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    Hino

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    Hino

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    エルデンリング/主ロジェ/ロジェール生存ifの話。ハッピーエンドではないです。一部自己解釈で書いてます。雰囲気で読んでいただければ幸いです。

    #主ロジェ
    hostRoger.

    それはある褪せ人が終わりに至るまでの話あるいは一人の魔術師の新たな旅の始まりの話

    その二人組は共に旅をする時間が長かった。
    まだ成人してまもない若輩の身でありながら腕の立つ葦の国の侍と学者志望だった魔術師。
    狭間の地に来たばかりで異国の文化に疎く途方に暮れていた若者にロジェールが知恵を授けたのがきっかけで、人懐こいその男は親鳥の後ろを追いかける雛のように共に行動するようになったのだ。

    この地での生活に慣れる頃には離別するものと思われていたが気づけば良きパートナーになっていた。
    青年は残念ながら頭を使う事は苦手であった。しかし好奇心はロジェールと同じく、若しくはそれ以上に旺盛だった。分からないなりに理解をする努力をしたし目新しい物は試してみたい性分であった事も助け、何事においても受け入れる寛容さがあった。傍から様子を伺っていたロジェールも自分の知識を与えれば目を輝かせて頷き話の続きをせがまれるのだから悪い気はしなかった。



    探索面でも相性が良かった。旅路は騎手のいない暴走馬車の様相であったが。興味が勝れば己が危険を顧みず突出しがちなロジェールとそれを止めもせず着いていく若武者。青年は存外に血の気が多く相手に敵対の意思あれば即抜刀して敵陣に突っ込む危なっかしい面もあったが露払い役として大いに役に立っていた。一見破綻しそうなチームであるものの魔術師がパーティのブレイン役、その青年は優秀な戦闘要員として哨戒・殲滅役という形に自然と収まっていた。

    時には森でルーンベアに追いかけ回され仲良く祝福送りになってみたり、足元をよく確認せず移動して高所からの滑落。不用心に宝箱を開けて見知らぬ土地へ飛ばされた事もあったが終わってからお互いの顔を見て「またやってしまいましたね」「次は気をつける」と笑いあう、そういう旅だった。




    狭間の地にも馴染み幾分か過ぎロジェールの提案でストームヴィル城へ潜入する事となった。青年に拒む理由もなく今回は大きなトラブルが起きなければいい程度の考えだった。
    城内への本格的な探索の前に緊急退避先の確認を行いつつ軽口をたたきあう。今まで潜ってきたダンジョンと比較するまでもなく危険な探索を前に少しでも昂る気持ちを抑えておきたかった。
    「装備を新調すると言っていませんでしたか?」
    「失地騎士装備の事?見た目が好みなんだけど甲冑と違って頭が暑苦しいし動きにくくてさ...関所で兵士に追いかけ回されて懲りたよ...」
    「それは残念です、貴族と従者の二人旅はなかなか楽しくて続けたかったのですが」
    「自分から貴族って言える自信を見習いたいよ。まぁ主人殿の願いなら放浪の貴族の真似事をしてもいっかな」
    「おや、割と本気で言ったんですよ」
    緊張した面持ちも多少はほぐれ、アイコンタクトをとる。
    では、行きましょうか。
    その言葉をきっかけに嵐の城への潜入が始まった。





    ロジェールの目的は城の何処かに眠っている遺物、黒き夜の陰謀の痕跡。この城の王と事を構える気はないためいつも以上に警戒して奥へと潜り込んでいく。城内は王への贄を探し回る兵士がひしめき、空を見上げれば物騒な獲物を足に接いだ鳥達が飛び交う。
    崩れた外壁を伝い、遮蔽物に身を隠し建物の屋根をコソコソと移動し漸く一息つける寂れた礼拝堂にたどり着いた。
    「ここは安全そうですし、一息つきませんか」
    「賛成。身体を休めよう。」

    音を立てないように長椅子に腰掛ける。ロジェールは使い古された手帳を取り出しメモを書き何やら考え込んでいた。青年は邪魔にならぬよう椅子の端に身を寄せて静かに武器の手入れを始める。

