした手が一瞬止まる。けどそのまま、フィルターを咥えて一息吐き出した。低く掠れて響く声がヴィクターの不調を伝えていた。ロクに寝てねぇのかなんなのか……ヒデェ声してんなぁ。その言葉は口には出さずに、缶ビールの残りと一緒に飲み込んだ。

    「あー……まぁ、面倒ごとはごめんだし、別に言うこともねぇからなぁ……」

    その通りだった。別にヴィクターがしたことが良いとか悪いとか、何をしたとかしてないとか、報告として聞いた範囲のことしか知らない。ヴィクター自身のことも、元々詳しく知っているワケじゃない。それに、散々自分で起こした親友に関する問題でたんまりとお説教を喰らった事も覚えている。また説教されそうなことに巻き込まれるのは勘弁だ。オレの返した言葉がコイツの求めていたものだったのかどうかは分からなかったけど、ヴィクターはそれっきり、また空を見つめ続けていた。










    カラになった缶に吸い終えたタバコを押し付けて中に吸殻を落とす。じゃあな、寒くなる前に戻れよ、と声をかけようとヴィクターの方へ顔を向けようとした時、屋上のドアが開く音がした。反射的に動いた左目でその人を確認する。数人の職員の後ろから、若い男が2人。あれはヴィクターと同じセクターのルーキー……なるほど、様子を見に来たのか。なら見つかる前に退散しようと、よいしょ、と弾みをつけて立ち上がり背筋を伸ばす。ふと、ポケットに入れっぱなしになっている小さな塊を思い出す。

    「やるわ、それ。新作らしいぞ~」

    一つを取り出して、空虚を見つめる相手の手にそっと乗せた。それはここに来る途中に会ったルーキーに貰ったキャンディ。ふたつ貰ったし、きっとふたつは食べねぇし、忘れて洗濯に出してジャックに怒られかねないから、ちょうどいい、なんて心の中で誰かに言い訳をしながら返事を待たずにその場から歩き出した。少し遠回りをして、若い2人の視界に入らないように出口へ向かう。こっそり視線の先を確認すると、やっぱり自分たちのメンターを見つめていた。ちゃんと、心配してくれる人がいるんじゃねぇか、やっぱりオレの出る幕はなかったな。








    下階へ降りるエレベーターの中でポケットに手を入れてもうひとつのキャンディを取り出した。適当に袋をあけて口に放り込む。甘さが口いっぱいに広がって眉を顰める。味が複雑すぎて分からない。甘いことだけはよく分かった。何味だったか今度聞いてやろう、なんてきっとすぐに忘れるだろうアイツとの会話のきっかけを考えながら、酒とタバコを嗜める場所へ行くために、まだ青い空の広がるタワーの外へと歩き出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏💒😭😭😭😭🙏🙏🙏👍🍭🍭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    p19691110e

    MAIKING書きたいところだけ
    ・一般人パロ
    ・同居してる
    ・距離感近い
    キースとヴィクター「………暇だな」
    「そうですね」
    「…天気いいよなぁ」
    「そうですね」

    リビングにあるソファに座って文庫本を読むヴィクターの膝に頭を乗せてただテレビをぼーっと見ているオレ。一緒に住むようになってから、オレが二日酔いの日のお決まりの構図だった。受け答えはあるものの、小説に集中しているのか全部返しが「そうですね」になっている。前に指摘したら、「…善処します」と渋々といった顔で聞き入れてくれたみたいだったけど、結局それは変わらないらしい。
    同じ大学だったヴィクターと出会ったのは入学式の日。サボるか悩んで講堂の近くのベンチにいるときに、白衣を着たヴィクターが物陰にうずくまっているのを見つけた。何してんだ?と声をかけると、驚く様子もなく「観察をしています」と、アリの行列を指さした。アリたちは大きな何かを運んでいるようだった。そのあと、特に縁もなく、春が終わって1年目の夏休み前。新歓で散々飲み酔い潰れたオレを道端で見つけたヴィクターが、オレを家に連れ帰ったらしい。ヴィクター曰く、「絡まれて離れてくれなかったので致し方なく、です」とのことだった。因みに起きた時はパンイチだった。服はヴィクターが全部拾ってくれて洗濯までしてくれていた。
    642

    recommended works

    いとう

    DONEフェイビリ
    まぶたの隙間 橙色にきらめく髪が視界に入ると、ひっそりとゆっくりとひとつ瞬きをすることにしている。
    そうしている間に九割以上向こうから「ベスティ~!」と高らかに響く声が聞こえるので、安心してひとつ息を吐き出して、そこでようやっと穏やかな呼吸を始められるのだ。
    それはずっと前から、新しくなった床のビニル独特の匂いを嗅いだり、体育館のメープルで出来た床に敷き詰められた熱情の足跡に自分の足を重ねてみたり、夕暮れ過ぎに街頭の下で戯れる虫を一瞥したり、目の前で行われる細やかな指先から紡がれる物語を読んだり、どんな時でもやってきた。
    それまでの踏みしめる音が音程を変えて高く鋭く届いてくるのは心地よかった。
    一見気性の合わなさそうな俺たちを見て 、どうして一緒にいるの?と何度か女の子に聞かれたことがある。そういう時は「あいつは面白い奴だよ」と口にして正しく口角を上げれば簡単に納得してくれた。笑みの形を忘れないようにしながら、濁った感情で抱いた泡が弾けないようにと願い、ゴーグルの下の透明感を持ったコバルトブルーを思い出しては恨むのだ。俺の内心なんていつもビリーは構わず、テンプレートで構成された寸分違わぬ笑みを浮かべて大袈裟に両手を広げながら、その後に何の迷いもなく言葉を吐く。
    8533