Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ナンナル

    @nannru122

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 💜 💛 🌸
    POIPOI 77

    ナンナル

    ☆quiet follow

    魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。

    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    ほんの少しでも仕事を手伝えればと執務室に来たが、余計なお世話だったかもしれん。当の本人は仕事をサボって子どもに夢中の様だからな。もやもやとした気持ちをなんとか抑え込んで、ゆっくりと息を吐く。この分なら手伝いも不要だろう。
    部屋に戻って少し仮眠を取るか。そう思って踵を返そうとした所で、姫が楽しそうに笑う声が聞こえてくる。どうやら、類がまた戯れに姫に口付けたらしい。

    「ん、ふふ、…父様、くすぐったい」
    「はぁ…、大きくなって誰かに貰われる前に、僕のお嫁さんにしてしまいたいよ」
    「……………は…?」

    楽しそうな娘の声と類の呟きが聞こえた瞬間、ピシャン、と雷が落ちたかのような衝撃を受けた。思わず飛び出した低い声は、二人には聞こえなかったようだ。
    その後も部屋の中からまだ何か話す声がするが、一切頭に入ってこない。類のどこか甘やかす時のような声が、嫌に頭に響いて聞こえる気がした。

    (るいの奴、このオレを伴侶にしておきながら、堂々と浮気を宣言するのか……?!)

    もやもやもや、と熱いモノが腹の奥から込み上げてくる。いまだに楽しそうな二人を見ていたくなくて、走る様にその場を離れた。いつもの寝室まで駆け込んで、ばたん、と扉を勢いよく閉める。一直線にベッドまで行き、シーの上に勢いよく飛び込んだ。
    ぼふ、ぼふ、と手足をシーツに叩きつけて、大きく息を吸い込む。

    「るいの浮気者ぉおっ!!」

    ぷくぅ、と頬が膨らみ、無意識に顔を顰めてしまう。
    以前類に『自分の子に嫉妬するな』と言った事があるが、明らかに類の時とは状況が違うだろう。オレの時は育児だが、類は姫を特別可愛がり過ぎだ。お嫁さんは一人で十分だろう。何故もう一人、なんてことになるのだ。全く意味がわからん。
    むっすぅ、とした顔で手近にある枕を掴み、シーツに叩きつけた。ぼふん、と気の抜けるような音しかしないが、こうでもしなければ気持ちが落ち着かない。

    「るいがそのつもりなら、オレにも考えがあるからな」

    きゅ、と唇を引き結び、ベッドをおりる。クローゼットから適当に服を引っ張り出して、それをまとめて鞄に押し込んだ。この際、着たことのない類からの贈り物も持っていこう。後はタオルと少しのお金も。数日分の生活用品を適当に鞄に詰めて、それをベッドの下へ隠す。
    産まれたばかりの双子の荷物も簡単にまとめ、使用人に預けた二人の所へ向かった。

    ―――
    (類side)

    「類、追加の書類持ってきたよ」
    「今日はここまでではなかったのかい?」
    「類が書類を持ってこいって言ったんでしょ?」
    「…僕が?」

    首を傾ぐ寧々に、僕も首を傾げる。
    早めに仕事を終わらせて司くんに会いに行くつもりでいたから、頼んだ記憶が無い。けれど、寧々が持ってきたのなら、そうなのかもしれない。仕方なく受け取った書類を机上に置いて、残りの書類に目を通す。

    (最近つかさくんが疲れているみたいだから、ゆっくり甘やかしてあげたかったのだけど、もう少し遅くなりそうかな…)

    いつもなら仕事を終えて彼の所へ向かう時間だ。追加の書類をちら、と見て深く息を吐く。早く会いに行きたいけれど、仕事を放り出したら寧々が後で司くんに告げ口をするだろう。そうなれば、暫く触れる事さえ許してくれないかもしれない。それは、困る。司くんに触れている間はとても幸せなのに、それが許されないと寂しくて死んでしまうかもしれない。

    (まぁ、彼は優しいから、泣き真似一つで許してくれるのだろうけど)

    そういう扱い易いところも大好きだ。
    仕方ないな、と眉を寄せて呆れた表情で僕を甘やかしてくれる司くんを思い出して、つい口元が緩んでしまう。早く彼に会いたい。意外と寂しがり屋の彼を抱き締めて、恥ずかしがる程甘やかしてあげたい。そうしたら、今度は僕の要望も聞いてもらわなければね。
    うんうん、と一人頷いて、次の書類に手を伸ばす。この時間なら、双子の食事も終えただろうか。今は、寝かしつけている所かもしれない。寝かしつける時の司くんはとても優しい表情をしているから、それもまた愛おしいのだけど、今夜は見れそうにないかな。今回は二人だから何もかもが大変だと言っていたっけ。たまには手伝えと言われたけれど、僕に子育てができるとも思えないから、傍観するしかない。僕の役目は、疲れた司くんを甘やかす事だからね。

    「………類、さっきから顔が気持ち悪い」
    「酷いなぁ。今すぐつかさくんに会いたいのを我慢して、仕事を頑張っているというのに…」
    「ぇ…? つかさなら、あの双子を連れて出掛けたけど…」
    「……………………え……」