    そうやって各々が休息を取っている最中、沈黙を破いたのはロジェールだった。
    「貴方は私と違って祝福の導きが見えているのでしょう?王に挑戦しようとは思わないんですか」
    急に話を振られた青年はキョトンとし想定していなかった質問に首を傾げていた。
    「どうかな。気がついたら知らない土地にほっぽりだされてたから考えてもみなかった。ただ...」
    何故だか言い淀み照れくさそうにしている青年にずずいとロジェールは距離を詰めてにっこり笑って次の言葉を待つ。
    「なんです?」
    なかなか言い出せない青年を急かすあたり良い性格である。観念したように彼は口を開いた。
    「ロジェールと旅する先々に祝福の光があるから、俺にとっての祝福の導きってのは貴方だ。離れるつもりはないよ。」
    それを聞いて今度はロジェールが呆気に取られている。
    「もしかして口説いてます?私が女性なら惚れてましたね」
    「今すぐに惚れてくれたっていいよ」
    言い終えてから二人とも平静を取り繕っていたが一拍の静寂を置いて耐えきれなくなった青年が「今のなしで」とそっぽを向いてこの話は終わった。
    年上を揶揄うものではないですよ、と余裕のある対応をしていたように見えたロジェールの耳も少し赤く染まっていた。



    城内の探索に戻り建物の影を進むうち、敷地の隅に下層へ続く通路に気がつく。今は手入れされていないようだが朽ちた人工物が過去に道があった事を示していた。
    「これは目的地が近いですね」
    ロジェールの目に興味の光が出ている中、隣にいた青年の顔からは表情が抜け落ちていた。振り向いたロジェールが驚いた。
    「何か気がかりな事でも?」
    青年は指摘されてハッとし、かぶりを振っていつものように柔らかい顔をする。
    「虫の知らせっていうのかな。なんとなくざわつくんだ、思い過ごしかもしれない」
    「貴方の感覚はよく当たりますから信頼してますよ」
    「そっか。...なあロジェール、もし目的物が見つかっても長居せずに引き返そう」
    なおも難しい表情を浮かべている青年に向かってロジェールはわざとらしい笑みを浮かべて「大丈夫です。私は慎重派ですからね!」と答えてみせた。
    「そうかなぁ…」
    はあ、とため息をついて青年は脱力する。胸に残る違和感は薄れていたがそれでも燻り続けていた。





    青年の勘は当たっていた。地下に降りて建物に入った途端爛れた樹霊に追い掛け回される羽目になったのだから。
    「貴方の勘は本当に当たりますねー」
    「悠長に言ってる場合じゃないって!援護任せた!!」
    青年が前線に立ち相手の敵視を引き付けている間、後衛のロジェールが敵の攻撃範囲の少し外から輝石魔術を連射していく。力任せに鏖殺しようとしていた樹霊であったが、深追いせずに引いては死角から攻撃を受け続けている状況に興奮してでたらめに巨体をうねらせた。後方に控えている魔術師目掛けて飛び掛かろうとした刹那、疎かになった足元に青年の鋭い一閃が叩き込まれる。
    樹霊が唸り声を上げて態勢を崩した隙を見逃さずロジェールが距離を詰めその脳天に刺剣を突きたてた。断末魔が地下に響き渡り戦闘は幕引きした。
    獲物を鞘に納め無言でハイタッチをしてから、ふにゃっとロジェールが笑う。
    「貴方がいてくれてよかった」
    「頼られるのは嬉しいけど、もうちょっと気を付けような」
    はーい、と大らかに返事をする男のペースに乱され青年は毒気を抜かれる。それでも今回はうまく撃退できたが接ぎ木の王に仕える兵士達より質の悪いものを相手にしたせいでげんなりしていた。
    「こんな物騒な所に遺物があるとは思えないんだけど」
    撤退を促す青年の肩を突然がっちり掴んだロジェールの目が輝いている。
    「何を仰います!あちらが見えませんか」
    空いた手で指さす先には禍々しい雰囲気の遺骸が鎮座していた。
    「一人で帰るだなんて言わせませんよ」
    魔術師から学者の顔に切り替わった相方を置いて行けるはずもなく、二人は腐臭漂う広間へ足を踏み入れた。





    ロジェールが目の前の遺物に釘付けになっているのを青年は静かに眺めていた。こうなったら満足するまで周りが見えないから俺が気をつけるか等と構えていた。
    この広間に移動してからロジェールは手帳を開きながら何やら物思いにふけっている。

    青年は地下に降りる前から感じていた不安が残り続けている事を気にしていた。それどころかここに来て更に大きなざわめきに変わっている。
    ここは人どころか生物の気配も感じられない、静かすぎて羽虫の羽ばたきすら聞こえる...気持ちが悪い…


    羽虫の飛ぶ音?生物が見当たらないのに?



