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    カンパ

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    カンパ

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    オーナーたいじゅくんと幹部みつやのたいみつ。たいじゅくんのSP視点。スミス夫妻パロです。

    #たいみつ

    痴話喧嘩(たいみつ)「三ツ谷に浮気を疑われている」
     そんな馬鹿な。俺は思わず、青信号にも関わらず急ブレーキをかけそうになってしまった。だってそんなの絶対にありえない話じゃないか。オーナーの三ツ谷隆愛は異常だ。iPhoneのロック画面こそ当たり障りない外国の風景写真が設定されているが、ロック解除後のホーム画面では三ツ谷さんの寝顔写真を背景にしているような男である。浮気なんて天地がひっくり返ってもありえない。
    「原因は分かっている。オレが二人の小娘と会っているのを三ツ谷の部下が目撃した。だがその部下は小娘二人が三ツ谷の妹とは知らなかった」
     なるほど。つまり三ツ谷さんの部下が、オーナーが見知らぬ女二人と逢瀬を楽しんでいると三ツ谷さんに報告して、しかしその女二人かまさか自分の妹とは夢にも思わない三ツ谷さんが、オーナーの浮気を疑ってしまったと。
    「そこまで分かっているのであれば、誤解を解けばいいのでは?」
    「あいつは自分の目で見たモンしか信じねぇから、何言っても無駄だ」
     オーナーの家は国内に五箇所あるが、その中でもこの家はもっとも豪華な造りだ。無駄に広い庭に、誰が使うのかよくわからないプール、それに暖炉に煙突。山を切り拓いたような立地なのでご近所さんもなく、週刊誌に狙われがちなオーナーのプライベートがしっかり確保されている。
    「オマエも同席しろ」
     オーナーを玄関先に下ろし、一旦会社に戻ろうとしたその時だった。運転席側の窓ガラス越しに、オーナーが背後の豪華絢爛な家を指さしている。
    「エッ、わたしがですか」
    「オマエ、ある程度の護身術は使えるだろう」
    「まあそりゃ、SPなんで」
    「じゃあついて来い。一人より二人の方が勝率が上がる」
     彼のもとで働いて早三年、恋人との食事の席に呼ばれたのは初めてのことだ。ところで勝率とは何のことだろう。浮気の誤解を解くのに俺の証言が必要ということだろうか。


    「おかえり大寿くん。あれ、その人は?」
     ダイニングは家の外観に負けず劣らずの豪華っぷり。シャンデリアに、うつくしい花瓶に添えられた花、真っ赤なテーブルクロスの上で揺れるキャンドル、見るからに上等なワイン、ピカピカに磨かれたカトラリー。
    「オレの部下だ。同席してもいいか?」
    「もちろんいいよ。大寿くんが仕事の人連れてくるなんて珍しいね」
     追加のカトラリーを取りにキッチンに戻る三ツ谷さんの姿をオーナーの背後から眺める。相変わらず綺麗な人だ。伸びた背筋、細い腰、うなじを隠すように伸びた銀色の髪、長いまつ毛、やわらかい視線、うすい唇。夢中で眺めていたらオーナーに足を踏んづけられた。す、すみません。あなたの恋人があまりにも魅力的なものだったので。
     ところで三ツ谷さんの様子に特段変わったところはなく、変わらない物腰の柔らかさでいつも通りの気遣い、そしていつも通りのうつくしさであった。オーナーの浮気を疑っていると聞いていたがまるでそんなそぶりも見せない。
    「はい、先にどうぞ。大寿くんも」
     席に着いた俺の手に食前酒が注がれたグラスが渡される。三ツ谷さんはオーブンに入れたままというローストチキンを取りに再びキッチンに引っ込んでしまった。先にどうぞ、ということは、もう飲んでしまっていいのだろうか。飲んだら帰りの運転はできないが、あのやさしい三ツ谷さんが俺を路上に転がしておくなんてことはないだろうから泊まらせてくれるつもりなんだろう。こんなそんじょそこらのホテルよりもよっぽど豪華な家に一泊。なんて最高な一日だ。