    寧々が不思議そうな顔をして、そうはっきり言葉にした。瞬間、ぴしりと岩にヒビが入る様な音がした気がした。手から書類がばらばらと落ちていき、床に広がっていく。僕の顔を見た寧々は、まずいと思ったのかその手で自分の口を塞いだ。
    ガタ、と音を立てて椅子から立ち上がり、ぱちん、と指を鳴らす。「類っ…!」と僕を呼ぶ寧々の声が、掻き消された。一瞬の浮遊感の後、視界に映る室内が執務室から見慣れた寝室に変わる。急いで天蓋付きのベッドへ駆け寄り、カーテンを一気に開いた。

    「………つかさくん…?」

    綺麗にシワを伸ばして整えられたベッドの上には、司くんの姿がない。室内を見回してみるけれど、やっぱりその姿は無かった。それならば、と隣接する部屋への扉を開ける。子どもを寝かしつける時に使用する部屋の電気をつけると、双子用のベビーベッドの中は空っぽだった。いつも置いてある、双子愛用のタオルもない。
    ぞわり、と背が泡立ち、拳を強く握る。以前から、彼が他人に狙われる事が良くあった。彼が魅力的だから、というだけではない。僕が原因となっている事が多々あったのだから。

    「…拐かされた……? 誰に…?」

    彼が自分から出ていくなんて、あるはずがない。
    僕から離れることは無いと、司くんが言ってくれたのだから。僕を好きだと言ってくれた彼の言葉も、愛していると言ってくれた言葉も、全て偽りではないと知っている。彼の本心なのだと、知っている。彼の愛も重たいと、知っている。だからこそ、彼から出ていくなんて、あるはずがない。僕の事が大好きな彼が、僕から離れるはずがない。
    それなら、やっぱり誰かに拐かされたとしか思えない。

    「早く、探さないと…」

    目を瞑って、彼に渡した目印の魔力を辿る。幸い城内にそれがあるのは分かった。場所も離れてはいない。というよりも、どうやら姫達のいる子ども部屋のようだ。
    ホッ、と胸を撫で下ろして、握り締めた手の力を緩める。寧々の言う『出掛けた』は、子ども部屋へ行った、ということだったらしい。彼が無事な様で安心した。焦ってしまったせいで乱れた髪を手櫛で軽く整え、部屋を出る。子ども部屋はすぐ側なので、態々転移魔法を使う必要も無い。僕が迎えに行ったら、彼は嬉しそうに笑ってくれるだろうか。

    「そうだよね。彼が僕を置いて出ていくなんて、あるはずないじゃないか」

    僕を愛していると笑ってくれる司くんを思い出して、自然と肩の力が抜けていく。子ども達と一緒に、僕の事を待ってくれているのだろう。そう思うと、なんだか足取りも軽くなる。仕事を放り出してしまったので、一目見たら執務室に戻らなければならない。その時、キスだけでもさせてもらおう。そしたら、一時間だろうと、二時間だろうと、仕事も頑張れると思うから。
    ふんふん、と鼻歌交じりに子ども部屋の扉の前に立つ。ノブに手をかけ、ゆっくりとその扉を開いた。綺麗に片付けられた部屋は、思っていたよりも静かで落ち着いている。部屋の中央の大きなベッドの上で、三人並んで本を読む子ども達が、僕を見つけてパッとその顔を上げた。

    「父様…!」

    わっ、と目を丸くして驚く三人が、ベッドを下りてこちらへ駆け寄ってくる。一番最初に僕の方へ飛び込んできたのは、この中では一番幼い姫だった。司くんそっくりな女の子の姫は、名前の通り“お姫様”の様に愛らしい。
    母親譲りの綺麗な髪も、大きな宝石の様な瞳も、ころころと変わる表情も、全てが幼い司くんの様で、愛おしくて堪らない。
    ふわふわの夜着を着た姫が嬉しそうに笑う姿に、自然と眉尻が下がってしまう。

    (つかさくんも、普段からもっと可愛らしい服を着てこんな風に笑いかけてくれたら……)

    照れ隠しの様に不服そうな顔で僕を見る彼も愛おしいけれど、僕が大好きなのだと惜しみなく表現してくれる司くんを見てみたい。僕の選んだ服を着て、僕の為に尽くしてくれる彼を、めちゃくちゃにしてしまいたいと、そう思ってしまう。そんな事を言えば、優しい彼は僕の願いを叶えてくれるのだと思う。けれど、僕は彼に無理をしてほしいわけではない。

    (まぁ、姫をつかさくんの代わりにして甘やかしてしまうのも、彼に対する裏切りの様で罪悪感があるけれど…)

    お願いしなくても、姫は僕が大好きなようで笑いかけてくれる。僕が司くんに望む理想の姿で。司くんでは無いと分かっているけれど、どうしても司くんに重ねてしまうのは、彼が双子の世話で僕の扱いが少し雑になっている事への寂しさだろうね。構ってくれていないわけではないけれど、疲れているからか、以前ほど付き合ってくれるわけではない。僕が彼を独占できていないのだということが、悔しいのだろう。僕が欲しがった子どもたちに嫉妬するなんて、また司くんに呆れられてしまうな。
    決して浮気ではないよ、と弁明するために顔を上げると、子どもたちの他にその部屋には誰もいなかった。ソファーで寝ているというわけでもない。ベッドにも誰もいない。