    青年が違和感を察知した時には魔術師の足元に意志を持った人の手のような黒い根が足を掴もうとしていた。

    「...ッ!!ロジェール!!」
    突然の大声に驚き目を見開いて振り返ったロジェールを力任せに突き飛ばした。
    受け身も取れず背中から倒れた彼を見下ろしていた青年は安堵した。これで巻き込まれはしないと。

    にげろ

    その口から音が発せられる前に肺が、喉が、口内が、異物に押し潰され呼吸すらまともに出来なくなった。
    自分の胸から伸びる黒い枝を目にしたのを最後に青年の意識は途切れた。



    背部を強打したロジェールは一瞬息がつまり視界が点滅したような感覚の中にいた。
    体制を立て直し、周囲の状況確認、後ろに控えていた彼を…
    様々な思考が頭を巡っていったが青年を視認した時、それもまっさらになった。
    彼の言葉は聞き取れなかったが「にげろ」とその唇が告げていた。
    地響きと共に急激に成長した黒い枝が無秩序に青年の身体を引き裂き、ひと際太い枝が胸部を貫いた。
    素人目からみても致命傷であり今ここで自分に出来ることはない。
    すみませんと小さく呟きロジェールは自らの胸に手を当て祝福の記憶を辿る。
    ぼぅ、と柔らかな光がはしり景色が揺らいでいった。



    目を開くと薄暗い城の地下から城内の人気のない小部屋に立っていた。
    無事脱出出来たことに安堵しつつも急いで辺りを見渡すと部屋の隅で青年が伏せたまま動けなくなっていた。慌てて駆け寄り青年を抱き起す。
    覗き込んだ青年の顔は青白く額には汗が滲んでいた。呼吸は浅く時折苦しげに眉間に皺を寄せている。まるで悪夢を見ているかのような顔だった。
    未だ祝福から恩恵を受けているはずの彼が正常に戻らない事に不安が募っていく。
    「聞こえていますかッ!!目を開けて!!」
    巡回している兵士に見つかるリスクを冒してでもロジェールは叫ばずにはいれなかった。何度も呼びかけ、身体を強く揺する。

    どれ程時間が経ったか気にする余裕もなくなった頃、青年が苦しげに呻き声を上げて目を覚ました。
    起きがけだというのに周囲を見渡し安全地帯である事を確認していた。
    「...ロジェー...ル...?怪我は...?」
    顔色も悪いままで自身の方がずっと体調が優れないだろうに、じっとロジェールの顔を伺う青年を見て思わず苦笑した。
    「はは…全く貴方は…人の心配している場合ですか」
    張りつめていた糸が切れ疲労感が今になって身体にのし掛かってきた。
    いまだに身体に力が入らない様子の青年をぐっと抱きしめる。
    息苦しいって、と青年はロジェールの背中に回した手でポンポン叩き抗議した。
    「私を焦らせた罰です。甘んじてお受けください」
    「あのなぁ…」
    仕方なくなすが儘にされる。ロジェールが青年に見えないように涙ぐんでいたのを隠していたように、青年の瞳も暗く、それでもどこか決意の光を宿していた。





    その後ロジェールは青年の体調を気遣いストームヴィル城を後にした。探していた手がかりを掴めていたのもあり情報の整理も兼ねて円卓の書庫に引きこもる事となった。
    一方青年はロジェールの心配をよそに「身体が鈍るといけないから」とリムグレイブにある未踏破のダンジョンへ腕試しに出かけてしまった。
    あんな事があったのだから少しくらい羽を伸ばせばいいのにとも思ったが、一人旅に出られる程度に調子は良いのだろうと前向きに捉えていた。



    また日は経ち、ロジェールの筆の進みが悪くなってきた。他に何か資料はないかと書庫と書斎代わりに借り入れていた部屋を往復している際に青年の後ろ姿を見つけたのだ。戻ってきているなら一言声をかけにきてくれてもいいのにとその背中を追いかけた。
    青年はある扉をくぐっていく。あの場所はフィアが滞在している部屋だったが彼に面識があると聞いていない。疑問に思い入口の影からそっと中を覗きこむ。
    見られている事に気が付いていない二人が話し込んでいたが距離があるためその中身まで聞きれなかった。
    ふいに寝具に腰掛けていたフィアが腕を広げ、対する青年も躊躇いなく近づき抱かれていた。
    ロジェールはひとつ心臓が強く脈打つのを感じ、次第に胸の辺りにじくじくと醜い感情が渦巻いていることを自覚する。
    彼だっていい年をした男性なのだから興味がないはずはないだろうと無理やり自分を納得させ踵を返した。