     食前酒を口に含もうとグラスを傾けた、その時だ。隣に座っていたオーナーの屈強な腕がこちらに伸びてきて、俺のグラスを颯爽と奪っていった。オーナーはキッチンに立つ三ツ谷さんがこちらに背を向けているのを視認すると、グラスに注がれたシャンパンを花瓶の中に注いだ。
    「あっ、何するんですかもったいない」
    「何が入ってるかわかったもんじゃねぇぞ。気をつけろ」
    「は? 何言って……」
    「はーい、ローストチキンできたよ」
     キッチンから戻ってきた三ツ谷さんの持つ皿には、丸鷄のローストチキンが乗せられていた。わお、こんなの洋画でしか見たことない。三ツ谷さんが長いナイフを取り出してローストチキンを切り分けようとすると、オーナーが徐に立ち上がって三ツ谷さんの後ろに立ち、その手からやんわりとナイフを奪った。
    「疲れてるだろう。オレがやる」
    「そう? じゃあお願いしちゃおうかな」
     オーナーだって今朝からずっと会議続きで疲れているだろうに。こういうところ、スマートで憧れちゃうな。まあ、人にもらった食前酒を花瓶にぶちまけたりするわけのわからないところは尊敬できないけど。
     三ツ谷さんはオーナーの向かいでバゲットを切り分けている。二人は時折目を合わせて笑い合ってなんとも仲睦まじい。二人とも、見つめ合いながらもナイフを動かす手は止まらない。俺はそんな二人を眺めながら最高のディナーを今か今かと待っている。
     切り分けられたチキンとバゲットが皿に並べられた。ディナーの用意をすべて終えた三ツ谷さんが席に着く。オーナーがワインを開けて、三ツ谷さんの隣に立った。
    「グラスをよこせ」
     言葉は乱暴だが恋人のためにワインを注ぐその姿は最高に格好良い。この時すでに俺は、まるで映画のワンシーンみたいな光景が次々と繰り広げられていくこの家の中で、三ツ谷さんがオーナーの浮気を疑っていることや、オーナーが三ツ谷さんの注いだ食前酒を捨てたことなどをすっかり放念していた。三ツ谷さんのグラスにワインが注がれる。「ありがとう、大寿くん」三ツ谷さんがはにかみながら礼を告げた、その時だった。オーナーの手からワインのボトルがするりと落ちた。
     あ、やばい。そう思ったって、向かいに座る俺にはどうしようもない。瓶が割れる音を覚悟して両目を瞑るが、その音は一向に聞こえて来なかった。恐る恐る目を開ける。そして驚愕した。床に落ちそうになったワインボトルを、三ツ谷さんの手が掴んでいるではないか。落ちそうになったボトルを掴むなんてどんな反射神経? 唖然とした様子の俺をよそに、二人はなぜかまっすぐに見つめ合って動かない。見つめ合っているっていうか、睨み合っているような。
    「三ツ谷、そのワインには何を仕込んでいる?」
     オーナーが三ツ谷さんの掴むボトルを見下ろしながらつぶやいた。三ツ谷さんは何も言わない。なんだ、この空気。先程までの仲睦まじい二人はどこに行っちまったんだ。そして俺はここでようやく思い知る。自分がとんでもない痴話喧嘩に巻き込まれてしまったことに。
     三ツ谷さんがボトルから手を離す。瓶は床に落ちて派手に割れ、中から血みたいな真っ赤なワインがこぼれ落ちた。三ツ谷さんが勢いよく立ち上がり、オーナーも三ツ谷さんに勢いよく背を向ける。
    「ごめん、今拭くもの持ってくるね」
    「オレも持ってこよう」
     二人が消えたダイニングに取り残されたのは、溢れたワインと切り分けられたローストチキンにバゲット、食前酒が注がれた花瓶、そして、俺。どうしよう、俺も何か手伝うべきだろうか。でも雑巾の場所とかもわかんないし、二人ともどこかに行ってしまったし、と結局何もできずにお行儀良く席に着いていると、突然、背後から爆発音と何かが割れるような音が聞こえてきた。驚いて立ち上がった衝撃でテーブルが揺れキャンドルの灯が消える。それとほぼ同時に、部屋の電気も消えた。
     停電? そう思ったのも束の間、再び爆発音が聞こえてきた。いや、これ、爆発音っていうか、拳銃の音? 拳銃っていうか、これ、マシンガン?!