    「…ぁれ、……つかさくんは…?」
    「? 母様は居ませんよ?」

    僕の問いに、第一子のユウが答える。不思議そうな顔をする三人に、僕は指先が冷えていくのが分かった。
    行き違いになったのだろうか。僕がこの部屋に来る前に、彼が別の場所へ移動した? いや、寝室からこの部屋まではすぐだ。曲がり道もない真っ直ぐな廊下で、行き違いになんてなるはずがない。
    念の為に、目印の魔力を辿れば、間違いなくこの部屋にある。それも、僕の目の前だ。

    「………姫、もしかして、つかさくんに何か貰ったかい?」
    「あ、さっき母様が、これを預かってほしいって」

    思い出したように腕を見せてくれる姫の手首に、見覚えのある物が光を反射させてキラキラ輝いている。蝶々のモチーフがついた、ブレスレットにしては少し大きなもの。以前司くんにあげた、目印のアンクレット。

    「……預かって、と、言われたのかい?」
    「はい! 少しお出掛けするから、って」
    「…………………………へぇ…」

    頼られた事が嬉しいのだろう。大事にそれを腕に着けて笑う姫に、口の隅をゆっくり上げて笑顔を返す。ビクッ、と肩を震わせたユウとユイが、僕から姫を遠ざけるのが見えた。思っていた以上に低い声が出ていたらしい。二人の表情が青ざめている様に見えて、こほん、と咳払いをする。怖がらせないようもう一度笑顔を貼り付けると、更に二人の表情が泣きそうなものへ変わった。
    震える長男と長女が、姫を護る様に抱き締める。

    「つかさくん、どこへ行くとか言っていたかい?」
    「なにも。暫く帰らないからって、大きな荷物を持ってました」
    「……………暫く…?」

    姫の言葉に、無意識に笑みが深くなる。
    ユウもユイも震えて声が出せなくなっているというのに、姫の物怖じせずに答えられる所も司くんにそっくりだ。そんな姫にだからこそ、アンクレットを預けて伝言を残したのだろうね。ここまで考えていて、それも『暫く』と言伝を残したという事は、彼の意思なのは間違いないだろう。望んでこの城から出たと言う事だ。
    なんだか不思議と愉しくなってきて、低い笑い声が口から零れた。

    「僕から逃げられるなんて、本気で思っているのかな。すぐに見つけて連れ戻すから、覚悟しておいておくれよ、つかさくん」

    目印が無くても、司くん一人見つけるなんて簡単なことだ。僕の愛が試されているのか、それとも、この城から出てしまえば見つけられないと侮られているのか。どちらでもいい。見つけて問ただせばいいだけだ。以前は地下牢にいたから許せたけれど、自分の意思で城の外に出たならそれ相応の罰が必要だろう。この際、彼が望んだ首輪も用意して、あの部屋から一生出られなくしてあげよう。

    「僕も出掛けるから、寧々達には上手く言っておいておくれ」
    「ぁ、…」
    「手始めに、可能性のある国を一つづつ半壊させていけば、嫌でも出てくるよね」
    「え、…あ、父様っ…?!」

    ぱちん、と指を鳴らせば、体が浮遊感を覚える。最後に息子の声が聞こえた気がしたけれど、三人いれば大丈夫だろう。度胸も力も十分ある。行動力もある。僕が戻らなくても、立派に王を務めることも出来るだろう。司くんを連れ戻したら、子どもたちに任せて隠居もいいかもしれないな。
    ふわ、と風が髪を揺らし、体が宙に浮いたまま止まる。椅子に座る時のように楽にしたまま、夕暮れの色に染まる国を見渡した。魔国の森の中心にある城を見下ろして、人差し指を立てくるりと円を描く。

    「まずは見通しの悪いこの森から、かな」

    久しぶりの高揚感に目を細めると、ぱちぱちっ、と小さく魔力が弾ける音が聞こえた気がした。

    ―――

    類が出ていった後、王の実子三人が城の中を駆け回り、母親である司を探し始めた。その三人の慌てぶりを見た者も、事の顛末を聞いた者たちも、大騒ぎで城内を捜索する。たった五分程で、最恐と謳われた魔王様が溺愛している嫁を探すついでに国を滅ぼしに向かった、と魔国中が大騒ぎになった。
    友好を結ぶ人間の国にも連絡を取り、すぐに司の捜索部隊が各国で編成されたが、その時にはすでに魔国の森が綺麗に伐採され、新興国が一つ半壊した後であった。
    魔国始まって以来のその騒ぎの中心二人は、この騒ぎを何一つ知らない。

    ―――

    「で、なんでここにいるんすか…」
    「旦那に浮気されたから別居することにしたんだ」

    さら、っとそう答えた司に、彰人が額を手で押えて肩を落とした。あからさまに深い溜息を吐いた彰人を横目に、司は両腕に抱く双子の顔を覗き込む様にしてあやしている。司が話しかける度、返事を返すように喃語を発する双子が、小さな手を自分達の口に入れる。そんな双子を見て、へにゃりと口元を緩めた司に、彰人はもう一度溜息を吐いた。