    暫くして青年がロジェールの元に顔を出しにきた。
    久しぶりに対面したその顔には疲労感が滲み出ている。随分と楽しくされていましたね、と吐き出しかけた言葉を飲み込み穏やかなふりをして「おかえりなさい」と相棒を労った。
    「ロジェールもお疲れ様。調べ物は順調?」
    青年はいつもと変わらない様子で話を振ってくる。
    「少し手詰まりしてきまして。手がかりのヒントがどこかにないか調査中です」
    「そっか。...貴方なら大丈夫だよ。俺が手伝わなくたって答えを見つけられるさ」
    その言葉に引っかかるものを感じていたロジェールを尻目に「また出てくるよ」と青年は立ち去ろうとしていた。あっさりした態度に驚き声をかける。
    「今度はどちらまで?」
    半身を捻ってロジェールを視界に入れた青年は少しだけ沈黙してしまう。
    「リエーニエに足を伸ばすつもり」
    罰が悪そうな顔で返答したのは足を踏み入れたことのない他の地域へ出向かうためだろうか。
    最近の青年は自分に隠し事ばかりだ、とまた胸が痛んだ。
    「戻ってきたばかりなのですからお休みになられてはどうです?」
    「お気遣いどうも。でもその調べ物が終わる前に済ませておきたい事があるから」
    引き留めようとしたが取り付く島もなく彼は円卓の広間へ向かってしまった。

    ふと青年が立っていた場所に目をやれば、小さな皮袋が落ちていた。結び目が緩かったのか中身が床に散らばっている。ロジェールはそれを手に取るとそれは黒い丸薬であった。きっと探索時に必要な品物だろうと思い広間に届けに行く。
    青年は大祝福の前で装備の確認をしており、何かを探す素振りをしている。
    「落とし物ですよ」
    驚かそうとか、そういった意図はないつもりだったのだがギクリと青年が身構えた気がした。
    「あぁ、ごめん。どこかでなくしたのかと思ってた、助かったよ」
    ぎこちない態度の彼を問いただしたくてたまらなかった。
    「何の薬ですか?」
    「鎮痛剤だよ。頭痛持ちって言ってなかったっけ」
    「...そうですか」
    やはり教えるつもりはないのだ。ロジェールが落胆したのに気がつき青年が明るく接する。
    「大丈夫、ちゃんと戻ってくるから心配しないで」
    青年は今度こそ円卓から旅立った。
    薄れゆく姿を見送りながら「嘘つき」と誰に言うでもなく呟いた。




    一週間ほど過ぎた頃、青年が円卓に戻ってきた。
    ロジェールは自分の研究も放置してある物の正体を調べた。その結果を彼に突きつけるために。
    「ただいま」
    部屋に訪れた青年は葦の装束ではなく失地騎士の鎧を身に纏っていた。フルフェイスの隙間からではよく顔が見えないが今はそんな事を気にかけるつもりはない。
    「話があります」
    その一声で空気が張り詰めたが、青年は沈黙したまま。
    ロジェールがおもむろに差し出した手のひらの上には、あの日青年が落としていった丸薬があった。
    こっそり一つだけ残しておいたのだ。
    「この薬は鎮痛作用のある薬ではないですよね?」
    「...」
    「ある状態異常に対する丸薬」


    「死の苔薬。呪死に対抗するためのものです」


    そこまでロジェールが言い切ると青年の肩が小刻みに震えてやがてからからと笑って見せてた。
    「さすがだよ。隠し事なんかするもんじゃないや」
    可笑しくてたまらないと言った態度にロジェールの眉間の皺がますます深くなる。取り繕うことすら忘れて青年に食ってかかる。
    「何を笑っているんです!!?こんな物を持ち歩く理由を私に説明しなさい!!」
    冷静沈着なこの男がここまで怒鳴れるものか。
    「ねぇ、俺の事そんなに思っててくれてたって自惚れてもいいかな?」
    「話を逸らさないでください、答えになっていません」
    スッと青年が背筋を正して口を開く。
    「沢山謝らなきゃならないってわかってる。でも俺にはそんな時間も惜しいんだ」
    そう言いながら青年は布に包んだ何かをロジェールに手渡す。
    中身を確認した学者は狼狽えていた。
    「...!!貴方、これを何処で...!!」
    それはロジェールが探し求めていた【黒き刃の呪痕】に他ならない。だが見知らぬ土地へ分入るリスク、ダンジョンへの単独攻略など死に急ぐ行為を帳消しに出来るほどのものではない。
    尚も弁明すらしない青年に詰め寄ろうと顔を上げると、彼は愛用していた打刀を押し付けてきた。
    「この刀は魔術の発展した地域で打たれたものらしくてさ、器用な魔術師の貴方なら扱えるはずだよ」
    勝手なことばかりを話す相手にロジェールの苛立ちはとうに限界を超えていた。