     バリバリバリ、なんて到底家の中で聞くはずのない音が部屋中に響く。どこからか放たれた弾はダイニングにも及んで食器棚に無数の穴を開けた。慌ててテーブルから離れアイランドキッチンの影に隠れる。その間にも家中からは銃火器がぶっ放される音が響いて、俺は耳を塞いだ。やばい、なに、何が起こってんだ。三ツ谷さんとオーナーは無事か? 様子を確かめに行こうにもどこから撃たれるかわからないような状況では一歩も動けない。オーナーのSPが聞いて呆れる。しかしこんな状況は一切の訓練になかった。どうしたものかと耳を塞ぎながら身体を縮こませていると、突然何かに肩を叩かれた。びっくりして顔を上げると、そこには身体中傷だらけのオーナーがいた。一着ウン十万の高級シャツが破れまくっている。も、もったいねぇ。
    「おい、オマエ動けるか」
    「いや、動けるっていうか、あの、いったいなにが」
    「三ツ谷が仕掛けてきた」
     オーナーの手には拳銃が握られていた。え、なんで、なんでオーナーが拳銃を持っているわけ? さっきから聞こえてきた発砲音はまさかオーナーのもの? じゃああのバリバリうるさいマシンガンは、まさか三ツ谷さんが?
    「あいつ、オレの話をまともに聞きゃしねぇ。浮気なんてしてねぇつってんのに」
    「ちょ、ちょっと待ってください。二人が喧嘩してんのはわかるんですがなんでこんな銃持ち出す事態になっているんですか」
    「向こうがマシンガン出してきたらこっちも銃出すしかねぇだろうが」
    「わたしが聞きたいのは何で三ツ谷さんがマシンガンを当たり前に持っているのかってことです」
    「そりゃ、反射組織の幹部様だからな。マシンガンのひとつやふたつくらい持ってんだろ」
     反射組織の幹部。いやいや、三ツ谷さんがそんなやばい人なわけないでしょう。料理が上手くて裁縫が得意で気が利いてやさしくて、俺の知っている三ツ谷さんはそういう素敵な人です。決して家の中でマシンガンをぶっ放すようなぶっ飛んだ人じゃない。
     その時だ。アイランドキッチンに身を隠す俺とオーナーの頭上を何かが飛んで、壁に刺さった。恐る恐る見上げると、それは斧だった。斧? ダイニングに斧が飛んでくるってどういうこと?
    「大寿くーん」
     間延びした声が部屋の中に響く。とても恐ろしくてその声の主を視認することはできないが、何をどう考えても三ツ谷さんの声だ。声が近づくたびに足元に弾け飛んだガラスやら皿やらが割れる音が聞こえる。怖い。やばい、殺される。俺何も関係ないのに!