    「今すぐ帰ってください。アンタがここにいるなんて知れたら、その旦那に国が消されるじゃないっすか」
    「人の旦那を悪魔みたいに言うんじゃない」
    「アンタの旦那、最恐最悪の魔王なんですよ」

    何言ってんだ、と言わんばかりの顔で司を見る彰人に、司の表情がムッ、としたものに変わる。
    数年前まで、勇者を募って各国が打倒魔王を掲げていた程の脅威。実際に、魔王である類の臣下達でさえ、類に敵わないのだ。魔族の中でも最強の魔王を相手に人間が生きて帰ってきただけで驚かれるところを、二年程消息を絶っていた騎士がその魔王と結婚の報告をしに帰ってきた。その時の衝撃を、彰人はまだ覚えている。それを成したのが他でもない自身の上司なのだから。

    「今各国が大騒ぎになってるんすよ。数年前に東の大国が一瞬で消し飛んで以来、魔王の逆鱗に触れるなって伝令もでてるのに」
    「あいつは比較的温厚だから、普通にしていれば問題ないぞ」
    「はいはい、そうっすね。その温厚な魔王様が今まさに魔国の森を消し飛ばして、新興国さえ半壊にしているんすよ。次はどこかと皆震えてんのに」
    「それは、大変だな」

    顔を引き攣らせながら司へ笑顔を向ける彰人を見ず、司はさらりとそう返した。交代に赤子の額に自身の額を擦り付けて司が構うと、子どもたちが嬉しそうに きゃっ、きゃっ、と笑う。我関せず、な司に、彰人は眉を釣り上げた。ぷるぷると震える手を膝の上で握りしめて、落ち着くために一度息を吐く。分かっていて素知らぬ顔をする司に、彰人の頭が痛くなる。

    「今回の件、アンタの家出が原因っすよね? 危機的状況なので今すぐ狂乱してる旦那の所へ帰ってください」
    「嫌だ。あいつが動いて半壊ならまだ可愛いものだろう。好きにさせておけばいい」
    「いやいやいや、この国も危ないんすよっ…!」

    ガタッ、と大きな音を立てて彰人が椅子から立ち上がった。態とらしく ふいっ、と顔を背けた司は、『知りません』と言外に訴える。
    司がこの国に来た頃、丁度魔国の森が一掃された。木々が全て消し飛び、国境からは禍々しい魔王城が綺麗に見えるようになっている。森に住んでいた魔物達は、突然住処を失って立ち往生しているらしい。それに加え、元東の大国の跡地にできた新興国は、半壊している。まだ新設されたばかりで殆ど住民のいなかった国ではあるが、今は踏み込むことも出来ない状況だ。
    それ故に、各国が大騒ぎとなっている。絶対に怒らせてはならない魔王が『何故激怒しているのか』と。彰人も先程、有事の際の避難経路や緊急時の対策の話を国王にされてきた所である。自営の護りに騎士団長である司を呼ぶか悩んでいた彰人が一時自宅に戻って来ると、いるはずのない司がそこに居たのだ。
    原因が何か、なんて彰人はすぐに理解した。

    「知らん。約束を破って浮気をしたあいつが悪いんだろう。オレはもうここに住むことにしたんだ」
    「いや、今すぐ帰ってください」
    「どうせ、オレを誘い出す為にやっているんだ。オレに嫌われないよう被害は最小限に抑えているはずだから、放っておいても問題ないだろ」
    「死傷者はなくとも国が半壊されたら大問題なんだよ」

    何言ってんだこいつ、と言わんばかりに彰人の表情が歪んでいく。
    確かに、死傷者は今のところいない。そして、まだ魔国の敷地内の事であり、人間側に危害はない。油断出来ない現状ではあるが、司の言う通り建物の被害しか出ていなかった。他国にも被害がない事も、今魔王の動きが一時的にも止まっている事も、見てはいないが司は気付いている。何年も夫婦をしてきていて、一番傍で見てきた夫である類の考えを、司はよく知っている。類が、『司がされたくない事』も、『何をしたら司が本気で怒る』のかも知っている、と。その一線を簡単には越えない事も。司に許される範囲内の事をして、司自身から出てきてもらおうと考えていることも。
    だからこそ、司も簡単に帰るとは言わないのだ。

    「安心しろ。この国にあいつが手を出すことはない」
    「アンタのその自信はどこから来るんすか」
    「あいつはこのオレが大好きだからな」
    「そんだけ愛されてる自覚があるなら、その旦那のとこにさっさと帰ってくださいよ」

    ぺち、と音を立てて彰人が額を手で押える。
    双子をあやす司は、そんな彰人の方を見ることもない。彰人が無理矢理追い出すこともしない優しい者だと信頼しているのだろう。母親の表情で子どもに話しかける司を見て、彰人はもう一度溜息を吐いた。
    このままでは本当にこの家に泊まっていきそうだ。外はもう暗くて、安易に出て行けとも言えない状況である。一泊程度なら構わないが、居座られるのはたまったものではない。今の司は、いつ爆発してもおかしくない時限爆弾と変わりないのだから。