    渡された物を床に放り青年の胸ぐらを掴む。
    「一体何の話をしているんです!!」
    ギッと鎧の隙間から相手を睨んだ。
    「説明になって......ない......」
    僅かに見えた青年の顔を認知した途端尻すぼみになっていく言葉。



    フルフェイス越しでも隠し切れない疲れ切った瞳とその下に深く刻まれた隈、それとは対照的に生気のない青白い肌。
    ぐるぐると最近の青年の行動が頭の中に浮かぶ。
    ストームヴィル城での出来事、常飲していたであろう苔薬、急いでリエーニエにまで足を運ばなくてはならなかった理由。
    ロジェールの中でパズルのピースが嵌まっていくように自然とその答えにたどり着いた。

    「...私の、せい...」
    本来であれば、あの場で死の根に足を掴まれていたのは自分であったはずなのだ。
    自分の探究のために青年に覆しようのない、重い運命を背負わせてしまった。
    あれだけ強く射抜こうとした瞳は大きく揺れていた。全てを悟って青年をまともに見る事などできなかった。
    「どうして黙っていたんです...?いつだって私を頼ってくれたじゃないですか...私に罪滅ぼしをさせて下さい...!!」
    後悔が涙となって溢れていく。行き場がなくなったロジェールの腕に、青年は拾い直した品々を持ち直させた。
    そして未だ泣き止まぬ恩人の頬を撫でた。
    触れられた場所が熱を持ったように暖かいと錯覚していた。2人はそれ以上言葉を発さなかった。
    静かに、それでも確実に終わりはそこまで近づいていた。



    名残惜しいそうに頬から手が離された。
    「...ごめんね、サヨナラだ」
    「冗談はよして下さい、」
    伸ばされたロジェールの手を制して青年は距離を離した。この後の事象に巻き込むわけにはいかないのだ。
    ロジェールの精悍な顔立ちがまた歪んでいく。
    青年が困ったように笑っている気がした。


    青年が息を呑む。最後の言葉を託すために。
    「たとえ女王が祝福の光を奪ったとしても俺が貴方を導く。

    王の器も、気概もない俺なんかより、賢くて優しい人が王になってくれ。

    だから...また俺を...救ってみせて...ロジェール...」

    そう言葉を残した青年はふらふらと数步後退した。枯れ枝が折れる音が鎧の内側から響いている。次第に歪に曲がりゆく彼から無数の黒い枝が伸びてその身体を刺し貫いていく。ごぼり、と湿った息を一つ吐く音と共に磔にされた身体が脱力していった。

    ロジェールは青年に託された品物を抱えてへたり込む。残された物の重さに耐えられる気がしなかったから。
    呆然と青年の身体が消え去るのを見送ることしか出来なかった。



    青年はそのまま行方知らずになった。事の顛末を知っているのは魔術師だけ。





    その後のロジェールはDから「余迷いごとを話す半死の身よりも始末が悪い」と言わしめる程に無気力な時間を費やした。日がな間借りしている部屋に引きこもり遺品をぼんやり眺め1日を終える生活。
    ある時テーブルの隅に円卓の書庫から拝借していた蔵書が目に入る。
    あぁ、ただでさえこんな状態で目をつけられているのに借りた書籍を戻さなかったらギデオン卿に何を言われることやら...
    仕方なしに書籍を手に取り部屋を後にする。暗く静かな廊下を歩いていく。大祝福前に人が集まっていなければいい、と城館の中央へ向かう扉をくぐった時に気がついた。

    弱々しいが、とうの昔に無くしたはずの祝福の光が見えた。青年が残していった奇跡なのだろうか。
    枯れたとばかり思っていた涙が落ちていく。
    「本当に導くつもりなんですね...狡い人...立ち止まる理由も取り上げるなんて...」
    魔術師は帽子を深く被り直して一歩を踏み出す。
    また忙しく世界を飛び回らねばならないのだから。



    「絶対に見つけ出します。どこに居ても、必ず。」
    ロジェールは円卓を離れ狭間の地に立っている。
    使い慣れた刺剣と彼の意志たる打刀を携えて魔術師の旅がまた始まる。
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