ライブの前の勉強にと訪れたアクセサリーショップ。各々が思い思いに店内を見回る中で、一通り店内を見終えた雨彦は、ご機嫌な様子でネックレスを手にするクリスを目に留めた。
「古論はそれを買うのかい?」
「はい!」
大事そうに手にしているそれを、クリスはいたく気に入ったようだ。
「そいつは……カメかい?」
「タイマイというウミガメの仲間だと思います。どんなものが良いのか悩んでいたところを黒野さんに選んでいただきました」
自身が好む海の生物をモチーフにしているからか、事務所の仲間に選んでもらった品だからか、クリスは随分と嬉しそうだ。
大事な仲間とはいえ、恋人である雨彦以外の人間が選んだ品だ。それを喜び身に着けようというのだから、ほんの少しだけ嫉妬のような感情を覚えてしまうのは、仕方のないことだと思う。そういう雨彦も玄武には散々助言をもらい、似合いそうな品まで選んでもらってしまっているので、人のことは言えないのだが。
もちろん、ここで正直に「妬けてしまう」などと口に出して狭量な男だと思われるわけにもいかないので、雨彦の中に芽生えたわずかな感情はそっと内にしまい込まれた。
購入する品が決まったはずのクリスは、何故か一向にレジに向かう気配がない。きょろきょろと店内を見渡して、まだ何かを探している様子だ。
「まだ何か買うのかい?」
「ええ、せっかくなので、自分でももう一点何か選びたいと思いまして……」
そう言いながら店内を歩き回るクリスのお眼鏡にかなうものは、なかなか見当たらないようだ。することのなくなった雨彦も、そんなクリスと共に店内を改めて見て回る。
少しして、シルバーリングが並ぶコーナーで、クリスはふと動きを止めた。
「これにします」
並ぶリングを真剣な顔で眺めていたクリスが最終的に手に取ったのは、細身のシルバーリング。センターストーンとして薄紫の石がはめ込まれただけの、シンプルなデザインのものだ。
「タンザナイトか。お前さんがそういう色を選ぶのは珍しいな」
クリスは普段、海を連想させるような青を選ぶことが多いような気がする。並べられたリングの中には、同じデザインでもっとクリスの好みそうな色の石が使われたものもあるのだが。
不思議そうな顔をする雨彦に、クリスは少し照れたように微笑む。
「雨彦の色だと思いまして。身に着けるなら、これがいいです」
雨彦の瞳と並べるように、クリスはリングを高く掲げてみせた。恋人に自分の色を身に着けたいと言われて、喜ばないわけがない。たったそれだけで、先ほどまで心の中に燻っていたほんの少しの嫉妬心が溶けてなくなってしまうのだから、単純なものだ。
「なら俺も、これを買おうかね」
雨彦も、クリスが手にするリングと同じデザインのものの中から、クリスの色を探す。先ほどのクリスを真似るように掲げて見せれば、クリスはふわりと嬉しそうに笑った。
「お揃い、ですね」
「たまにはこういうのも悪くないかと思ってな」
もちろん、二人そろってあからさまに指につけるわけにもいかないだろうが、チェーンに通してネックレスとして使えばいいだろう。
二人で形として同じものを持つことを、それもいいと思うことができるようになったのは、雨彦の心持ちの変化によるものだろうか。
昔の自分がどう言うかはわからないが、今の雨彦はそんな自分も悪くないように思えた。