    「ちなみに、誰なんすか、その浮気相手って。あの隊長を溺愛してるバケモ…魔王様が隊長以外に惹かれる相手なんているとも思えないんすけど」
    「彰人、お前今人の旦那を『バケモノ』と言いかけただろう」
    「気の所為っすよ」

    じとりと疑う様に彰人を睨む司の視線から、サッと彰人も顔を逸らす。
    類の、司への溺愛っぷりは人間の国でも有名である。なにせ、司が城の外へ出るとなると、殆ど必ずと言っていいほど類が着いてくるのだから。今でこそ騎士団の訓練の際は、訓練の終了時間に合わせて迎えに来る時だけになったが、最初の頃は送迎付きで大変だった事を彰人がぼんやりと思い出す。元東の大国なんて良い例だ。一瞬にして消し飛んだ大国に 各国が混乱状態の中届いた知らせでは、『魔王の嫁に手を出した為、東の大国が滅んだ』と伝令が即座に入ってきたのだ。明日は我が身、と分かっていて、誰が司に手を出せるものか。
    そこまで最恐と謳われた魔王に愛された自身の上司に、彰人は肩を落とした。

    「つか、本当に浮気なんすか? 隊長の勘違いとか…」
    「オレ以外を膝に乗せ、デレデレした顔で『僕のお嫁さんにしたい』なんて言っているのを見せられて、浮気でなければなんだと言うんだ」
    「あー……」

    むすぅ、とした顔で彰人を見る司に、彰人も否定が出来なくなってしまった。
    デレデレした顔、というのは見ていないので分からないが、膝に乗せた上に、『お嫁さんにしたい』は確かにそう取られてもおかしくない。それを見ていた司からしたら、浮気となるだろう。司がここまで怒っている理由を、彰人はなんとなく納得出来てしまった。

    (隊長も隊長で、あの魔王を本気で愛してるみたいだし、他人にそんな事言ってるのを見たら、拗ねるだろうな…)

    似た者夫婦なのだ。彰人もそれはよく理解している。存外、お人好しな自身の上司は、身の回りの人を大切にする。人付き合いが上手で、人懐こい。社交的なので知り合いも多ければ、彰人の様に何かあれば司の力になりたいと多くの者が自然に思ってしまえるような人だ。両親を早くに亡くし、たった一人の妹の為に騎士団長まで努力で上り詰めた彰人の尊敬する人である。そんな司が、その妹よりも大切な人を見つけたのだ。
    まさかそれが、この世界を震撼させた最強最悪の魔王とは彰人も思わなかったが。
    むすぅ、としたまま司を見て、彰人は先程までに感じていた焦燥も苛立ちも不思議な程薄れてしまった。最愛の人の愛に不安を覚え、部下である自分を頼ってくれたのだ。そう思うと、早く事態を終息させたいという気持ちも忘れ、司の不安を少しでも拭ってやりたいと彰人は思い始めてしまった。

    「気にしなくてもいいんじゃないっすか? 普段は温厚な魔王様がなりふり構わず隊長の事を探してるんすから、愛されているんですよ」
    「愛されていることは知っている。オレを愛しているくせに姫と浮気をした事が問題なんだ」
    「……………姫…?」
    「彰人も会ったことがあるだろ? 次女の“姫”だ。この双子のお姉さんだな」

    ぐずり始めた片方の赤子をあやしながら、司がさらりと答える。それを聞いた彰人は数回目を瞬いた後、自身の手で額を押さえた。彰人の脳裏に、まだ幼い司似の少女の顔がぼんやりと浮かぶ。司が双子を身篭る一・二ヶ月程前に、彼がこちらへ滞在していた事がある。その際に、見送りで一緒に来た類の腕に抱えられていた幼い子どもの姿を彰人は思い出していた。確かに知っている。三人目だと自信満々に紹介してきた自身の上司に対して、『タフだなぁ』と思った記憶もまだ新しい。
    困惑する思考を何とか一度落ち着かせ、彰人が顔を上げる。そろそろご飯の時間だったなぁ、と呟く司は、赤子の方をじっと見つめていた。

    「隊長、知ってますか?」
    「何をだ?」
    「父親が自分の娘を『嫁にしたい』なんて言うのは、世間では【親バカ】って言うんすよ」
    「オレ以外に愛を囁くのは 相手が娘だろうが誰であろうが浮気だろ」

    すぱん、と一息で言い切った司に、彰人は深い溜息を吐いた。
    司が先程言っていた、“膝に乗せる”のも相手が娘なら納得が出来る。“お嫁さんにしたい”と言うのも、娘が可愛すぎて困る、という気持ちの直訳だろう。そんな事で浮気だなんだと疑われ家出をされては、たまったものではない。愛で盲目過ぎる自身の上司に、彰人は頭が痛くなる思いだった。
    カタン、と椅子を立ち上がる司が、彰人の側まで近付き、「すまんが、食事の時間なので片方抱いてくれんか?」と問いかけた。二つ返事で返し、双子の片割れを慣れない手つきで受け取る。