    「三ツ谷」
     すると、俺と並んでキッチンの影に隠れていたオーナーがゆっくりと立ち上がった。拳銃は右手に握られたままだ。よくよく見ればそれはコルトの自動拳銃。M1911。
    「何度も言っているがオレは浮気なんてしてねぇ」
    「何もかも言い訳にしか聞こえないけど?」
    「オマエの、自分の目で見たものしか信じない性格は悪くねぇと思うがな、そろそろオレの言うことくらいは無条件に信じたっていいとは思わねぇか」
     オーナーの声をかき消すようなマシンガンの音。てっきりオーナーの身体が穴だらけになったのかと思ったが、三ツ谷さんが撃ったのはオーナーの厚い胸板ではなく天井だったようだ。オーナーの代わりに犠牲となったシャンデリアが大きな音を立てて床に落ちる。
    「大寿くんのことだからなおさら信じられないんだよ」
    「ひでぇこと言うんだな」
    「……オレが自分の目で見たものしか信じないのは裏切られたくないからだよ。オレが世界でいちばん裏切られたくないのは大寿くんだもん。だから何も信じられない」
     三ツ谷さんの言葉に、オーナーが大きなため息をつく。それとほぼ同時に、右手に握っていたコルトのM1911を床に落とした。自由になった右手がが穴だらけのシャツの内側に滑り込む。どうやら内ポケットから何かを取り出したようだ。ここからじゃよく見えない。
    「大寿くん、それ」
     三ツ谷さんの震える呟きと、マシンガンが床に落ちる音。オーナーがゆっくりとダイニングに向かって歩き出す。俺は拳銃とマシンガンが確かに床に転がっているのを視認して、アイランドキッチンから恐る恐る顔を出した。
     予想以上に酷い有様となったダイニングの真ん中で、シャンデリアを踏みながら歩みを進めるオーナーの右手に光るものが見えた。指輪だった。三ツ谷さんは両手を口に当てて、目をぱしぱしと瞬かせている。そんな三ツ谷さんの左手を掴んだオーナーは、暗闇の中でも確かに輝くうつくしい指輪を薬指に嵌めた。
    「オマエの部下が見た女ってのはルナマナだ。これを選ぶのに協力してもらった」
    「ルナマナ……?」
    「テメェはしょっちゅう貴金属を貢がれるだろう。オレとオマエが揃いでつける指輪が、既に他の誰から贈られたもんだったらたまったもんじゃねぇ」
    「だから、ルナマナに……? そういえばちょっと前に、いらない指輪あったらちょうだいって言われて持ってるやつは一通り見せたけど」
     ルナマナとは、このわけのわからない痴話喧嘩の発端となったオーナーの浮気相手と誤認された三ツ谷さんの妹のことだろう。三ツ谷さんは何もかもに合点がいったのか、オーナーに向けられた殺意はすっかり鳴りを潜めている。今目の前にいるのは、俺のよく知るいつも通りの三ツ谷さんだ。穴だらけの食器棚に床に壁に天井に、足元で砕けたシャンデリアという背景だけがあまりにも異質。
    「こんな場で言うつもりじゃなかったんだが、……オレと結婚してくれるか?」
    「大寿くん……」
    「返事は?」
    「そんなの、もちろん、イエスに決まってるよ」
     割れたシャンデリアの上で二人が抱き合う。それから噛み付くようなキス。何度も何度も角度を変えて、涎をだらしなく垂らしながら互いの唇を貪るような情熱的なキスはしばらく続いて、しまいには唇を噛み合いながら二人は互いの服を脱がし合い、俺が顔を出していたアイランドキッチンに背を預けて抱き合った。首に、背に、胸に、腹に、互いが互いにキスを落として、とうとうオーナーの右手が三ツ谷さんのパンツに突っ込まれた瞬間、俺はアイランドキッチンの陰に全身を隠して耳を塞いだ。
     あん、たいじゅくん、だめ、そこ、あ。三ツ谷さんのあられもない声が耳を塞いだ両手の隙間から漏れ聞こえてくる。つーかこれ、すべてが終わってからオーナーに「テメェ、三ツ谷の喘ぎ声を盗み聞きするたぁどういう了見だ」なんてあの床に落ちたM1911で蜂の巣にされたりしないかな。残りわずかとなった自分の命に祝杯を送るべく、俺は三ツ谷さんの艶かしい喘ぎ声を肴に、床に落ちて割れたボトルの縁にわずかに残ったワインを喉に流し込んだ。くそ、めちゃくちゃ美味いな。最期に飲む酒としちゃあまりにも上等だ。三ツ谷さんの一際甲高い声が、穴だらけの家の中に響いた。

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