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    846_MHA

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    たいみつ。付き合ってない。
    タイジュくんがミツヤくんの家でご飯を食べるただそれだけの話。

    #たいみつ

    時短と愛は反比例時短と愛は反比例

     母が死んで間もない頃、母の作る肉じゃがを食べたいと思い、家政婦に作らせたことがある。父が雇った完璧な家政婦は、一流の材料を使って完璧な肉じゃがを作ったのに、それは大寿が想像していた母の味ではなかった。それからも家政婦が代わるたびに肉じゃがを作らせたが、どれも記憶のなかにある母の肉じゃがの味とは程遠かった。
    (何か隠し味が入っていたのかもな。)
    歳を重ねるにつれて、もう一度肉じゃがを食べたいと言う気持ちも母の肉じゃがの味も、大寿の記憶の奥底に仕舞い込まれていった。
    --
     ひっそりこっそり三ツ谷と仲良くなった大寿は、ときどき三ツ谷の買い出しに付き合うようになり、そのまま三ツ谷の家で夕飯をご馳走になることが増えていった。頼まれるたびに
    「またかよテメエ。」
    と渋る大寿だったが、その実三ツ谷からのこの頼まれごとは彼の楽しみになっていた。なぜなら大寿は、三ツ谷の作る料理が大層気に入っていたのである。大寿自身は、そのことに気づいていなかったけれど。逆に三ツ谷は、一度自分の料理を食べる大寿を見てから、積極的に彼を夕飯に誘うようになった。なぜなら自分の料理を無心に頬張る大寿を、なんだか可愛いと思ってしまったから。
     今日も
    「お一人様1点100円の卵と、大特価のお米を2袋は買いたいんだ頼む!」
    と三ツ谷に頼み込まれて、大寿は三ツ谷とともにもはや馴染みともいえるスーパーへ向かったのだった。
    ---
     「いやぁ、今回も付き合ってくれてありがとう。」
    おかげで一食分浮いたワ、とほくほく喜ぶ喜ぶ三ツ谷と一緒にスーパーを出た。2人の手にはいっぱいの食材が入った袋が下がっている。
    「1000円は浮いたな。さて、夕飯何作るか。」
    「は、1000円くらいで大袈裟だな。」
    「あ、言ったな!1000円を笑う者は1000円に泣いちまえバカヤロウ。」
    両手が塞がっている三ツ谷が、大寿の脛を蹴る。
    「痛ってえ!テメエ脛は卑怯だぞ!」
    「大寿くんがでかいのが悪い。ケツ蹴れねえんだもん。」
    「理不尽すぎんだろ!」
    そんな戯れ合いをしながらルナマナを保育園まで迎えに行き、一層騒がしくなった4人は三ツ谷家への家路を急いだ。
     「おなかすいたー!」
    「おにいちゃんごはんー!」
    無事家に着くと、早速妹2人が三ツ谷の足元に纏わりつく。三ツ谷はその頭を優しく撫でながら
    「帰ってきたら手洗いうがいだろ。」
    と2人を洗面所へと促した。
    「今から超特急で飯作るからちょい待ってて。それまで大寿くんに遊んでもらってな。」
    「いや、俺も作るのを手伝う。」
    このやり取りも、大寿がご飯を食べに来るようになってから恒例となっている。ルナマナの無尽蔵な体力は、あの大寿でさえも恐るほどだった。
    「大丈夫だから、ルナマナ見てて。」
    有無を言わせない三ツ谷の笑顔に、大寿は今回も大人しく部屋に向かうしかなかった。
    「たいじゅ、ひこうきやってー!」
    「マナもー!」
    「順番にやってやるからちょっと待て!」
    大寿の悲痛な叫びを聞いて、三ツ谷は台所で吹き出した。
     「ルナマナに大寿くーん、飯出来たぞー。」
    三ツ谷が3人を呼ぶ頃には、食卓は沢山の料理が並んでいた。
    「たいじゅ!これマナのだいこうぶつなんだよ!」
    「ルナはこれすき!」
    「分かったから大人しく座ってろ!」
    結局ルナマナに全力で付き合い、若干やつれた大寿が慣れた手つきで2人を子ども用の椅子に座らせる。
    (すっかり慣れちゃったねぇ大寿くん。)
    その事実が嬉しくて、三ツ谷はひっそりと笑う。何笑ってんだと大寿が唸ったけれど、全然怖くなくて今度は声を上げて笑った。
     「「「「いただきます。」」」」
    三ツ谷が作った様々なおかずをどれから食べようか迷っていると、一つの料理が目に入った。
    (肉じゃが。)
    まだ湯気が上るそれを一口頬張る。瞬間、大寿の記憶の底に仕舞い込まれていた母の作った肉じゃがの味が蘇ってきた。
    「三ツ谷。」
    「ん?」
    「お前、これどうやって作ったんだ。」
    マナの口を拭きながら、三ツ谷が応える。
    「このレシピめっちゃ簡単でさ、麺つゆと他の材料一緒にレンジでチンするだけ。」
    「ルナ、お兄ちゃんのつくった肉じゃがだいすき!」
    「マナもー!」
    「嬉しいこと言ってくれんなぁ。」
    いっぱい食えよ、と妹達の頭を撫でる三ツ谷を見つめながら、先ほど告げられたレシピを反芻する。めんつゆ。レンジ調理。大寿の記憶の限りでは、母がそのようなものを使っていた記憶がない。
    「気に入ったのこれ?」
    と三ツ谷が大寿に笑いかける。
    「子どもの頃、家で食べた味がする。」
    「...お母さんが作った味ってこと?」
    こくり、と大寿はその巨躯には見合わない幼い動作で三ツ谷の質問に頷いた。
    「...この作り方さ、簡単な上に作るのめっちゃ早いんだよね。お母さん、腹減ってる大寿くん達に早く食べさせてあげたかったんじゃねぇかな?」
    そう三ツ谷に言われて、大寿は朧げな記憶を辿る。そういえば、八戒はお腹空くとピーピー泣いてた。
     3人の分を残さねばと分かっているのに、肉じゃがを口に運ぶ箸は止まらない。すると大寿の食べっぷりを目の当たりにして三ツ谷が笑った。
    「その肉じゃが、八戒もめっちゃ好きなんだよな。今日謎が解けたワ。」
    「?」
    なんだか心の中がモヤモヤする。八戒が小さい頃から三ツ谷家に出入りしているのは、三ツ谷から聞いていた。三ツ谷の手料理を食べる機会は多いだろう。分かりきっていることなのに、そして今更どうしようもないのに、でもなぜか無性に悔しくて。衝動のまま、大寿は三ツ谷に声を掛けた。
    「材料費は払うから、また作れ。」
    「おいおい、もっと別の言い方があんじゃねぇの?」
    ニヤつく三ツ谷に腹が立つが、言ってることは最もなので。
    「俺もまた食いたい、から」
    今度も作ってくれ、という声は恥ずかしくて小さくなってしまった。
    聞こえただろうか、と三ツ谷を見る。三ツ谷はその様子にくつくつと笑いながら
    「いいよ。作ってる間はまたルナマナの面倒見てくれよな。」
    と優しく応えた。
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