    「数週間前に産んだばかりだが、首はもう座っているから心配ないぞ」
    「相変わらず魔物の子どもの成長スピード、おかしいだろ」

    からからと笑う司が、持ってきた鞄から大きな布を取り出す。子どもを抱えたままシャツのボタンを外し始めた司に、彰人は慌てて顔を逸らした。

    (いや、まぁ、赤ん坊の食事ってそうだよな…、だからって、少しは恥じらえよ)

    仕方なく横向きに椅子を座り直し、司の方を見ないよう努める。大きな布を肩からかけて肌を隠した司は、彰人の顔を見てまた笑った。司からしてみれば、新鮮な反応である。魔族に恥じらいなどあってないようなものであり、もっと言えば普段からこれ以上の醜態も晒しているのだ。今更部下に見られる程度で司は動揺もしない。
    腕の中で必死に母乳を飲む子どもを愛おしく思いながら、司はくすくすと笑った。それに、なんだかムッとしてしまった彰人が、預かった赤子をそっと抱えなおす。

    「つか、あんたのこれも浮気になるんじゃないっすか?」
    「そうかもしれんな」
    「なら、さっさと帰んねぇと、本気で離婚なんて騒ぎになりかねませんよ」
    「あいつに限ってそれはない」

    即答され、彰人がまた肩を落とす。
    元々一度決めたらやり遂げる頑固な性格をした人だ。臍を曲げたら どんなに説得しても無駄だろう。それこそ、司の妹である咲希にも無理である。可能性があれば、司の夫である魔王様位だろう。だが、その魔王様がここに来た時点でこの国は終わるのだ。司の言う通り国に手出しをしなかった場合でも、今司と共にいる彰人は“魔王のやきもち”という可愛らしい理由で確実に○られる。脳裏ににこにこと笑顔で自分を見下ろす類を想像して、彰人は ぶるっ、と身体を震わせた。
    どう言いくるめたものか、と思案すれば、司が大きく息を吐き出した。

    「言っておくが、ここに来たのは彰人がオレの団の副隊長だからだ。咲希の所は結婚したばかりで邪魔できんし、なにより、すぐ見つかってしまうからな」
    「ここもすぐバレると思うんすけど」
    「信頼のおける部下の所に来ただけだから、浮気にはならんぞ。オレの伴侶はただ一人で、他の者に愛を囁くことなんて絶対にしないからな」
    「………前から思ってましたけど、隊長ってホントにあの人の事好きですよね」

    肩の力を抜いてそう返した彰人に、司がピッ、と背筋を伸ばす。「当たり前だ!」とすぐに返ってきたその言葉に、彰人は苦笑した。
    魔王討伐であの城へ向かった時、彰人は門の前で隊の半分を率いて待機となった。理由は、門番がケルベロスであったから、という少し特殊な理由ではあるが…。司と共に城へ入った騎士は、数日後にばらばらと城から追い出されたが、いくら待っても司だけは城から出てこなかった。やむなく一時徹底して帰国し、時期を見てもう一度攻め入った所で 司の奪還を果たしたが、その司は討伐対象である魔王の伴侶だと言い出した。あの期間に何があったのかを、彰人は詳しくは知らない。ただ、操られていわけではなく、本心から類を好きなのだと話す司の姿に、それならば、と見守る事を決めた。司が魔王城に帰ってすぐの頃、魔王である類が 司を溺愛する姿があまりに異常で面食らったのを、彰人は今でも覚えている。
    きっと、あの最初の二年間で、二人には何かがあったのだ。類の司への愛情が大きいのを知っている彰人は、司がそれを決して嫌悪していない態度に安心してしまう。微笑ましい、という感情に似ているのだろう。司は本当に類を大切にしている。その仲の良い二人の関係が微笑ましい。
    彰人がぼんやりとそんな事を考えていれば、司が赤子を立てに抱いて、とんとんと背を優しく叩き始めた。

    「最初の頃は、どう表現すればオレの想いが伝わるのかと相当苦労させられたからな。疑り深いあいつの為に、かなり努力したんだ。今なら あいつからオレへの愛よりも、オレからの愛の方が大きいと断言出来るぞ!」
    「……いや、それはさすがに無理ないっすか…?」

    ふふん、と胸を張る司に、彰人が苦笑する。
    彰人は、引く程司を溺愛している類を知っている。普通の人間なら逃げ出す重さだ。それを許容出来る司が異常なのだ。
    全く信じていない彰人の言葉に、司がムッ、と顔を顰めた。

    「そんな事はない! 大体、今回だって、あいつが姫を可愛がり過ぎたのが悪いんだ。オレという者がいながら、仕事中にべたべたべたべたして、挙句の果てには『お嫁さんにしたい』だと? こっそり姫にドレスまでプレゼントして、それを着せているのも気に入らん。あいつが褒美に何でもお願いを聞くと言ったから、オレは『オレ以外を愛する事も余所見をすることも許さない』と約束させたのだ。それを簡単に裏切りおって。約束を守らなかった時は出ていくと宣言をしていたのにも関わらず破ったのだから、こうして家出したんだっ! そもそも、娘だからと膝に乗せるのはどうなんだ?!乗せたければオレを乗せればいいだろう?! オレだって着てほしいと頼まれればドレスだってなんだって着てやるのに、態々オレの代わりを見繕う必要がどこにあるって言うんだっ!! 生涯オレだけを愛すると誓っておきながら、冗談でもオレ以外にそういう事を言うのは、オレに対する裏切りだっ…!」
    「重い重い重い重い重い重い重いっ…!!」

    思わず引き気味に遮った彰人に、司がムスッと顔を顰める。まだまだ愚痴があるようで、司は物足りなさそうに唇を尖らせた。けぷ、と小さくげっぷしたのを見計らって、司が彰人の腕の中にいる赤子を引き取る。代わりに、お腹いっぱいになってうとうとしている赤子を手渡して、もう一度椅子に座り直した。慣れた様子で布をかけて授乳を始めた司に、彰人が頭を手で押さえる。

    「そんな事で拗ねなくても……」
    「そんな事?」
    「隊長、目がマジですって。ほんと、変わりましたね、あんた」

    キッ、と彰人を睨む司に、彰人が大きく溜息を吐く。
    まさか、家出の原因が、娘を可愛がる旦那にヤキモチを妬いて出てきた、などと思っていなかった為、一気に彰人のやる気が逸れてしまった。自分の子に嫉妬すんな、と言ってやりたい気持ちを飲み込み、彰人は ちら、と時計を見やる。司がここに来てからかなりの時間が経っていた。夜も遅く、夕飯を食べていない為お腹も空いてきた。早めに終わらせるのは難しいだろうと判断し、今夜は一泊だろうか、と思案し始めた彰人の耳に、司の楽しそうな声が聞こえてきた。

    「そうだ! 姫も随分と礼儀正しく育ったのだが、彰人の嫁にどうだ?」
    「遠慮します」

    にこにこと笑顔の司に、彰人がすぐさま断る。首を左右に振った彰人に、司は変わらずにこにことした笑みを向けた。そのあからさまな笑顔に、彰人の背がぞわりと粟立つ。

    「そう言うな。旦那に似て賢い子だぞ」
    「その旦那に一生恨まれる未来しか見えないので勘弁してください」
    「そうか…、ならば仕方あるまい。彰人が頷いてくれるまで、オレはここを離れられんな…」
    「究極の二択を押し付けないでくださいよ」

    目を伏せて困った様に眉を下げる司に、彰人の口から低い声が出た。
    司そっくりな姫を嫁に貰えば、姫を可愛がる類に恨まれるのは分かりきっている。かといって、司がこのままこの家にいれば、それこそ類が乗り込んできて大事になるだろう。どちらを選んでも面倒くさいことに変わりがない。それを隠しもせず顔に出す彰人に、司がにこりと笑顔を向けた。

    「さぁ、彰人、どっちがいいんだ?」
    「アンタ、あの旦那に似てきましたね」

    にこにこと笑顔で選べない二択を押し付ける自身の上司に、彰人が肩を落とす。
    夫婦というのは、似るものである。彰人は、それを実感させられた気分だった。真面目で堅物だった騎士団長の司が知らない間に結婚したと言うだけでも彰人は驚いたが、重い愛情を素直に受けとってそれと同じだけの愛を返し、優しさとは真逆の狡猾さを身につけ始めている。平和を望む彰人からすれば、そんな上司の成長は全くもって迷惑な話ではあるが。
    どう答えるべきか、と彰人が首を捻ると、突然身体が一気に重たくなるような圧を二人は感じた。ガタッ、と椅子が大きく音を立て、慌てて彰人が立ち上がる。天井を見上げた司は、何かを悟って嫌そうにその顔を顰めた。

    「どうやら痺れを切らしてここまで探しに来たようだな。仕方ない、見つかる前に逃げるか…」
    「いや、もう素直に帰ってくださいよ。あの人が暴れたら、手が付けらんないんで」
    「例え泣いて土下座をされても許すつもりはない。代わりがいれば問題ないのだから、オレが帰る必要もないだろう」
    「そうだね、僕が君を連れ帰れば良い話だ」

    司ですら聞いたことも無い低い声に、彰人がピッ、と背筋を伸ばす。目を瞬いた司の視界が後ろから塞がれ、類が ぱちん、と綺麗な指を鳴らす。一瞬で双子の身体が球体に包まれ、ふわりと宙を浮いた。いつの間にか司の後ろに立っていた類が、顔を引きつらせる彰人に、にこりと笑顔を向ける。司でなくても分かるほど、その顔が怒りを滲ませていて、彰人はサッとその顔を青くさせた。

    「…るっ……、んむ…?!」

    声だけで類だと気付いた司の声を遮る様に、類がその唇を自身ので塞ぐ。彰人に見せ付ける様に、重ね合わせた唇に舌を差し入れ更にキスを深くさせる類が、月色の瞳で彰人を ちら、と見る。バシッ、と強く類の腕を叩く司の体が段々と後ろへ傾き、次第に叩く力を失っていく。倒れないように類の服を掴む手から力が抜けるのを見計らって、類が漸く唇を離した。とろっとその顔を溶けさせた司が、赤い顔で必死に呼吸を整える様に、彰人が息を飲む。
    ふふん、と得意気な顔をした類は、司を横抱きに抱え上げてもう一度指を鳴らした。一瞬にして姿の消えた二人に、彰人は緊張が解け ドサッ、と椅子に座った。

    「………はぁ、…暫く隊長が休むって国王様に報告しておかねぇと…」

    心の中で司に手を合わせ、彰人はもう一度大きな溜息を吐いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💛💜💛💞💞💴💒💯😭💜💛💜💛☺🙏👏💯💴😍👍💜💛💜💛😭👏💖💴🙏🙏😭💜💛💯💴💴🙏💒💘💒☺💜💛👏😭💘💘💘💯💴💴💒💘💖👍💜💛😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンナル

    CAN’T MAKE銀楼の聖女

    急に思い付いたから、とりあえず書いてみた。やつを一話分だけ書き切りました。
    ※セーフと言い張る。直接表現ないから、セーフと言い張る。
    ※🎈君ほぼ居ません。
    ※モブと☆くんの描写有り(性的な事は特になし)
    ※突然始まり、突然終わります。

    この後モブに迫られ🎈君が助けに来るハピエンで終わると思う( ˇωˇ )
    銀楼の聖女『類っ、ダメだ、待ってくれっ、嫌だ、やッ…』

    赤い瞳も、その首元に付いた赤い痕も、全て夢なら良いと思った。
    掴まれた腕の痛みに顔を顰めて、縋る様に声を上げる。甘い匂いで体の力が全く入らず、抵抗もままならない状態でベンチに押し倒された。オレの知っている類とは違う、優しさの欠片もない怖い顔が近付き、乱暴に唇が塞がれる。髪を隠す頭巾が床に落ちて、髪を結わえていたリボンが解かれた。

    『っ、ん…ふ、……んんっ…』

    キスのせいで、声が出せない。震える手で類の胸元を必死に叩くも、止まる気配がなくて戸惑った。するりと服の裾から手が差し入れられ、長い爪が布を裂く。視界の隅に、避けた布が床へ落ちていく様が映る。漸くキスから解放され、慌てて息を吸い込んだ。苦しかった肺に酸素を一気に流し込んだせいで咳き込むオレを横目に、類がオレの体へ視線を向ける。裂いた服の隙間から晒された肌に、類の表情が更に険しくなるのが見えた。
    9361

    ナンナル

    DOODLE魔王様夫婦の周りを巻き込む大喧嘩、というのを書きたくて書いてたけど、ここで終わってもいいのでは無いか、と思い始めた。残りはご想像にお任せします、か…。
    喧嘩の理由がどーでもいい内容なのに、周りが最大限振り回されるの理不尽よな。
    魔王様夫婦の家出騒動「はぁあ、可愛い…」
    「ふふん、当然です! 母様の子どもですから!」
    「性格までつかさくんそっくりで、本当に姫は可愛いね」

    どこかで見たことのあるふわふわのドレスを着た娘の姿に、つい、顔を顰めてしまう。数日前に、オレも類から似たような服を贈られた気がするが、気の所為だろうか。さすがに似合わないので、着ずにクローゼットへしまったが、まさか同じ服を姫にも贈ったのか? オレが着ないから? オレに良く似た姫に着せて楽しんでいるのか?

    (……デレデレしおって…)

    むっすぅ、と顔を顰めて、仕事もせずに娘に構い倒しの夫を睨む。
    産まれたばかりの双子は、先程漸く眠った所だ。こちらは夜中に起きなければならなくて寝不足だというのに、呑気に娘を可愛がる夫が腹立たしい。というより、寝不足の原因は類にもあるのだ。双子を寝かし付けた後に『次は僕の番だよ』と毎度襲ってくるのだから。どれだけ疲れたからと拒んでも、最終的に流されてしまう。お陰で、腰が痛くて部屋から出るのも億劫だというに。
    14289

    recommended works

    のくたの諸々倉庫

    MOURNINGその手を取るために必要なこと/類司
    前に書いてたものその1です。支部に上げる予定は今のところないのでここに。
     好きだ、と。
     震える声で告げた瞬間、類は大きく目を見開いた。
    「……君が、僕のことを?」
     小さく頷く。屋上は夕暮れの色に染まり、風も冷たくなり始めている。きっと今大声で歌ったら、遠くまで響くのだろうな──と。玉砕覚悟の告白故か、オレの思考はいつも以上に平静なもので。
     けれど見つめた類の表情は、案の定明るいものではない。まあそうだよな、というか告白なんかした時点で冷静じゃなかったか、などと頭を抱えかけたとき。
    「やり直し」
    「……は?」
     心の底から、意味が分からなかった。
     こいつの思考回路を理解できないのはいつものことだが、まさか告白の返事より先にダメ出しをくらうとは。けれどそんなオレをよそに、口元に手を当てて考え込んだ類はただ、「もう一度、言ってみせてよ」と。
    「なん、でだ」
    「そうだね、うまく伝わらなかった……というのが主な理由かな。思わずその対象を、僕かと訊いてしまうほどには」
    「ばっ……今ここにいるのは、オレとお前だけだろうが……!」
    「分からないよ、僕の頭上をカラスが飛んでいたくらいだ。それにこう見えて僕は臆病でね、君の『好き』と僕の『好き』が食い違っていたらと思う 2116